第6話 放浪

 またもや昼ギツネ課長に引っ張り出される。

 課長は訪問先の情報もくれないし、会合の目的も説明しない。

 そういえばこの課長はG社の課長をやっている数年の間に課内会議をただの一度も開かなかった。会議ばかりをやる課長も問題だが、全くやらない課長はもっと大問題だ。

 つまり昼ギツネ課長は部下のコミュニケーションを取るという管理職の大事な仕事を一切学んでいないのである。だからサボリーマンたちはサボリまくり、自発的に働くウチのチームは誰知られることもなく働きづくめとされたのだ。

 地位が人間を作るとは言うが、それはその地位を持つことによる自覚があって初めて成立するものであり、ただその席に座っていれば良いというものではない。


 昼ギツネ課長に連れて行かされた先は家庭用ゲーム機のグラフィック関連の制御モジュールを作っている会社だ。

 相手から事業の内容を聞き、こちらのスキルを説明する。

 是非とも欲しいと言われる。こういったモジュールを扱える人間が手に入らないのだと。


 これは好感触だなと感じて、そのまま引き上げる。もしかしたら仕事が貰えるかもしれないと期待する。


 ・・それで終わった。

 それ以来何も音沙汰がないのだ。

 どうやら昼ギツネ課長は私を相手に引き会わせさえすれば私が勝手に売り込みをかけて話を締結すると思い込んでいたらしい。つまり会わせたあとは全自動ですべてが進み私がこれが上納金ですどうぞお納めくださいとお金を差し出すと考えていたわけだ。

 一方こちらは昼ギツネ課長が話を進めていると思っているので没交渉である。それはそうである。課長の頭を飛び越えて契約の話をするのは間違いなく越権行為だ。

 どちらも相手が進めると思って何もしないのでは、当然の如くに何も進まない。


 時間だけが無駄に過ぎていく。

 貯金だけが減っていく。遠くに見えていた首吊りロープが少しだけこちらに近づいて来た。

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