081 tr25, back in time/ふりだしに戻る

ーーーーーーーーーー

【AD:2120年, 革命新暦:198年、夏】



「ふう、あと一息じゃな」

「私の方も大詰めになってきましたからね」

「なんじゃ、あの寄生虫まだ手間取っておったのか」

「ようやく付与する寄生生物の調整が終わって、これから生息環境の整備に入りますからね」

「あれ、生物そのものの調整はずいぶん前に終わっとったんじゃないのか?」

「そりゃもう。農奴相手の用途とはいえ、メンテナンスもなしに100年単位で飼育できる生息環境なんてそうそう出来ませんから、微調整で数年なんて短い方ですよおじいさん。

 もう一人の子…なんだったかしら、グリグリくん?の方も寄生生物案を採用したんだけれど、彼の場合は用途は似ても運用法が異なるから、そちらとの連携でも遅れが出ちゃってね」

「最初のドラクルって子の方は、胃腸に寄生虫を飼うんだったか?」

「そうそう、食道から胃にかけてフッ素樹脂でコーティングして、胃をメインに寄生生物の女王を生息させるの。

 この女王は強烈よ、以前の設計通り子世代の鉤虫は耐性のないホモサピエンスに感染すると、女王の分泌するホルモンを求めてホモサピエンス側を強制的に恭順させるの。

 出来ないとお仕置きね、フフフ。

 その代わり女王側は子世代へ恭順を約束させる化学物質を与え、主従の関係を成立させるわ。

 化学物質は今準備中だけれど、自然界から調達は難しいかもしれないから、おサルくんに担当してもらうかもしれないわね。

 それに今後彼の主食は女王に合わせて、農奴の血液を摂取する事になるわね。下手に通常の食事に合わせると、体内環境が悪化して酷い下痢を起こした挙句、女王が暴れるわ」

「物騒じゃのぅ…。

 しかし人間の血液なんぞ、感染症の温床じゃないのかの?」

「そのためのコーティングよ。彼の寿命は他より少し長いけれど、フッ素系オイルの樹脂ならそれでも十分耐えられるわ。

 女王を大事にしている限り、彼の寄生生物ライフは保証されたようなものよ♪」

「ゴキゲンじゃな。まあここまで手間のかかる付加要素なんぞ、他の研究機関はおろか学会でも理解してもらえんじゃろうからのぅ」

「そうよ全く、研究者の好奇心の追及はどこ行ったのよ…ブツブツ」


「そ、それよりも、もう一人の…グリグリくんじゃったか?彼の方の仕様はどうなんじゃ?」

「彼へのプレゼント(寄生生物)は、どちらかというと治療用途に向いてるわね。

 外傷の治療でハエを使うのは聞いたことあるかしら?

 患部周辺の腐食した組織をハエの幼虫、蛆虫が摂食して回復力を高めることが知られているけれど、それを応用して通常増殖しない臓器細胞を増殖させつつ修復させる機構を持つ寄生生物の女王を開発できたの!

 さすがに免疫系や増殖エラー系の癌は対応できないけれど、これで彼の治癒能力は飛躍的に上がるはずよ」

「つまり、内臓系の疾患だと体内に蛆虫が徘徊することになるんじゃな」

「そうね。私ならまっぴらごめんだけれど」


「人様に施す技術とは思えんのぅ…

 そういえば、マリアベルから他にも何件かリクエストがあったかの」

「ええ。ちびっ子のアジンちゃんと巨人のメドベージェフくん、あと顔に火傷のリザちゃんね」

「あの子も頑なじゃの…彼女らはどうするんじゃ?」

「アジンちゃんとメドベくんは、ドラクルくんと似た仕様かしら。

 ただ彼女らは子世代の体外感染力無しで身体能力強化の上乗せさせる機能程度だから、ノルアドレナリン分泌の補助とかその程度で良いと思うわ。

 母体に負担掛けると、身体機能や全体寿命を縮めちゃいますからね。

 リザちゃんは本人の希望もあって、寄生生物無しの左眼だけ換装ね」

「長い間、ただの義眼じゃったからの」

「ええ、とはいえ視神経経由でできる事なんてタカが知れてますからね。

 暗視と一次記憶の追加が精々かしら。

 暗視は猫と同じく杵体細胞の追加と虹彩の強化で行けますが、記憶野は…どうかしらね」

「脳構造は長らくワシもいじっておったから、そこは協力しようかの。

 他の子と違って、エリザヴェータはちょっと特別扱いじゃな」

「そりゃそうですよ。だってホラ…ねぇ?」


「あっ、ああそうじゃったの。

 すっかり忘れておったわい。

 それよりあの、おおそうじゃ、10グループのおサルさんの調整は進んでおるんかの?」

「ええ、彼も可哀想な子ですけれどね。

 所長からは失敗扱い、仲間たちからはつまはじき、本人のモチベーションも最悪ですからね。

 もう分泌物質生産プラントとしての期待しかされていませんから…」

「今のところ主要用途はドラクルくんやグリグリくん、アジンちゃん、メドベくんの補助、要は寄生生物のメンテナンス用成分の分泌程度じゃろうな。

 下手に母体の寿命が長いと、補助が必要になるのは仕方ないのかのぅ」

「人体は、自分に必要な成分を100%自己生産できるわけじゃありませんからね。

 ましてや体内に異物を保存すると、どうしても無理が出てしまいますから。


 そういえばおじいさん、マリアベル所長の人格転移の方は順調ですの?」

「ああ、そっちはたぶん行けるじゃろ。

 資本主義世界からの転移組も実験体に使えたし、今は農奴で調整段階じゃ。

 実用は年内と云ったところかの」

「そちらも大詰めね。

 あと何年もありませんから、最後まで頑張りましょう」

「そうじゃな、ここまで来たらやり遂げねばのう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る