082 tr26, tom sawyer/トム・ソーヤ

※今回は残酷描写を含みます、苦手な方はご遠慮ください。





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【AD:2120年, 革命新暦:198年、秋】



そろそろ寒さも身に染みる、ある秋の日。

例によって監視の目をかいくぐって少し遠出し、施設の敷地内にあるバルハシ湖から流れ出るイリ川のほとりを散歩していた時のこと。


「ふー危なかった」

川からびしょ濡れの男の子達がザバザバ上がってきた。

「あれ、キミらどうしたの?この上流って立ち入り禁止じゃなかったっけ?」

「うおっ、人がいたよ!

 俺たちゃあすこのほとりにある殺人建物から逃げて来たんだよ。

 悪りぃ」けど内緒にしてくれよ!すぐ居なくなるからさ!」

「殺人建物って?あそこの白い建物がいくつか建ってる辺りの事?」

「そうそう!あすこの四角いヤツの辺り全部!

 昔は募集だーって人を集めてたらしいんだけどよ、最近は人狩りで捕まえた俺たちみたいな人間を閉じ込めて、みーんな殺しちまうんだってよ!

 俺たちだって死にたくないからな、子供だけでもって逃がしてもらったんだ」

「えー、そんな風に言われてるんだあそこって。

 ここまで逃げたはいいけど、あとどうするの?」

「わかんねーよ、でも道まで出ればどっかの集落に辿りつくだろ。

 そしたら手伝いでも何でもして生き延びるか、いづれは家に帰る!」

「そっか…大変そうだね。

 俺もこの辺の子じゃないからよくわからないけど、最寄りの集落に続く道路なら向こうだよ」

「おっそうか、ありがとよ!

 よーしお前ら、走って逃げるぞ!あんがとよ!」

心配だけど、時々見かけるからなあ脱走農奴の子達。

無事逃げられると良いんだけど。



…施設に戻るなり、嫌な連中に会っちゃった。

「やあシティア。いつも鍛錬ご苦労様。

 ところでまた農奴の連中が逃げたようだけど、何かしらないかい?」

「知らないよ。なんでア・ベ・ル・様達がわざわざ探し回ってるの。

 いつもならPCBか警備職員の仕事でしょ」

「ちょっと特殊用途に使おうと思っていたんだけれど、湖に飛び込んでしまってね。

 複数人いたから数名は捕まえたんだけれど、3名ほど逃してしまった。

 日々偵察しているシティアなら知ってるかと思ってね」

「なんの話だよ、全然覚えがないな」

「そうか、川方面にでも逃げたかと思ったけれど、知らないか。

 見かけたら僕らの誰でもいいから、教えてくれ」

「ああ」

判ってて云ってるのか、まあ本当に行き先は知らないからスルーしておこう。



男の子達と会ってから数週間。

「やあシティア、先日逃した子供達は探してくれたかい?」

「…チッ、知らないって云ったよ。

 俺だってそんな暇じゃない、授業やイニシエーションの予定が詰まってて忙しいし」

「そうかい。

 僕らの方で逃した3名のうち2名を見つけてね、その処遇を君も一緒に見てもらおうと思って」

「忙しいって云ったよ」

「大丈夫、講師たちには話をつけてある。

 それに、君の好きなユリアとリザも行くから、一緒について来たまえよ」

「嫌だと云ったら?」

「拒否権は認めない。さあ、行くよ」


集められた部屋には、候補生全員が揃っていた。

アベル様は拘束された子供たちの脇に居る。

そして部屋の出入口には、マリアベル所長以下数名の職員も控える。


「離せー!俺たちゃ何も悪い事ぁしてねーだろ!

 攫われて閉じ込められたから帰ろうとしただけじゃねーかー!」

「フフ、もう君らの家はないよ。

 それに君ら、畑から生えるんだろう?最初から家なんて必要ないさ」

「バッカヤロー!人間が畑から生えるかっつーの!

 これだからお貴族様達は嫌なんだよー!

シャカイシュギはみなビョードーじゃないのかー!

 父ちゃんと母ちゃんもどっかいっちゃったし、なんだよこれー!」

「あいにく僕たちは父も母も居ないし、君の言うことは判らないな。

 さて、そろそろ解体を始めようか」

「え…?」


「このように、対象が生きたままで臓器摘出をする場合は拒絶反応を抑える必要がある。

 他の獣に比べれば農奴は捕獲しやすいし拘束も容易だが、四肢の可動範囲が多様なため予め捉えておくための工夫が必要。

 また部位によっては出血が多いので、切開方法には注意が必要だ。

 内臓自体に感覚器官はないが、生きたままで目的別の臓器摘出は拒絶の度合いが異なるから、各人注意するように」

なんだこれ…

コイツ、なんで今こんなことやってんだよ。

グリゴリやユリアは医療の授業で知識はもうあるだろうし、銭湯や暗殺メインの連中はそれ目的の授業だってあるのに、直接関係ない俺やリザまで呼んで…

解体された子は既に白目を剥いて時々身体を痙攣させながら、気絶してる。

アベルの野郎は上気し、愉悦の表情だ。



「我々転移小隊は、全ての隊員があらゆる場面に対応できなければならない。

 直接農奴とやり取りをする場面の少ない者も、こういった生体反応に慣れておきたまえ」

この茶番はマリアベル所長の仕込みか。

「そろそろアベルも転移の準備をせねばならんからな。

 全員一丸となり、事前にお前たち候補生の不安を取り除き、アベルこそ指揮官であると見せつけてやらねばならん。

 あと1年と半年だ、こういった特殊授業を開催することもあるので、各自対応するように。

 特にシティア、取りこぼしはせず呼出があれば即時出頭したまえ」


…嫌だなぁ。

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