080 tr24, dangerous heritage/危険な遺産
ーーーーーーーーーー
【AD:2120年, 革命新暦:198年、春】
冬至が過ぎ、18才の誕生日会も済んだ。
俺は相変わらず動き回ってるけど、動きすぎも良くないとPCBに注意されたので、楽器を習い始めた。
というのも冬至はクリスマスパーティ期間と云われ、3日間ほど続けて夕食は立食形式だった。
そこで、初めて生演奏の音楽を聴いたんだ。
泣きそうだった。いや、多分泣いていた。
いつも辛い目にあう度、僕らはせいぜい映像で見た大掛かりな交響楽団くらいしか慰めを知らなかった。
でもなんていうんだろう、規模は小さいのにとても大きなものに包まれて、身をゆだねていられる安心感があったんだ。
演奏はチェロっていうのかな、大きくて縦置き用の足が付いていて、弦が4本ついてて。
一台だけでも音階が広くて、それが四台。
奏者はケーにいちゃんをはじめ、職員有志達だった。
彼らに楽器の演奏が許されてるなら僕…いや俺も!と職員に交渉を持ち掛けてみたら、あっさりOKを貰えた。
しかしその後は頂けなかった。
アベル様、まさかあそこまで音痴な人がいるとは…
しかも周りの人以外は皆苦虫をかんだような顔をしてるのに、本人は至って気持ちよさそう。
だれか注意してやりなよ、アレはそうとう酷いよ…
ただ、その隙を狙ってフーちゃんがナージャちゃんにプレゼントを渡してるのはバッチリ確認した。
気持ちを伝えるなら贈り物をするといいよ、ってアドバイスしたのが効いたみたい。
フーちゃん、時々すごく辛そうな顔してたもんね。
どんなものあげたのかな…ってそれは聞くだけ野暮かな。
最近はすっかりナージャもリザもアベル様の取り巻き扱いだ。
彼女ら心酔した様子でニコニコ従ってる、表面上は。
ユリアも裁縫や課題が忙しい態で、上手くかわしてる。
俺?大体監視の目がどこを見張ってるか調査が済んだから、目立たないようにしてるかな。
監視の裏をかいて連絡役をしてるけど、四姉妹同盟の娘たちだんだん過激な物言いになっててちょっと心配。
奇妙なことに、ケーにいちゃんのところは監視が少ない。
PCB達から『いいよなヴォルケインは、所長のオキニだもんなー』なんて陰口云われてるけど、だからと言って本人は気にするそぶりもない。
っていうか、背が高すぎて表情あんまりわかんない。
彼自身はいいやつで、自分から発言はほとんどしないけど、聞かれたことはちゃんと答えるし、知っていることは丁寧に教えてくれる。
フーちゃんやメドやんとよく組手やってるしね。
俺も授業でフィドルを習うようになって、よくケーにいちゃんにも教わりに行ってる。
楽器の演奏は感覚や身体で覚える系統だから、イニシエーションでインストールし難いんだって。
最初はガラスを金属でひっかいたような酷い音しか出なかったけど、ようやく簡単な曲なら弾けるようになったよ。
『アベル様の歌よりはマシになったでしょ?』と話を振ったら、ちょっとだけ笑ってくれた。
シャス&シスは、ほとんど姿を見かけない。
『今までサボってたツケだ、寝る間も惜しんで授業だ』なんてかっこつけて行ってたけど、1年以上経ってるのに自分で言い出したことを守って授業受けてる。
シスなんてエラくスマートになって…と期待して授業を覗いたら、相変わらずでずっこけそうになった。
シャスに聞いたら『アイツは動いた以上に食べるからな、けど皮膚の下は脂肪から筋肉に替わってはずだぜ』だって。
二人とも、カッコイイな。
一方サルは、調子が少しおかしい。
以前ほど女の子に執着しなくなった…というより、独りでボーっとしてる時間が増えたみたい。
存在感がまるでない。
探し出して顔を覗き込むと、ひとり百面相してる。
声をかけるのも躊躇われるので放置してるけど、アイツこれからどうなるんだろう?
ーーーーーーーーーー
【AD:2120年, 革命新暦:198年、夏】
異世界の転移まで、あと2年を切った。
いよいよ本格的に個別指導が本格化して、外部から農奴と云われる人たちの受け入れも多くなってきた。
職員たちは彼らの事をヒトモドキ、なんて表現してるけど、俺らと何が違うんだろ?
「生物学的には、何も変わらないわね。
彼らはこの国、SSSRで最も低くまた最も多い身分の人間の総称で、”農業に従事する奴隷”と思っていいわ。
私たちはデザイン・コントロールされた遺伝子で作られた個体だけど、彼らは自然分娩で生物として通常の営みを送ってるの。
所長や博士たちは彼らを支配する側で、彼らの生産する資源を吸い上げ、使い方を決めてる。
農奴たちはこの施設だけじゃなく他でもだいたい同じ待遇で、命の価値はうんと低いわね」
おっと、ユリアの触れちゃいけない部分だったかな。
農奴って言われる人たち、老若男女居るけど、やっぱりただの人間なんだね。
フーちゃんやナージャ、メドやん、アーちゃん辺りは以前から訓練のためと称して殺害方法や狩猟の仕方を教わってたけど、恐ろしいことしてたんだな…
この国は、溜息をつくほど命が軽い。
俺たちもいづれ、支配する側かされる側になるんだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます