070 tr17, black room/黒の部屋

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【AD:2118年, 革命新暦:196年、春】



「おはよう、シティア。ちょっといいかしら?」

「おはようリザちゃん、どしたの今日は?」

「今晩暇かしら?」

「うん、ユリアに届け物を頼まれてたけど、それ終わったら大丈夫だよー」

「そう、なら何時でも良いから私の部屋に来て頂戴」

「あいよー」


「くっ、またシティアだけ…しかも夜に。

我輩はそんなに信用ないでござるか!」

「ああ、今日も美しいな」

「それはまあ、その…

 なぜ顔だけ治さないのでござろうな?元に戻せばその美貌は世界一であろうに」

「ドラクル氏は夜半にリザ殿から呼んでもらいたいのか?」

「そ、それは、その…グリゴリはそういう関係になりたくないでござるか?」

「よくわからない。いつも見ている姿より、特別なリザ殿が見たい。

 今いろいろと試しているが、他では満足できない」

「そうでござるな…いつかはリザ殿の特別になりとうござる」

「ふんが」



「ユーリアっ、お待たせー」

「シーちゃん、わざわざありがとね。

 そうそうボタンってなかなか手に入らないのよ、私たちの服のは直ぐに回収されちゃうから。

 他の小物もそうだけど、これってどうやって手に入れてきたの?」

「シャスがね、独房でヒマだからって作ってくれるんだよ。

 その分勉強すりゃいいのに、そっちは身が入らないみたい。

 でも頼めば悪態つきながらいろいろ手伝ってくれるし、良い娘なんだよなー」

「えっ、シャスチって女の子だったの?」

「そだよ。本人も伏せたがってるから皆知らないっぽいけど。あ、内緒ね?

 だからお礼の差し入れは後で箱に入れて隠せる分だけ、って約束。

 ついででシスにも山盛りご飯差し入れてるし、文通を仲介してるから落ち着いてる。

 落ち着いたと云えば、スーちゃんトゥリちゃんどう?」

「相変わらず、昼間は出て来ないの。

 こちらから声をかけるのも何を言ったら良いか分からないし、新しいPCBたちはその辺我関せずだし…

 時々物音は聞こえるからどっちかは必ずいると思うけど、どうなってるのかさっぱりだわ」

「そっか…。

 でもそうすると、一人いないかもしれないんだね」

「ええ、ただ何も手掛かりはないから、何かわかったら教えてね」




「お待たせー、ちょっと遅くなっちゃった。

 最近ユリアが手芸にはまってて皆に似せた人形を作ってるんだけど、材料が足りなくてさー。

 うまーく調達するのにあちこち回るから時間かかっちゃって」

「彼女も多芸ね、私とは方向が違いすぎて、もう羨ましいとすら思わないわ」

「暖かくなってユリアとリザが仲良くしてるみたいで、僕も嬉しいな。

 それで、どうしたの?」

「…まずは部屋に入って、寛いで頂戴」


「…深刻な話?」

「ええ、また14の子達を見かけた、と情報を受けたわ。

 最近グリゴリが火遊びをすることが多くなったの、これ自体はまあ本人の好きにすればいいと思うけど、職員から農奴を受け取る際に例の特別棟へ14の子達を連れて行くのを見たそうよ」

「グリゴリ、そんなこと始めたんだ…なにやってるのか、詳細は聞かないでおくよ。なんか怖い」

「ええ、そうね。

 それで特別棟へ入る前、14の子は別棟の上の階から降りてきたみたいなの」

「僕ら、別棟は1階しか入れてもらえないからね」

「そう、しかもあそこの建物は3階に渡り廊下で塀の外の建物につながってるでしょ?

 もしかして、消えた子達はあそこに収容されてるのかも…」

「人の出入りやセキュリティチェックを調査する必要があるけど、たしかにあっちの方はあんまり行ったことないかな。

 探ってみて、他の子達がどうなったか調査してみる…うん、しばらく時間をもらえる?」

「ありがとう、こういう事にかけてはシティアは本当に有能ね。

 最近メドベもよく一緒にいてくれるようになったけど、ドラクルといいグリゴリといいほんと小回りの利く子はいないんだもの…」

「アジンちゃん、うまく活用したら?

 ナージャと一緒にいるところしか見ないけど、あの子も裏で動くの得意だよ」

「07の?ああ、普段からして影薄いものね。

 ナージャ経由でいろいろやってもらおうかしら」

「二人とも繊細だから、お手柔らかにね…。

 あとそっちの線で動くなら、フーちゃん外すと拗ねるから気を付けて。

 フーちゃんはナージャ一筋だから」

「フセスねぇ、狼君ならメドベにかけあえばうまく行くかしら」

「そうそう、リザちゃんもだいぶ人間関係に慣れてきたね。うん、今日もかわいいよ」

「そ、そういう話は、私をちゃんと選んでからにしなさい!もう…」

「あはは、情報ありがとね!

 だいぶ遅くなっちゃったから、また明日。おやすみー!」

「うん、おやすみなさい」



…あの儀式めいた集まりで14の子達と一緒にいたドベちゃんは、きっと同じところに収容されてる。

でも時期尚早だ、まだ聞いたばかりで何もわからない。

逸る気持ちを抑えて、これからどうするのかよく考えよう。

ダッシュしそうな自分を抑え、リザの自室を後にした。

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