069 bonus03, Its my life/我が生命
ーーーーーーーーーー
【AD:2117年, 革命新暦:195年、冬】
俺はメドベージェフと呼ばれている、身体は大くなったがまだまだ未熟者だ。
俺は施設で育った。
ここでは最初から親はなく、DDTと呼ばれる職員に養育された。
生活に支障はなく、むしろ恵まれていたのではないだろうか。
外出の自由はなかったものの行動に制限は少なく、身体も軽かったのでよく職員を相手に剣術を指導してもらった。
昔を考えれば、非常に恵まれている。
そう、俺は転生者だ。
絶対の秘密にしている。
見つかるとあの老人博士共に実験体として玩具にされかねないし、第一言ったところでなにも良いことは無いからだ。
元来の無口も功を奏し、今のところ誰も気が付いてすらいないだろう。
生まれ育った施設の子供らは先天的な障害が多かったのだろうか、処置室と呼ばれる特別室へ運ばれると皆戻らなかった。
俺もいつ体調不良に襲われるか怯える幼少時代を過ごしたが、幸い生き残ることができた。
最終的に生き残ったのは自分一人だったが。
10才の誕生日だっただろうか、引っ越しを命ぜられて移動した先がこの施設群だった。
サイシャガン、と言っていた。
初めて俺の知る場所の名前が出てきた。
サリシャガン!
カザフスタンだったろうか、中央アジアの栄えた国だったはずだ。
思わずPCBに聞いてしまった。
「ここは何という国ですか?」
「おやメドベージェフ、身の回りの事に興味が出てきたのかね。
ここはソビエト社会主義共和国連邦、Union of Soviet Socialist RepublicsだからUSSRと略す人もいるけど、そういう意味ではSoyuz Sovietskikh Sotsialisticheskikh RespublikでSSSRだね」
「あれ、我々の言葉ではCCCPになるのでは」
「ああ、ロシア古語ならСоюз Советских Социалистических РеспубликでCCCPだねぇ、偉いなメドベージェフ、よく知っているね。
150年ほど前の戦争で我が祖国はヨーロッパを席巻してね、様々な文化を接収して大幅に豊かになったんだ。
その時の影響で、イングランドやスコットランドの言葉も巻き込んで一大繁栄圏を誇った際に入り込んだ言葉じゃないかな」
「それでは、いまのSSSRは」
「ああ、その後2度ほど世界中を巻き込んだ大戦があって、現在は極東の大日本皇国、極西のドイツ第三帝国、そして我らがSSSRが三大強国として君臨しているよ。
ただ近年のエネルギー問題で各国とも険悪になっててねぇ、3度の大戦で敗北した南北アメリカや南アジア方面はキナ臭くなってるみたいだよ。
キミら工作員はエネルギー問題に対する外交(戦争)に頼らない平和的手段の一つだから、皆期待してるよ」
俺の育った世界は、転生前とはまるで違うところらしい。
歴史の授業でソ連、という言葉は聞いたことがあるかもしれない。
だが、少なくとも世界大戦は2度までだ。
日本は日本国だったし、ドイツは南北に分断され、再統合されたと近代史で習った。
完全に言いそびれた…
だが、だからといってどうすればいいのか。
今の俺には関係ないのでは?
今いる環境で生き抜いて、今度こそ大願を成就してやる。
幸い周囲は俺に強くなることを求めている、学習の環境まで与えられている。
以前の身体に比べても異常なほどの膂力と反応速度だ、これならば格闘技や剣術の訓練強度を上げても耐えられるに違いない。
あの01と言われるヴォルケイン、奴にも勝つことは出来るかもしれない。
等と思っていた矢先、事件は起こった。
グループの中で比較的友好的で可愛いと思っていた14グループのエリザヴェータが、火災に巻き込まれた。
かなり強い火傷だったようで、施設の職員は大慌てで治療に当たっていた。
俺は、近くにいたはずなのに。
チビで仲良しのシティアと身体を動かしすぎ、役に立たないどころか足手まといだった。
エリザヴェータの取り巻きのドラクルがあんなに泣き叫ぶのは、初めて見た。
俺の体力が万全だったら、フセスラフやナージャと交代で救助に向かえたのではないだろうか。
治療を終えて皆の前に姿を現したエリザヴェータは、顔に大きな火傷の痕を残していた。
目の色も右と左で違い、左目は義眼だと言っていた。
だが以前より人当たりは良く、俺に対しても『リザでいいわよ、私もメドって呼ばせてもらうわ』と親しみを込めて話しかけてくれた。
あの日の出来事は辛くないはずはないんだが、彼女は乗り越え、きっと強くなって前を見据えるようになったのだろう。
転生したからと、次の人生が薔薇色だというのは幻想だ。
以前の知識とて、この施設のように今の方が先に進んでいたのでは役に立つことも少ない。
何より倫理観が違いすぎて、下手な口出しができない。
出来る事は、今の己を高めて皆に認めてもらう事。
せいぜい役に立つ人間だと思わせ、生きてゆくしかない。
一番強ければいい。
なんだ、転生前と変わらないじゃないか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます