045 tr39, all I want/全ては己が望み
「やあ、無事に帰ってきて何より」
「土産は検分したか?
毒薬混じりだから気をつけろよ」
「ウィリアムくんやその道のプロたちが検めているさ。
まあそこへ座りたまえよ」
「ヨルグは?」
「エルマー兄さんに同行したまま、しばらく向こうへ滞在予定だ。
懐中時計は役に立ったかい?」
「ああ、追加オーダーのエルンさんが助かった。
依頼も終わったから、こいつは返しておく」
机に銀の懐中時計を置く。
「いや、それはキミに差し上げよう。
今回の報酬も清算してなかったね、ヨンネ、出して」
ヨルグとは別の巨人がおもむろに巨大なアタッシュケースを取り出す。
「確か一日あたり銀貨10枚だったか、エルンの分も含めると30日でいいね。
それからティナ姉さんの助かった分にドラクルの手下を撃退した分、フランケンスタイン村の件も加味して、金貨6枚と銀貨50枚でどうかな?」
金貨1枚で銀貨100枚相当だ、普段こんな大金持ち歩くことはないが断る理由もない。
「分かった、それでいい。
金額よりも依頼の際の約束は忘れるな」
「ははは、そうだね。
それで次の依頼なんだけどn」
ダーン!
電圧高め、わざと机が焦げる程度の電圧で机に拳を立てる。
「てめぇ、ふざけんなよ。
依頼を受けた条件は、ルイーズへの強要を止めるようにと、二度は受けねぇの二つだろ。
エルンさんの件は仕方ねぇ、行きがけの駄賃だ。
だが依頼は終了した。
なし崩しで引き込みたいんなら、全力で拒否させてもらう」
「…ルイーズを巻き込んでも?」
「そん時ゃお前の喉笛に噛みついてでも拒否してやる。
なんなら今そこの巨人込みでやるか?ああ?」
「ふー、つくづくキミは面白いね。
悪かった、約束の件は覚えてるが、ちょっと揶揄いたかっただけだ。
この私に何度も頭を下げさせる人間なんて、父上と母上位のものだよ」
「知るか、要件はそれだけなら帰らせてもらう。
懐中時計も金も要らん。
あと何日かでオレはここを去る、これっきりだ」
「待ってくれ、話だけでも聞いてくれないか」
「俺からも頼むよ、なぁ悪い話じゃないぜ?」
「うお!お前シティア!!
なんでこんなとこにいるんじゃー!」
突然股の間からニョキっとシティアが生えた。
――――――――――
「ウィーンまで一緒に来たじゃねえか、もうアタシのこと忘れちゃったの?」
「うるせえ、クネクネしながら上目遣いで聞くんじゃねえ。
分かったからそっちの椅子に座れ、話くらいは聞いてやるから」
「ほらなケリー、オレの云った通りだろ。
コイツにゃ色仕掛けの方が」
バチコーン!
くっそ生意気なガキンチョはデコピンで成敗だ。
…おかげで、大分気勢が削がれた。
「で、これから旅に出るオレに何の依頼をしたいんだ?
もうココにゃ戻らないつもりなんだが」
「はは、キミら仲良いなぁ…羨ましいよ。
シティア様とも仲良いみたいだし、出来れば本当に話だけでも聞いてほしい。
「いっででで…ちったぁ加減しろよ、玉のお肌が傷つくじゃねえか。
責任とr…おっと悪い、もうやめるからその右手は下げてくれ。
ケイン、これからユリアんトコに行くんだろ?
ケリーの母親も行くことになりそうなんで、護衛として同行してもらえないかって依頼なんだ」
「なんで?
そこの…ヨンネと呼ばれてたか?他にもオズモシス商会の戦力は幾らもいるだろう」
「巨人ともなると、そうそう集まらないんだよ。
先日のフランケンスタイン村の報告も聞いているから、母上の身を考えると少しでも戦力の層は厚くしておきたい。
ここだけの話、母上は最近ずっと病床の身なんだ。
シティア様と相談し、ユリア様なら治療可能かもしれないから連れて行きたい。
それに…もう、ニュルンベルク領主代行から聞いただろう?
エルマー兄さんとティナ姉さんの結婚式が、大々的に向こうの首都ベルリンで開催される。
父上は忙しい身で最短の日程しか組めない、母上は同行できるほど体調は思わしくないんだ。
だから先行して母上はベルリンへ移動し、式典後はイエテボリのユリア様のところで治療に専念してほしかった。
エルマー兄さんも奥さんは3人目だけど、公的な結婚式典は初めてだ。
だからこの通り、親孝行の助けとしてお願いできないか?」
今度は泣き落としか、全く…
「…事情があるなら、先に話してくれ。
わかったよ、今回はシティアの顔を立てて引き受ける。
但し、オレは行ったきり数年ここへは戻らない。
戻ってきたとき、不甲斐ないことになってねえことだけ約束しろ」
「はは、随分とあいまいな約束だね。
キミも大概懲りないな…まあでも約束しよう、ルーも誰からも傷つけさせないさ。
シティア様、これで良いですか?」
「ああ、まあお前らが良いならいーよ。
あ、重要なこと1つ忘れてた!
こっち滞在中の食費は全部ケリー持ちな!
ケイン喜べ!出発までこのレストランでおいしーいごはん食べ放題だぜ!」
「え、本当ですか…」
「ホラな、シティアに任せると大変だぞ」
「まあいいでしょう、明日の晩に改めて今回の旅について詰めておきましょう」
「ん、わかった」
――――――――――
例によって異次元胃袋で、今日は丸く収まった記念に護衛のヨンネもご相伴。
怖くて何人前とか、3以上はアホになっちゃって数えられない。
グラーフ父ちゃん、頬がヒクヒクしてたぞ…
そのグラーフ家の父母とルーディさん、お店がひと段落した頃に個室へ来てもらった。
「御用でしょうか?」
「忙しいところすまない、私は『学園生徒でオズモシス商会長の』ケリーだ」
「ははははいっ、あっあのケリー・オズボーン様ですね?!
学校でも仕事でもお世話になっておりますっ!あの本国の…」
「ははは、それはいいんだ。
いくつかお願いがあってね。
明日から1週間ほどこの個室をオズモシス商会の貸し切りにして、請求はすべて商会に廻してほしいんだ。
それから、今ここに居る面子はいつでもこの個室を使えるようにしたい。
あとルーディ、明日はルイーズにここへ来てもらうよう伝言をお願いしていいかな?」
「はいっ、仰せのままに!」
結局対峙するのか…。
「それから申し訳ない、このテーブルを壊してしまった。
明日の朝商会から代替品を持ってこさせるから、許してもらえないか」
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