041 tr35, no fear/恐れるな

「まったく相変わらずヴィーと同じで人の話聞かないな、ウィリ。

 私もこの巨人ケインも、1週間ほど前にザルツブルグからこっちに来たばかりだ。

 メアリも後ろにいたじゃないか、取り乱すほどのことがあったのか?」

「申し訳ねえだ、巨人を見たら気が動転して、久々にエルまで会えておかしくなってただ。

だども、ヤツら夕方突然やってきて、あっちゅう間に村を占拠しちまって、オラぁどしたらいいか分らんで、ほいでそこの茂みにずっと隠れてただよ…」


深夜だったころもありいったん保留として、落下男は簀巻きで、エルンさんとオレは茂みの陰で仮眠をとった。

タロとジロはそれぞれ姿を見せず、待機。



翌朝、川の水で顔を拭わせると落ち着いたようで、ぽつりぽつりと話してくれた。

しかし顔から体格から、焦げ茶色の髪の毛から薄茶色の眼まで、髭を剃ったヴィクターさんそっくりそのままだ。

聞けば二人は双子で、エルンさんと幼馴染らしい。


双子と彼女の故郷であるこの先のフランケンスタイン村は、突如巨数十名ほどの武装集団に襲撃された。

ここ数年は村近隣の修道院へ怪しげな集団が夜更けに出入りする程度で、村人との接触はなかった。

だが、今回は違った。

巨人の号令の元村人は集められ、男衆と女衆に分けられた。

抵抗する者は容赦なく殺し、また子供たちは打ち捨てられたという。

「オラはたまたま迷子の羊を探しに行って、帰りが遅くなってただ。

 最近はリズもオラが帰らなくても起こらないし、代わりにトーマスが番してくれるだからな。

 広場がいつもより騒がしいから、そーっと覗きに行ったら…えれぇモン見ちまって」


襲撃者たちは、別けられたうちの若い女性に噛みつき、血を啜り、肉を食んでいた。



――――――――――



お互いの誤解も溶けウィリアムさんの容態も落ち着いてきたので、改めて朝食をとりながら方針を確認。

「再開早々で悪いが、ヤツらは陽光に弱いようだからこのまま行く、良いか?」

「他の連中がどうなったかは分からねえ。

 オラぁ沢を抜けてこっちの河沿いさ下ってきたからたぶん見つかってねえが、ニュルンベルクとの道は、岩なり倒木で封鎖して監視が付いてるんじゃなかろか。

 行くなら……オ、オラも行く」

「私は留守番してた方が良さそうだな、足手まといにしかならない。

 タロかジロをつけてくれると有り難い」

「ん?誰だそれ?」

「ああ、隠れたままだったか。

 タロ、ジロ、もう平気だ、コッチおいで」

「ひゃぁ、でっけーハイイロオオカミだな!オラぁ魔獣化した個体なんて初めて見ただよ!

 しかもコイツラぁ突然変異だな?!シロいのは目ぇ赤くねえだな!」

大興奮のウィリアムさん…方向性は違うものの、基本ヴィクターさんと同じだな。

「そっちの話は後だ。

 ジロ、エルンさんと馬、あとそこのワンコと一緒に村の手前で待機。

 タロ、ウィリアムさんとオレと一緒に村に行く、いいな?」

シェリー犬の顔をベロベロなめるジロ、フンスと鼻息荒いタロ。

やっぱり言葉通じてるんじゃね?



川原を伝い上流へ向かうこと1時間ほど、ちょっとした高低差の滝つぼに出た。

「ここを登れば、村の溜池に繋がってるだ」

音を立てないようよじ登り、周囲を見渡す。

一番手前にある集落の家まで500mほど、時折あがる歓声や悲鳴が聞こえる程度には居場所も近い。

吸血鬼ども、就寝はまだのようだ。


ウィリアムさんの先導で村へ近づき、様子を窺う。

「アンタはなるべく見つからないように、生き残りを探して開放しな。

 オレとタロは巨人を狙う」

「わかっただ」

二手に分かれ、なるべく石礫を拾いながら前進。


広場にいるのは巨人1名、長身3名、ちっこいの5名だ。

やべっ、巨人と目が合った。

慌てて長身目掛け石を投げ切りダッシュ、勢いでちっこいのは2名ほど飛ばす。


「テメエこのチビハゲ、やってくれんじゃねーか!」

丸太の様な棒にムリヤリ取付けた1トンちかくありそうな鉄の塊を振り回す巨人、デカい!

巻き添えでちっこいの1人がポーンと宙を舞い、遠くの屋根に乗っかった。

「おっ、おまえ噂の出来損ないかこのチビハゲ!

 首筋にマーク入ってやがんな、やっと来たか」

避けてしゃがんだ時に見えたか、しかし8フィート…2.4mはあるか?

俺よりデカい人間、この世界じゃ初めて見た。

四角い頭に白目が赤い、剥き出しの犬歯がよく育ってますこと。

「お前、もしかしてドラクルのやぶ蚊野郎の部下か?」

「蚊っていうんじゃねえこのドチビ!

 報告で聞いた通りだな、このクッソ生意気なチビハゲ。

 大人しく付いて来るなら、コイツ2~3発で許してやろうか?」


ドスンと塊を下ろすと、おもむろに上着を脱ぎ油を塗ったくり始めた。

「ああ?何やってんだ気持悪りぃ…巨人ってのは、皆こんな奇行する習わしでもあんのか?」

「バカいえコレぁ本国から特別に支給された、チビハゲ対策よ。

 おいトニ、ユハ、お前らコイツと遊んでやれ、使った分は後でやるから粉使え。

 捕まえられたら潰れたエッサの代わりに昇進さしてやる。

 サムリ、向こうでお楽しみの連中呼んで来い」

「ヨッヘンの旦那、その言葉忘れんで下せぇよ」

ちっこいのは早々に走り去った。


ヨッヘンと呼ばれた巨人が特別デカいだけで、長身組も十分デカい。

ヨルグ並みの巨体が2名、ニヤニヤしながらゆっくり近づいて来た。

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