040 tr34, deep in the night/夜更け

結局馬の交渉は、オレからヨルグ経由のオズモシス商会と話した。

ウィーンで商会に返すこと、途中珍品があれば仕入れること、ケリーに会ってお礼を言うことを条件に胆力のある馬を1頭貸してもらえた。

でないと、タロジロにビビっちゃうからね。



翌日から移動開始、プロイセンの更に中心へ近づく。

行く先は北へ180kmほどのバイエルン選帝侯領都ニュルンベルクから、更に東へ50kmほど進んだ小さな村。

エルンさんとヴィクターさんの故郷、フランケンスタイン村だ。

二人は戦時中から学者でアウストリへ亡命できたものの、彼の弟は実家を継ぎ移動できなかった。

停戦によってある程度往来が可能になったため、今回迎えに行くことにしたという。

「じゃあ、二人は結婚してるのか?」

「野暮なことを聞くんじゃない、我々は学問が伴侶だ」

さいですか。


旅程はエルンさんの馬捌きに合わせてまずニュルンベルクへ3日間、更にその先で1日。

荷物とエルンさんは馬、タロジロは村や町に寄る時だけ鎖をつけさせてもらう。

自由にさせてれば、いつの間にか獲物をとってきてくれるおりこうさんだ。

だが鹿の首根っこ咥えて持ってくるとか、怖がる人がいるのは納得。


「アウストリと、違って、プロイセンは、貧しい、道も、悪い。

 ミュンヘンでも、わかったろ、ニュルンベルクから、先は、更に、酷い。

 しかし、キミら、巨人は、いつ見ても、タフだな」

馬に乗ってるのにそれか、まあ慣れてないとツラいよね。

「舌噛むから、無理に喋らなくていい。

 ハンカチでも持ってたら咥えとけ」

休憩はこまめにとったがグロッキー、でもエルンさん乗馬できるだけ偉い。


昼食は川で魚を獲り、夕食は鹿を調理…と云っても焼くだけ。

相当疲れたようで、エルンさんは食事したら気を失うように寝てしまった。

オレは…タロジロが居るだけで大概の獣除けにはなるし、危険なときは起こしてくれるおりこうさんだ。

1日目、2日目と思ったより距離を稼げたので、明日はニュルンベルクに寄らず直接フランケンスタインへ行ってしまいたい。

タロジロを鎖につなぎたくないし、騒ぎになるのも面倒だ。


朝、エルンさんを説得してニュルンベルクを迂回し、フランケンスタインへ直接向かうコースに変更してもらう。

嫌がるかと思ったが割とあっさり応じる辺り、何かあるな。

まあ、深くは詮索すまい。



――――――――――



エルンさんに土地勘があったので多少はショートカットで来たものの、村近くに辿りついたのは深夜。

それでも谷間の河沿いを伝えば勝手知ったる地元、とエルンさんは気丈に振る舞う…


と、黒い方のタロが袖を引く。

ランタンの光を遮って良ーく見ると、前方に揺れる茂み。

白いジロも気が付いたのか、前方の小高くなった茂みから見えづらい位置にそっと潜みながら進む。

馬も感づいているが、オレと共に気が付かないふりで前進。

エルンさんはまるで気が付かない…のは当たり前か、馬に揺られて喋ったり黙ったり。

タロもオレの影になる方向にそっと潜み、いよいよ弓矢の射程距離まで近づいた…が反応なし。

これは…そのまま行った方がいいな。


既に向こうの息遣いすら聞こえそうな距離になって、ようやく動きがあった。

「あああああこのおおリズとヘンリーのかたきいぃぃぃぃ」

へっぴり腰で棒を掲げた男が降ってきた!

滑稽を通り過ぎ悲しくなってきたので、棒を後ろに避け両腕でがっちりホールド。

「おい、誰かと間違ってないか?

 オレはケインってんだが、ここに来たのは初めてだ。

 話くらい聞いてやるから顔拭け」

「ああびっくりした、何が落ちてきたかと思ったよ。

 その人、ケインの知り合いかい?」

「いいや、初めて見t」

「ああその声は!エル!エルンスト・ウォルトン・ヴィッテルスバッハでねえか!

 おめさまこっちさ戻っただか!おめの父ちゃんも兄ちゃんもえれぇ心配してただで!

 なしておめさまこげなおっかねえ巨人さ連れてっだ!

こいつぁ人喰うバケモンだでこっちさ隠れろ!さあ早く!」

「ひ、久しぶりだなウィリ。

 ケインはそういうんじゃn」

「ああもうダァメだぁ、リズもヘンリーも村の皆もやられてもうたじ!

 あと残るはメアリだけだ!さあ早k」

「シャラップ!黙れこのじたばた男!

 まずはオレに抱えらえて身動き取れないところから認識しろ。

 そっと降ろしてやるから、まずは深呼吸だ。

 すってー、はいてー、すってー、はいてー」

少しだけピリっとさせ、気を逸らさせる。

あとはグジャグジャの顔でしゃくり上げながらも、しばらくすると素直に言うことは聞いてくれた。

だが興奮覚めた所為か、手を離すと膝から崩れおち再び泣き出す落下男。

後ろには、シェットランド・シープドッグがしょんぼりお座りしてた…

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