038 tr32, From the Cradle to the Grave/揺り籠から棺桶まで

日中は大騒ぎの大捕り物だったせいか野次馬も多かったものの、勤務中の隊員も多く逮捕者の移送、被害者の保護は素早かった。

特に身重で気を失っていた女性とその父である大使、それに爆発で大けがをしていたヨルグ達は最優先で病院へ運ばれていった。

その病院には要人も来訪したようで、一般人立ち入り禁止になっていた。

オレ?一般人だし生き物連れだし、脇のケガなんざ唾つけときゃ治るってんで手当だけされて放り出されたよ。



――――――――――



それから翌日まで、食事付きで警備隊の詰め所でお世話になった。

今度はむさいオッサンどもにモテモテだ。


落ち着いてから聞いた話によると、大使館突入は例によってドラクルの手の者だった。

大使館の門を突如封鎖し、プロイセン大使は足を撃ち抜かれ、我々が到着したのは娘さんを攫って逃走する間際。

思ったより早くザルツブルグに到着したのを察知し、慌てて強硬手段に出たらしい。

なんであいつらは人攫いばかりしたがるのかね、短絡的な。


逃走の際に手投げ爆弾を放ったようで、咄嗟に飛び込んだヨルグは大使を庇っていた。

巨人ヨルグは身体強化の魔術も併用し、何とか盾で自身の顔と左半身は怪我せずに済んだものの、背中から左足にかけて爆発による火傷と裂傷を負っていた。

大使は、撃ち抜かれた足以外は無事だった。


女性はプロイセン大使の娘さんで、帝国と通商条約の打ち合わせのため来訪していたところを狙われたとのこと。

病院を立ち入り禁止にしていた帝国側の要人との関係者で、予断を許さない容態。


青白い顔の主犯は、例によって吸血鬼ドラクルの眷属だった。

最後まで懐に忍ばせていたのは、ヤツらが他人を眷属化する際に利用する粉末。

単体・少量なら大した効能はないものの、一種の麻酔効果もあるため、多量に浴びせてそのまま外の手下とオレを運び出し一緒に攫う算段だったらしい。

重量はともかく、なんで俺と玄関で会ったのか考えようぜ…



――――――――――



騒動翌日の昼頃、要人が詰め所を訪ねてきた。

「キミがケインくんか、ケリーから話は聞いてるよ。

 私はオズモシス商会のエルマーという、ケリーの兄だ。

 大使館で私の大事なティナを救出してくれ、感謝している。

 ありがとう」

「容態は悪いと聞いたが、大丈夫なのか」

「ティナは臨月でね、ちょうどキミたち護衛についてもらって里帰りの準備していたんだよ。

 本人に怪我はなかったんだが、昨日の騒動で産気づいてしまって…

 だけど男親なんてできる事もないし、追い出されたからここに来たんだ」

ああ、それな…

「申し訳ない、落ち着かないからしばらく邪魔するよ。

 しかし、何人目でも子供が生まれる時って落ち着かないな」

「ティナさんは何人目のご出産で?」

「ん?ティナは初産だよ。

 ティナの他に妻は2人で子供は8人かな、それでも初めては慣れないね」

おおう、倫理観が若干違うようで。

後は自慢とも自虐ともつかない、奥様方との苦労譚を滔々と聞かされた。


「…出産が始まったみたいだ、また後で話そう!」

駆け足で来た従者さんと共に去るエルマーさん。

要人警護の打ち合わせは明日以降だな、襲撃の第二波は無かったようだが再び詰め所にて夜を明かす。

発電後はエラく腹減るので、賄い有り難い。



――――――――――



さらに翌朝、昨日の従者さんに呼び出され共に病院へ。

ティナさんは無事出産し、安静にしているとのこと。

「予定日はもう少し先だったのに、襲撃騒動で早まり一時はどうなるかと気が気じゃなかったよ。

本来護衛されるはずの3名中2名と護衛が怪我したから、急ぎ手配をし直す。

手配の間、1週間ほど待ってもらえるかね」

妊婦含め要人の護衛だったのかよ、しかも新生児連れてくの?!


「ご心配おかけします、何分忙しい身で赤子を抱えてもミュンヘンへ行かねばなりません」

エルマーさんはアラサーっぽいけど、クリスティーナさんは若いな。


「儂は貫通しただけだ、問題ないぞ」

「わ、私も行くぞ。

 骨は平気だったから、1週間もあれば動ける」

大使もヨルグさんも安静にしてなさいって。


馬車も人員も増員し国境までは国軍も護衛につくものの、国境を超えると国軍は動けない。

だがフリーで国境をまたげるかプロイセン在住で、かつオズモシス商会に信用のある傭兵、それに新生児のお世話係も必要だ。

鬼気迫る勢いで各所へ手紙を書き人を遣り、それでもオレの宿まで手配する有能さよ。


オズモシス商会の手配で、2晩ご厄介になった警備隊詰め所を後にする。

緊急用に病院に近く、かつ巨大な狼を連れてとなると宿も限られるが、滞在費は向こう持ちだ。

またもや変な空き時間になったので、ルイーズに手紙でも書こうか。

聞けばザルツブルグからウィーンなら商会の定期便が出ており3日で配送できるらしいので、今日中に出そう。



――――――――――



『親愛なる白ヤギへ

 依頼先で事件に巻き込まれ、ルーディへ行くのは何日か遅れそう。

 長距離走ったり何度も襲撃されたり、なかなか仕事とは忙しいものですね。

 来週までザルツブルグで足止め、そこからまた連絡取れなくなります。

 どこまで伝えて良いのかわからないので、まずは生存連絡まで。

 黒ヤギより』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る