037 tr31, voice from the vault/地下墓所からの声
予定通り、朝早く起きて旅の準備。
整備されてる道だからか身体能力が高いからか、はたまた若いからか疲れはない。
朝の倦怠感から解放されるのは、オッサンにしてみれば僥倖だ。
待ち合わせが巨人のオッサンでなければな。
「おはよう、今日はザルツブルグのプロイセン大使館まで一気に行くぞ。
昨日と同じく櫓に寄りながら、な」
爽やかウィンクすんなし。
昨日より距離短めの前提だからか、ペース早め。
こころなしヨルグは苦しそう。
タロとジロは涼しい顔でてってけてってけついて来る。
オレ?雑念を払えない程度には余裕。
――――――――――
想定よりかなり早く、昼前には最後の通信塔に着いた。
中で話を聞いていたヨルグ、血相を変えて出てきた。
「おい、急ぐぞ!
向こうも感づいて先手で行動を起こしやがった、大使館分館へ走る!」
背負った荷物もそのままに後をついて行く。
いわゆる一般的な上級貴族の館…というほどの大きさはないものの、塩山で栄えるザルツブルグでもなお優雅な佇まいのそれは、今や大騒動の元になっていた。
先ほどから白煙をもうもうと上げる鉄砲が門を制圧し、庭園は踏みしだかれ、館の玄関前は今や戦場の血で染め上げられている。
外壁から門にかけて一般人?が群がり、あたかもデモ集会の襲撃のように見える。
相当数の銃兵が館に近づいており、だがしかし人の波も押し寄せ、通報を受けた警備隊たちは突入を躊躇している。
ヨルグが隊長らしき人間を捕まえ緊急で作戦会議。
「正面突破はきついな、だがケインは館の構造を知らなかろ。
私は裏から回って要人救助に向かう、お前さんは大砲を黙らせてから正面の気を引け。
デモ隊は無視しろ、躊躇すると被害が拡大するぞ。
正面でケインが門前の賊をひきつけろ、警備隊は隙ができたら門を突破し内部へ突破、いいか?」
「自分らは了解です、ヨルグ殿は単独で行かれますか?」
「大丈夫だ、問題ない」
「しかしてこちらは?」
「で、若様から臨時雇いされているケインだ。
銀時計見せてやれ」
「これでいいか?」
「はっ、拝見しました、失礼いたしました!
それでは早速作戦開始であります」
ヨルグはさっと身を翻し、どこかへ走り去った。
隊長の動きも迅速で部下へ直接命令を出し、大衆を巡って攻めあぐねていた警備隊の半数近くを左右に分け徐々に移動。
門を塞ぐように盾とやりを構えた兵士が10名ほど、すぐ後ろに火縄銃を構えた銃兵が8名、その後ろは魔道具を構えた男女数名に見える。
そのまま突撃は流石に無い、近くにいた人間から石礫を分捕り狙いを定めて銃兵めがけ投げつける。
3名ほどダウンした辺りでようやく異変に気が付いた兵隊は周囲を見回すが、そこまでは想定内。
「タロ右、ジロ左!」
自分は屈んだ姿勢から戻り正面から発電しつつダッシュ、ホラど真ん中の奴槍はどうした、右側のは気が付いて動くのが見える。左側は周囲に気を取られ目線がない。
槍衾の隙間をくぐり、左側のヤツにスライディング股くぐ…れるわけないかこの図体で、盾ごと身体をタックルでフッ飛ばし、左右の手で電撃を残り銃兵へ叩き込む。
動きそうだった右兵士は持ち替え振り上げた剣の柄を押してのけぞらせ、レバーに一撃。
真ん中兵士も振り向いたがもう遅い、左肘を延髄に当てノックアウト。
ジロ側がやや押され気味だったので右側銃兵2名の銃を下から掌底でカチ上げ、肘を顎に入れる。
ダーン!至近で撃たれた…が脇をかすっただけ。
サブロの時もそうだがこの世界の連中、数mの距離で良く外すな?
立ってる銃兵は今撃った一人だけ、近づいて膝くれたからゼロだ。
厄介な槍の連中は狼に夢中で後ろがお留守だ、手あたり次第引っ張ってバランス崩したら後はタロ・ジロと警備隊にお任せ。
頑張って詠唱する魔導士さん、ご苦労様と全員電撃でシビれてもらった。
玄関前の銃兵が門の異変に気が付き此方を向く。
適当に転がっている魔導士を盾に、剣を拾って銃兵へ投げつけてやる。
ああ、何人か腕もげちゃったよ。
ちょっとした恐慌状態の銃兵へ、更に警備隊が大挙して取り押さえようと乱闘が始まる。
さっきまで大砲に張り付いていた隊員たちも、一斉に鬨の声を上げて突入!
こうなるとあんまり手を出さない方がいいか、血を拭ってタロとジロを労う。
…なんて余裕かましていると、館の中から「ボン!」と音がし、白煙がもうもうと上がる
ヤバイな、とりあえず全力で玄関へ向かう。
バン!と扉をけ破り、女性を小脇に抱えた青白い顔の男が出てきた。
「よしお前ら引き上げだ…?!
なんだテメェ…いや、そのデカブツハゲはドラクル様の仰ってた出来損ないか!
ハハッちょうどいい、これでも喰らいな!!」
ハゲ云うなや、空いた手を懐に入れたので間髪入れず顔を掴み、フェイスハガーで高電圧かましてやった。
ヨダレが手に付くのも嫌だからすぐさま放し、一方女性を落としそうだったので急ぎ受け止める。
ややあって正面階段からヨルグが血だらけで降りてきた。
「おい、女性に怪我はないか!
そのお方は身重だ!」
緩やかなワンピースを着た女性は、グッタリを気を失っているにも拘らずお腹を両腕で庇っていた。
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