036 tr30, scaffold/櫓

なんとなく乗り気になれなかったのでパーティは抜け出し、宿に戻る。

約束があったので、手紙でも書いておこうか。


『親愛なるルイーズへ

 魔燕の練習も兼ねて、手紙を出します。

 頼まれごとをされたので、明日からタロ・ジロと共に数日間出掛けます。

 戻ったら、ルーディのお店で食事しましょう。

 慌ただしかったけれど、以前購入した日記も添えて送ります。

 しっかり勉強してください。

 ケインより』


すっかり忘れていたがロヴィニで悶々としていた時に買った日記、今のうちに渡してしまおう。

日記を収めていた袋に植物紙の手紙を添え、宿のフロントに届け物を依頼した。

学生宛なら、特に問題なく届けられる。



――――――――――



翌早朝。

夜も明けきらぬ頃にタロ・ジロを伴って宿を出ると、軽装のヨルグが待っていた。

足元には手ごろな大きさの背嚢が2つ。

1つにはしっかり剣と盾が括り付けられていた。

「おはよう、ぐっすり眠れたか?

 これから楽しい旅行だぜ!」

編み髭め、朝から陽気だな。

「そこの背嚢を背負って移動か?」

「おう、行き先はザルツブルグ。

 今日は途中のシュタイアー辺りまでだが、だいたい日暮れまで走るぞ。

 心配しなくとも大街道だから走りやすいし、良い運動になるさ。

 途中櫓に寄りながらだから、休憩や食事はその時な」

「構わんが、途中で狩りでもして狼たちの食事をとらせてもらう」

「準備済みではあるが、休憩時間の時なら追加分は好きにしてくれ。

 じゃあ、行くぞ」

ヨルグ、オッサンのくせになかなかやりよる。


櫓、と言っていたのは組木通信や狼煙の起点に使う通信塔で、通信網としての機能のほかに街道警備の管理や旅行者の対応などいわゆる中間拠点としても機能する。

一日あたり普通の旅行者なら徒歩で拠点2~3か所、馬車で5~6か所、馬を乗り継ぐ早馬で8か所程度を移動するのが目安で、宿や食堂、店舗など土地毎の特色もある。

…オレたちゃ早馬レベルか。


ヨルグは行く先々で管理責任者と話しているが、先に進めば進むほど険しい顔になってゆく。

夕方薄暗くなった頃、7か所目の櫓手前でヨルグが歩を緩める。

タロとジロも警戒態勢だ。

「敵対組織だ。

 相変わらず吸血連中は愚かだのぅ、隠しもせずあんな施設狙えばどうなるか想像つかんのか。

 櫓近くの茂み左右から銃兵…10丁程度、上からも何丁か、あと挟撃で前後20名ほど来るな。

 どこに行く?」

「なら上行ってから左、後ろはタロとジロのサポートで。

 オッサン獲物は剣だろ、オレぁ邪魔だから全部拳だ。

 あとはタロとジロに当てないよう気をつけろ」

「オーケイ」

「じゃあ、もう少し進んだらダッシュして信号塔上るから、荷物投げるぞ」

「俺もそうしとく。

 身軽な分お前が先行するだろうから、せいぜい気をつけな」

剣と盾、重そうだもんね。

しかし火縄銃とはいえ、剣と盾が現役ってのもなー

オレは相変わらず布の服とサンダルでステゴロだ。



「3、2、1…ウラー!」

大分走って疲れたが、それでもシティアが乗っかってない分スピードを出せる。

勢いのまま櫓に飛びつき、外壁の継ぎ目を伝って一気に頂上まで駆け上がる。

小さい頃よくやった、護岸壁登りの要領だな。

勢いよく屋上に飛び出し、鉄砲を構えた一人の右脇を先ず真空飛び膝蹴り。

まだ減速しきらなかったので左側にいた雑兵の右肩口を掴み、外へ放り投げる。

目前のマッチョメンにタックルしてようやく止まったので、そのまま横方向へジャンプし目を丸くした鉄砲撃ち2名に両腕でラリアット&電撃ショック。

残るは鉄砲2名とサポート雑兵4名か。

突然の襲撃で身動きが取れないうちに、外壁のヘリに近いヤツから順にスタンガンを打ち外の兵隊めがけて投げつける。

最後に自分も櫓を飛び降り、途中で外壁を蹴り鉄砲撃ち…の後ろに控える図体のデカいマッチョへロケット蹴り。

グエッとか言ってんじゃねえよ、マッチョ共魔道具持ってんじゃん。


この世界の人間って鈍いのかね? どうも荒事の際ビックリしてばかりで動きが悪い。これ幸いと周囲を見回し近い順に手刀と掌底で電気を乗せて気絶させる。

担当分の茂みに隠れた左翼全員、結局狙撃兵と併せて16名ほどに地面を舐めてもらい、タロとジロのところへ向かう。


…オオカミさん、舐めてたわ。ごめんね。

後詰めしてたらしき兵隊10名ばかし血塗れで倒れてたわ。

残る数名も逃げ始めたので、そこはオレが追いかけて引っ掴み戻らせた。

しかしキミら、よく説明もなしにターゲット分かったね。

良い子なので二頭とも頭ぐりぐりしとくけど。


ヨルグのオッサンは…ちょいと苦戦してた。

長剣で鉄砲5丁に槍衾10本、クロスボウ数丁はきついな。

「よしタロ・ジロ、あすこに吶喊!」

ノリノリで突っ込み、あっという間に血の海…。

槍は、ワタクシが引っ張って遠くへ投げておきました。


「ふぅ、年はとりたくないものだな…しかしお前、すごいな。

 なんだその体力と体捌き。

 若との対応もそうだったが、反応も異常に早い。

 それに外傷もないのに倒れるのはどんな技を使ったんだ?」

まだ電気の事は明言できない、自分でもよくわからんし。

「自分でもよくわからんよ。

 それよりこの賊の群れ、どうすんだ?

 先を急ぐんだろ?」

「ああ、近隣の街道警備と連携済みだから、到着を待って引き渡せば大丈夫だ。

 お前たちは、とりあえず倒れた賊を集めて拘束しておきなさい」

さっさと書類を取り出して書き始めるヨルグ。


とっぷりと日が暮れた頃に警備隊員たちが複数名到着、まあ近場でも距離あるもんね。

「良い時間だがあと2つほど進む、スマンなこんな時間まで」

「それは良いんだけど、アイツら一体何者だ?」

「帝国とプロイセンの停戦が気に入らない連中もいるのさ、今あちこちで騒ぎ起こしてるぞ」

「なら送り届けるまではまだ起こりうる?」

「可能性はある。ただ一番心配なのは、渦中の人物の所在だ。

 ホレ、そろそろ目的地につくぞ。

 今日のところは充分休んどけ、明日も今日と同じ05:00出発だ」


現在、既に22:00を超えております。

タロとジロを厩裏に案内し、自分も水浴びして直ぐ通信塔の控室で就寝。

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