033 tr28, war of words/激論
「つまり、魔術は音で制御している?」
「身体強化だけは体内で蓄積魔力を使うイメージだが、対外的な魔術は魔導具や声など音を駆使して発現させる。
着火や温度・圧力の上下はできるが、昨今の転移者が求めるような爆発的な力はないな」
ヴィクターさん曰く、見よう見まねで伝承することが多いらしい。
この世界の魔術とは、レーザーや音波兵器に近いのか。
工業利用のレーザーは、単波長・高エネルギーの光を集光レンズで集め、焦点を溶解させてた。
あっちの世界には魔力なんて都合の良いエネルギーはなかったから光源を高出力にする必要があったし、なにより距離の問題は大きかった。
こっちの世界では発現に必要な全エネルギーを乗せる必要はないようだけど、金属を蒸発させるほどの出力は出ないのかも。
ただ距離による減退を抑制できるのは大きなメリットだ。
「それでも十分殺傷能力を持たせることは可能でしょう」
「うむ、人体など唯の水袋だ。
安全性を確保しつつ限界も見極めるための学問とも云える。
問題は経験則が非常に多い分野で、理論的な実証にかけることだな」
精密発現さえ可能なら、人間なんて大した威力は必要ない。
脳に標準当てて5℃ほど温度上げれば、例外なく倒れる。
或いは体内から数リットルの水分を搾り取ってやれば、死に至らせることだって容易だ。
水素爆発や粉じん爆発なんて見た目は派手だが、そこまでしなくとも手はたくさんある。
酸素や二酸化炭素の濃度、pHをいじれば簡単だが、この辺は化学、いや科学が育たねば実用性に乏しいだろうけど。
「先ほどの実証を見る限り、魔術とは音波の合成や共鳴で発現位置を決めたり振幅で威力制御してるように見えましたよ。
音波だから正弦波か粗密波あたり、魔力?は良くわからないけど位相のエネルギー単位なのか、凝縮させて干渉波を当てたり、魔力の強いって人は出力を大きくとれるとすればそれで強く発現したり、そうか振幅を周波数として合成ポイントを計算すれば伝達距離や効果も制御できるんかな?
おー魔術面白いッスねー!」
計算で出すことじゃあないだろうが、経験で制御するんじゃ付いた人によって技量がまちまちだし、会得できずに悔しい思いする人も多かろう。
職人芸を否定する気はないけれど、有用な分野なら技術体系を確立すべきだ。
おっと、考え事が過ぎた。
皆ポカーン、やってもうた。
――――――――――
ややあって、今度はヴィクターさんとルイーズ&ボブほか数名にモテモテ。
流石に正弦波は知らない子もいたものの、ヴィクターさんは特に大興奮。
大急ぎで紙とペンを準備し、バッテンを描いてxy図形に見立てて解説したり、オレの知る数式で解説…といっても専門家レベルじゃないので、三角関数や微分・積分、行列辺りとの関連程度。
「この発想はなかったな…云われてみればその通りだ。
この方式で計算を組み合わせれば、もしかしたら画期的な魔術の理論、いや理論魔術の夜明けかもしれないな!」
「ケインさん、僕もこれもっと知りたいです!うわぁ、これ凄いですよ!」
「夏休みに覚えた単語を活用できてよかったですね!
私もあの時に聞いた、ベクトルの内積とか三次元の応用でちょっと役に立てるかもしれません」
大盛り上がりだな。
ちょいちょいと裾を引っ張るコロポックル。
「私も何か教えてくださいベクトルってなんですか魔術ばかりじゃないんですか」
「そうは言われてもなぁ…この世界に何があって何が足りないとか、よく知らんし」
「はぁ…じゃあそこの楽器演奏してください大きさからチェロかコントラバスですよね」
「ああ、まあそのくらいは良いよ。
そこの連中の邪魔にならないよう、ちょっと離れて演奏しようか」
小さい子のおねだりには弱い。
その毛、もとい気はないけど。
改めてケースに手を掛ける。
銃弾を受けた所為か、上から下まで貫通した部位でさほど大きくない孔が上から下まで貫通している。
表側も裏側もケース側にホワイトトパーズの原石をはめ込み、周囲には装飾が施されている。
楽器本体の孔は空いたままだが、周囲は良く修復され少し抜けるが良い音だ。
はた、と今目に付いた。
ケースの裏蓋に「金星音楽団 ゴーシュ」と落書き。
いやオレと同じ世界から来たんなら流石に創作だしホンモノってことはないが、知ってて書いたんだろうか。
世代と云い境遇と云い、元の持ち主は同じくらいの世代で不思議な童話を残す作家にシンパシーを感じていたのかもしれない。
そういえばフランス語でゴーシュは不器用とか左利きとかカッコーの鳴き声とか、そんな事だった気はする。
気を取り直し。
そんなことを知ってしまったので、最初だけは楽器の元の持ち主に敬意を表してベートーヴェンの田園。
次いで気合を入れるためにもバッハの無伴奏1番ト長調からアポカリプティカのQuutamo、ドヴォルザークの新世界…と見せかけてラプソディのThe wizard’s last Rhymesへ。
ヨーヨーマ氏や藤原真理女史など著名人とは比べるべくもないものの、我ながら悪くない出来。
アン、泣いちゃったよ。
「あっごめん。
割と良い出来のつもりだったけど音酷かった?
まあチヤホヤされたってこの程度だ、学生のうちにいろんな人と触れ合って自分の好きを探してみなよ」
「…ぐすっ、やっぱりケインさんがいいですこのまま攫って国に帰りたいです一緒に来てください」
「物騒なこと言うんじゃねえ、そもそもオレはお前と初対面で全く知らねえ」
「じゃあ私の事知ったら来てくれるんですか」
「オレの事も知らないだろ、結論急ぎすぎた」
『この子は大体こんななんですよ、放っといて大丈夫です。
それより本当に転移者ですか?
他の知ってる方よりずいぶん器用で見た目も日本人ぽくないんですけど…』
『ああ、江戸さんか。
身体は借り物だが記憶はれっきとした日本人のオッサンだぜ、カトちゃんぺっ』
『クスッ、国のおじいさんがやってるやつですね』
『お、おじいさん…マジカー』
――――――――――
「そろそろ夕方です、本日は一度解散しましょう」
シュテファンさんの号令でいったん解散となった。
小声でジロに「またね、バイバイ」と云ったのは聞き逃さなかったぞ。
タロはいつの間にかシレっと戻ってきてた。
「先に帰って演奏の許可取っておきますから、今日はウチのお店に来てくださいね!
今日は知り合いをたくさん呼んで皆で貸し切り立食パーティですー!」
ルーディが先を制して予約を申し出る。
「ああ、それは構わないが…ルーはどうする?」
「えっ、あっ、もうこんな時間!?
私はもちろんケインさんと一緒に…きゃっ」
「何ヶ月も会えずおあずけされていた我らルイーズ様親衛隊主催の再会を喜ぶ”静かで和やかなみんなの”夕食会を、よもや邪魔するまいなそこの巨人?」
スヴェンスカさん、中二病的なアレか。
まあ再会を喜んでくれる友人がいるのは良いことだけど。
「それは彼女が決める事だろう、議論を続けたいかもしれないし」
「くっ、貴様はどこまでも…ルイーズ、門限もあるからそろそろ私たちと一緒に寮へ戻る方が良いんじゃないか?」
「スヴェンさん、私は貴方たちのものではありません。
地元学校の扱いが嫌でここに来ることを選んだこと、お話ししましたよね?
これ以上拘束するなら、私はもう貴方たちとお話ししたくありません。
いいですか?」
「す、すまなかった。
つい嬉しくて…でもルイーズを取られるかと思うと不安で…ごべんだざい…グスッ」
本当に、どっちが年上なんだよ…
しっかりしろデーン人。
「もう本当に…仕方ないですね。
確かに門限も近いですし、皆でお食事しましょうか。
ケインさんとだって明日から会えますからね、ね!」
「そうだな、3か月ぶりだし友達との再会を楽しみな。
こっちは招待されたから、街へ出かけてくるさ。
あとこっちも忘れないで引き取ってくれ」
どこまでもくっついてきそうなグリグリメガネをお引き取りいただいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます