032 tr27, supersonic hydromatic/超音速水流
どこの世界でも、若い女の子は姦しいな…
結局他のクラスにも波及し収拾がつかなくなりそうだったため、シュテファンさん主導で最寄りの大部屋へ移動。
近隣のクラスにタミー&ボブの双子も居たようで、二人とも付いてきた。
――――――――――
「ケインさんようこそ、今日は授業始めでガイダンスだけだからこの後時間ありますよ」
「ルー、ちゃんと学校来てて偉いな」
「最初からずる休みなんてしませんよ」
「貴方がルイーズの許嫁さんですか大きいですねー」
「てんせーかおおきいなーなにたべたかーこめー」
「わー北の方の方ですか!アウストリの言葉わかりますか?Osaatko puhua suomea?」
「巨人族の人なんて初めて見ましたーツルツルすべすべ美味しそうですねー」
「くっ、わ、我々の翠玉の姫君を奪うなんて…なんと酷い奴だ…」
「好みのタイプはルーちゃんみたいな娘ですか?若い子がいいんですか?!」
「大きいですね頼もしいです結婚してくださいっ!」
おい、なんか違うのが混じってるぞ。
「わ、わかったからしいっぺんに云うな。
ちゃんと答えるから、まずは自己紹介してくれ。
オレはケイン・カトー、ルイーズとは偶々野盗集団の退治で知り合った転移者だ。
北の生まれじゃないからそっちの言葉は判らん、アウストリ語は習った、日本語は話せる。
この後俺は旅に出る、彼女とは再開の約束はしたが婚約はしていない。
それから初対面で結婚の約束はしない、だいたいオマエラ学生だろ」
「失礼ですねっ、ルーちゃんは最年少で14歳ですけど他は成人してる子もいっぱいいるんですよ。
ちなみに私はマジヤルから来たウオルフ・クリステン・エデ・アンタル、クリスって呼んでください。
私は18歳だけど、第2学年でルーちゃんと同学年よ」
この子もケモミ…ええい、ケモミミで毛が多い。若干東洋寄りの顔立ち、亜麻色の髪で目は茶色。
「わらしはーエドムラサキ、アッペンニーニ、アウストーリがんがるねー。
『日本語判るんでしょ?私は江戸 麻子、イタリアのフィレンツェに住んでる転移者の2世よ。
悪いけどアウストリ語苦手だから、日本語でよろしくね』」
うん、日本人。黒髪・黒目だけど、縄文系のクリっとした目鼻立ち。
「私はアルフレティア・メイヤーラッケン、アルフです。
バルトから来ました、もう成人してますよ。
Harmi, etten osaa puhua suomea…(スオミ語を話せないのは残念です…)
でもプロイセン通り越してこの学園に来られてとっても嬉しいです!」
白に近い金髪でスカイブルーの瞳。優し気なお姉さんですね。
「フルヴァツカ繋がりで姫様と一緒に帝都へ来た、ルーディ・グラーフです。
うちは普通の家で余裕はないので、一家で移り住んで都市の食堂を営んでいます。
お話し終わってから、今日の夕食は皆で家へ食べに来てくださいね!」
赤髪に垂れ目でソバカス、面長だけど愛嬌がある。
「スヴェンスカ・フィッシャーだ。
おのれ我々の希望の星、大事に見守ってた翠玉の姫様を掻っ攫うとは…
いいか姫様は誰でも真っ直ぐ目を見つめて会話してくれる、この上ない麗しい皆の妹なんだぞ!
それをよくm」グエッ
オレンジに近い赤のショートカット、目は青い。気の強そうな吊り目だが、今は後ろからちびっ子に羽交い絞めされとる
「もういいでしょ本人の選んだ事彼女はスヴェンのものじゃない。
それより私はアンドレラ・ヒルガス・キッサラ・ヴァン・プリンシラですイスパノから来ましたアンて呼んでください成人してません大きい人好きです結婚してください」
嫌な予感のする名前だ。
早口でまくし立てる独特な口調の、おかっぱ頭のグリグリメガネ少女…小学生かな?
なんでチビッコにばかりモテるのか。
「まてコラ。
ホイホイ結婚なんていうな、ルーと話済んでないって今言ったばっかりだろ」
「?帝国は重婚良いですよ?
早くしないと自分の好きより政略結婚に出されるから今が良いですだから早く」
マジか。
「初対面で誰かもわからんのにそんなことできない。
それとスヴェンスカだっけ?奪ったわけじゃない、これからも仲良くすればいいじゃないか。
バルトの方から来た娘、オレはこれから北に行きたいか後でいろいろ教えて欲しい。
オレはたくさん食べるからな、食堂には儲けてもらいに行くさ。
『江戸さん、転生者の現状は気になるから今後ともよろしく』
クリスさんか、ルーの縁戚?ライカンスロープだね。
ルーのこと、今後ともよろしく頼むよ」
一応全部返したぞ…と思ったら、まためいめい好き勝手に話し出した。
もうイヤや…
――――――――――
暫く本人たちを差し置いてキャイキャイとやり取りが続き、やや飽き気味の双子&男性陣。
ボブさんが「せっかく魔術棟にきたんだから、魔術を披露しても良いんじゃないかな?」と助け船。
気の利く系男子、アリガタヤ。
「ならば私が見本をお見せしようか、そのための講師だ。
まずはこれだ」
焦げ茶色のドレッドヘアーで無精ひげのオッサン、ヴィクター・スモールスキさんが前に出る。
「ではまず、一番簡単な魔術」
手許にあった蝋燭入りのコップを左手で持ち上げ、芯へ右手を近づけタンっと大きな舌打ち。
すると蝋燭の芯に火が灯る。
「初歩の初歩、発火だ」
どこか嬉し気に、今起こった現象を説明するヴィクターさん。
「国民の約半分はこれだけでも出来ない、残り半分も次の取水がせいぜいだ」
今度はコップを机に置き、左右の手をかざして唸り声を上げる。
ある時点でズルっと大気中の何かが動いた気配がし、手の窪から雫が滴る。
「体内の魔力貯蔵量によって程度の差はあるが、通常はこの程度だ。
他に筋力や持久力など身体能力を上げる『身体強化』が一般的だが、あくまでも元の能力を補助するだけだから、無理をすると筋肉や骨が保たない。
魔術といっても、巨大な火の玉が出るわけじゃない。
但しここに通う程度に魔力を操れる人間は、操作を学びもう少し高度な操作ができるようになる。
例えば、この魔道具だ。
これはタゲルハルパと呼ばれる箱と弦を組み合わせた…楽器に近いな。
ただ魔術に使う場合だと音階表現は少なく、より遠くへ届かせる目的に特化している。
そこの窓から見える的に注目」
真ん中に大きな穴の開いた長方形の板の様な箱に弦を張った道具を抱えたヴィクターさんは、外の布切れを巻いた杭を指さす。
左手で弦を複雑な形に持ち、右手で弦を弾く。
同時に的の方をにらみつけるように声を上げ、暫く不思議な旋律を奏でる。
…と、突然的がボッと勢いよく燃え出した。
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