031 tr26, tomorrow's yesterday/明日の昨日

と思うでしょ?

見立て甘かったわ…



ルイーズたちの通う帝都高等学園は、アウストリ帝国の首都ウィーンを流れるダヌービウス(モルダウ)川の対岸北~東側に位置する。

高等学園に限らず全ての帝立学校や研究施設、運動・訓練場などが集まり、また近隣の学生や職員目当ての商売も盛んに行われており、それゆえに通称学園都市と云われる。

酒場や賭場などいわゆる大人向けの仕事は規制が厳しく、治安も良いとされている。

まあ、要人のご子息や留学生も多いからね。


新学期早々、つまり帝都到着翌日の朝から学園の使者に「ケイン様、高等学園の学長がお呼びです」と捕まってしまった。

なんでも学長はブリャチスラヴィチ家イヴァン伯爵の先輩だそうで、一家の騒動について話だけ聞いておきたいとのこと。

特に疑問もなく、チェロを担ぎ、タロ・ジロを連れて白髪の紳士について行く。

年は取ってそうだが姿勢は良く、シャキシャキ歩く。

身長は標準くらいか。


広いな、伊達に学園都市なんて言われてるだけある。

いわゆる校門はなく建物ごとに役割を割り振っているようで、学生や職員もぶらぶら歩いたり馬車に乗って移動してたり、自由だ。

我々は徒歩移動し、紳士はそのうちひときわ背の高い、時計のついた塔に入ったのでそれに従う。

うん、今08:00。



「やあ、私が学長のペーター・グラーフ・ワグナーだ。

 楽にしてくれたまえ、ああその犬たちも一緒で構わない」

ハンプティ・ダンプティみたいな人だな、卵っぽい胴体に腕と足をくっつけた感じ。

背は高い、190cmはありそうだが、動きがコミカルな所為かほぼ威圧感無し。

ハゲ仲間なんだが…髭を長く伸ばし編んでるのでオレとは違う。

チッ。


帰郷するルイーズの襲撃に始まり、一連の出来事をオレから報告。

もう何度も説明してるものの、本人たちの居ないところでは珍しい。

聞けば、授業が始まってから呼び出すと特別扱いに見えてしまうので配慮し、また連れてきた転移者の人となりも会って確認したかったとのこと。

汗をかきかき水分ごくごくだが、非常に和やかで人格者だなこのオッサン。

来栖ワイズさんとも違う人の良さが滲み出てるけれど、油断するとペラペラ何でも話してしまいそう。

気を付けよ。


しばらく滞在すると伝えると、「それなら大まかな学園案内をしようか」と先ほどの紳士を呼び出す。

彼はシュテファン・ウェーバー、秘書兼副学長…雑用に使っちゃダメな人じゃん。

「いや、シュテファン君の方から誘導と案内を買って出てくれたんだ、彼も君…というか後ろの犬に興味があるみたいでね」

犬じゃねえ狼だ、ハイイロオオカミ。

黒と白だけど。

道理でさっきからソワソワワキワキしてるわけだ。

「白い方なら撫でさせてくれますよ。白はジロ、黒はタロです」

「い、いいのかね!しかし大きいねぇ、んーかわいいでちゅねーもふもふでちゅねー」

口調。

二頭とも大人しく座ってたが、タロは飽きて欠伸して犬玉になってもうた。

つか案内どこ行った!


ひとしきり愛でて満足したのか、毛だらけ紳士のシュテファンさん。

愛想悪いのかと思ったが、単純にモフりたいのをガマンしてただけみたい。

ひっじょーに上機嫌であちこち案内してもらい、特に食堂や訓練場、音楽室なんかは参考になった。

昼食は山盛り出るトコを紹介してもらったので、3人前で済んだ。


この世界の魔術は音を出すことが発動条件になってるようで、そのため訓練場や音楽室は郊外に建っているようだ。

授業の関係でかなり頻繁に循環してるようで、直ぐに到着した乗合馬車…はサイズ的にオレは邪魔になるので、シュテファンさんだけ乗り込みオレとタロ・ジロは腹ごなしに後続ランニング。

チェロだけ預かってもらった。



――――――――――



乗合馬車で移動すること10分ほど、広いグラウンドと体育館の様な設備に到着。

様々な大きさの魔導器…魔術を誘発させるための器具が壁際に整然と置かれている。

ここが魔術の授業場だとシュテファンさんより説明を頂いた。

授業は成績別・任意or必須、魔術は必須で10名1単位の授業型式。

良くある前世の中学・高校の様な授業型式ではなく、どちらかというと大学の単位取得制に似ている。

授業単位で学年が上下するのと授業内容によって最適人数が異なるので、学校の手間はかかるがこの高等学園はこの形式だ。

帝立以外の学園だと型式はまちまちで、従って質の振れ幅も大きい…とのこと。



ちょうど屋内施設の一室で高等学年の学生が受講しており、見学させてもらう。

…ルイーズ居たよ、タイミング見計らったかのように。

シュテファンさん、さっと目を逸らしたね?

彼女も目ざとくこちらを見つけ、元気に手を振ってくる。

手を振り返しつつもシーッとお静かにジェスチャーをしたものの…遅かった。


クラスは俄かに騒ぎが広がり、やがて授業どころではなくなり皆こっちに来てしまった。

女子率高けーよ、男子2名はすっかり気圧されて後ろでポカンだよ…

キャーキャーすごい圧だ、遠慮なくぺったんぺったん腕叩くなし、コラ袖も裾も引っ張るな楽器はダメだよあーもータロ逃げちゃったよジロも仏頂面モードだよ皆こっちに向かってくるじゃないかひー


たーすけてー

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