027 tr23 talk to grandpa/祖父との対話

「ディーンお祖父様、ジェラルディンお祖母様、ずっと会わずにいてごめんなさい。

 母のこと、曾祖母様の事で、くよくよ悩んでいました」

そう告げるとともに、ルイーズの報告は始まる。



ルイーズの母親、アンソニアさんの生家はザグレヴにあるブリャチスラヴィチ家から子供の足でも通える程度に近い場所だった。

母方の旧姓でリューリク家。

訪問すると玄関がバーン!と開き「ルーちゃん!」と弾丸が飛んできた。

ジェラルディンお祖母様だろう。

ルイーズを抱きしめたまま大泣きしてしまったので、後ろからすっと出てきたご老人、おそらくディーンお祖父様とオレで苦笑いしながら場が落ち着くまで待った。


お祖母様が落ち着いた頃に4人でお屋敷へ入り、応接間へ通される。

屋敷はさほど大きくなく、通所の民家よりは大きい程度。

余分な屋敷や厩は併設していないものの庭は広く、老夫婦が静かに暮らすには十分持て余しそうだ。

ブリャチスラヴィチ家と違い既に隠居しているだろう年齢に見える。

ちなみに、リューリク家は二人ともケモm…柔毛で包まれた耳でした。

旦那さんはワイヤーフォックステリアそっくりの眉にお鬚。灰髪・灰目で、背は高いが猫背だ。

奥様は…ポメラニアンだ。クリッとした目で、この一族としては珍しく背が低い。



――――――――――



「先ほどはジェリーがすまなんだ、ミハイル君から事情は聴いていたんじゃが、それでもずっと心配してたんじゃよ。

 ルーは大きくなって、ワシらも年を取る訳じゃよ。

 とはいえルーはもう大丈夫そうじゃな、迷いのない良い目をしとる」

「いいえ、私こそ何年も連絡せずすみませんでした。

 地元の学校に行かなくなった挙句不幸が重なって、手元の事に集中しないとどうしても悲しかったので…」

「ええい、あのホームズと云ったか、あの悪ガキもそうじゃが、ちょうど巡り合わせの悪い時期だったと思うしかないわい。

 じゃからワシは反対したんじゃ…」

「…グスッ、アンは身体が弱かったからルーちゃんと引き換えに命を落としたのは仕方ないのよ。

 ドナさんも随分なお年だったし、最後まで貴女と一緒に居られて幸せだったはずだわ。

 それより、里帰りで何度も襲われたと聞いて心配だったの」

「はい…ジェラルディンお祖母様、ディーンお祖父様もご心配おかけしてすみません。

 今日は今まで尋ねる勇気が出なかったことの謝罪と、里帰りで起きた事件の報告に来ました」

ルイーズは事の経緯を伝え、ところどころオレが補足を入れる。


「ともかく無事でよかった。

 これからは帝都の高等学校に通うんじゃよな。

 あそこならお前さんの兄・姉も通っておるし、今後は里帰りも彼らと一緒にするといい。

 それとケイン君だったかな、彼と一緒に訪ねてきたということは、そういうことなんじゃろ?」

「…はい」

頬染めてチラ見すんなし。

まだ判断保留。

「もうすっかり年頃じゃのう、イヴァン君とアンは幼馴染でそんな時期は無かったからのう、ほっほっほ」

「やだもうお祖父様ったら!」バシーン

久々にしちゃお年寄りに容赦ねえな、すごい音だったけど大丈夫か…大丈夫か。

ホントキミら一族は頑丈だね。



「実は昨晩ブリャチスラヴィチさん邸の別室にワシら二人とも居ってな、こっそり演奏を聴かせてもらったんじゃ。

 久々に感動したわい。

 ルーは腕を上げたな、ドナさんの演奏を聴いてるようで素晴らしい出来じゃった。

 それからケイン君の使っていたチェロはな、ワシが若いころ手に入れた品なんじゃよ」



――――――――――



ディーンさんは若いころ軍属で、とある任務からフローリア共和国へ潜入していたそう。

そこで自ら”不器用”を名乗る白髪の老人、おそらく転移者に出会った。

彼は穴の開いたチェロを入れたケースを大事にしており、農業に勤しんでいた。

彼の国は転移者への風当たりが厳しく、そのチェロだけは死守したものの農奴のような扱いを受け、独立できる頃には既に老人だったという。

同じく弱い立場のライカンスロープとして親しくなったディーンさんは、身寄りのない彼の近くで生活しつつ自分の任務についていたが、ある年不幸にも近隣で戦争が起こった。

力を振り絞り楽器を抱えて逃げようにも、年老いた彼には既に持ち上げる体力も、ましてや逃げ先もない。

大砲の音が聞こえても虚ろに座る彼を見かねたディーンさん、楽器は自分が持つから一緒に逃げようと説得する。

ありがとうありがとうと呟く彼を連れ、アッペンニーニ半島の転移者村へ移住を果たすことができた。

その後彼は同郷者もいる安心感から最期は良い一生を送れた…と語っていたとか。

そして、形見としてチェロとそのケースを受け取った。



――――――――――



「察しの通り、ワシは当時フローリアで開戦工作をしとった。

 チェロは受け取った当時はずいぶん痛んどったが、アチコチ手入れして楽器として使えるようにした。

 じゃが、この穴だけは彼を忘れないための痕として敢えて残したんじゃ。


 ワシはなケイン君、戦争を悪いことだとは思っとらん。

 自分の仕事には誇りを持っておるし、後悔はない。

 じゃが、戦禍で不幸になる人間も居ることを忘れてはならんと思うんじゃよ。


 この楽器は親族で一番優しい孫娘のルーが選んだ、その伴侶に持っていてもらいたいとずっと思っておった。

 キミがまだルーと生涯を共にすると決めていないのは知っておる、だからこれはキミに貸したい。

 4年後この地に戻ったらいったん返して、その間の経験をワシらに話してもらえると嬉しいの。

 老い先短い老人たちの楽しみじゃ、受け取ってもらえんかね」


ズルいな、こんな話聞いたら嫌とは言えないだろ。

「…わかりました。

 帰ってきたら、必ず報告に参ります。

 話ができるよう、頑張って生きてくださいね」

「ホッホッホ、云うのぅ!

 よかろ、ジェリー共々健康に気を使うことにしようかの」

「ええ、私も楽しみにしてますよ。

 じゃあディーは、早速今晩からお酒は控えましょうね?」

お祖父様、ションボリ。



――――――――――



思わず長居してしまった。

帰り際にケースに収めたチェロを受け取ったが、ワンポイントで孔と同じくらいの辺りに星をあしらっただけのシンプルなケース装飾がおしゃれ。

昼食も挟んでいろんな話をし、ブリャチスラヴィチ邸へ戻ったのは夕食前。

鍋が冷めないどころかケンケンパーで即たどり着く距離なので、皆さん居るのは判っていたそうな。


夕食後に本日の報告をし、就寝。

今日はタロとジロに会わなかった。

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