026 tr22, how we treat each other/お互いの扱い

次の経由地は、前回も宿泊したリュブリナ。

取り調べもだいぶ住んでいるはずなので、あとは次兄ランディさんに報告する運びだろう。

…ちゃんと到着できればね。


昨晩は、例によって死屍累々だったから。

いつの間にか双子のタミー&ボブにランディさんまで合流して、またルイーズだけ置いてけぼりかよと不憫に思ったくらいだ。

途中でそっと抜けて宿に戻ったら、怖い笑顔でタロとジロを撫でまわしてた…普段気を使わないタロまで逆らわなかった、と。

ちゃんとワタクシ、水浴び・うがいしてから寝かしつけましたよ?

毛はないけど気は使うんだよ。



――――――――――



翌日、やっぱり呑んでた面子は殆ど時間通りには出てこない。

シャンとしてるのはランディさんとイザックだけだ。

ジェイク隊長が後ろでボソッと「ケインに合わせて呑むと、大体皆こうなるんだよ」と呟いてたけど、知らぬ。


そんな調子で一応時間通りにリュブリナへ移動。

ランディさんはその足で領主館へ向かい、ロベルト伯爵や警備隊の方と打合せ。

我々は…今日は大人しく寝よう。

明日は全体で早駆けしないと、当日中にザグレヴへ到着できない。



――――――――――



今回は襲撃もなく、広くて整備の行き届いた主要道路を通ってザグレヴへ。

鉄の道?なんだこりゃと聞いたら、主要都市間に設置された馬引き定期便の馬車道だそうで。

すげえ、維持・管理でアホほど労力必要だろうに・・・手紙や荷物の往来が便利なわけだよ。

何気に文明度高いんだよなぁ。

土木や農業、飲食分野はそこそこ発展してるけど、ストレートな化学や工業の分野はそうでもないみたいだけど。

全体的にチグハグな印象。


昼食と晩御飯は、それぞれ街道沿いの飲食店で済ます。

時間もないし荷物も増やしたくない、しかも質の高い食事とくれば野営する理由はない。

本当にこの国のご飯は美味しい。

転移・転生者の恩恵か高価ながらマヨネーズやケチャップはあるし、香辛料も種類豊富。

残念ながらコメは流通してないようだが、これは気候・風土の違いで仕方ない。



夜の帳も下りきったころ、ようやく大きなお屋敷に到着。

ロビーには老紳士・淑女がお待ちでした。

「ミハイルお祖父様、シャロンお祖母様!こんばんは、ご無沙汰していました。

 去年の入学前以来ですから、もう1年ぶりでしょうか」

「おかえり、ルイーズ、タミーにボブ。

 皆元気なようで嬉しいよ」

予想に反して、お祖父様は標準よりやや低い身長で優し気な白髪にブラウンアイ、お祖母様はランディさんより高い!骨太の体格で赤髪に薄いヘーゼルアイだが、一歩下がってニコニコしている。

耳を見るとライカンスロープは祖母方の遺伝のようだ。

お二人とも70歳近いと道中聞いたが、姿勢が良いので年よりお若く見える。


「立ち話もなんだから皆応接室に行こうか。

 キミは噂のケイン君だね、本当に大きいな!

 ルイーズの護衛、よろしく頼むよ。

 キミも一緒に応接室へどうぞ」

他の騎士団や馬車、タロやジロは裏手へ回り、停泊の準備を始める手筈となった。

ま、オレがそっちに居ても邪魔なだけだ。



ルイーズから祖父・祖母には、オレや狼達と会った経緯や乱闘騒ぎの事、墓所の件、誕生日から後など夏休みの事を中心に話す。

タミー&ボブは学校の事、ランディさんは領地や社交、今後の方針など、だんだんワカラン話になってきた。

「ところでケイン君」

「あっハイ」

「そういえば君は楽器演奏できると聞いたよ。

 ちょっとルイーズと一緒に演奏してみないかい?」

気を使われてしまった。


時間も遅いので大人しくフーガ・ト短調とG線上のアリアを、ルイーズはギターで、オレはチェロを借りて伴奏。

変なところに穴が空いてるが、よく手入れされて深みのある良い音だ。

「ありがとう、息も合い素晴らしい演奏だね。

 さあ夜も更けたし、切りのいいところで本日はお開きにしようか。

 年を取ると夜も早いんだよ」

皆から拍手と、お祖父様からウインクを頂いた。

というわけで、本日はお開き。


ランディさんはお二人と共に退室したので、まだ話があるんだろう。

双子はずっと大人しかったが、疲れより緊張してたっぽい。

ルイーズはさすがに疲れたのか、今日の突撃はなかった。

ふう。



――――――――――



翌朝。

勝手に出歩くのは憚られるので、大人しく割り当てられた部屋で室内トレーニング。

朝食前の時間に侍女さんが来て「お水とタオルをお持ちしました、お体お拭きしますよ」

と手押し車と共に入室。

手が届かない背中だけお願いし、後は自分で拭くとタオルと桶、水瓶を借りた。

貴族としてあるまじき!なんていう人は言うかもしれないが、オレ貴族じゃないもんね。

それに表面積も大きいから、女性にお願いしたら労力的に大変すぎる。


そして朝食。

「皆何日か滞在するんでしょ?

 明後日は近隣に住むイヴァンの兄妹や親しくしている領主さん、縁者さんたちを呼んでちょっとしたパーティを開くけど、今日と明日は自由にしていいわよ。

 お買い物なら、行く前にお小遣いあげるから受け取るのを忘れないようにね」

お祖母様だ。

そういやブチャチスラヴィチ家の母親のこと、良く知らないな。

命日的にルイーズの出産と引き換えにお亡くなりになったと思うが、それだけに聞きにくい。

「やった!これからお買い物だ、ボブさっさと行こーぜ!」

「姉さん僕はまだ朝食終わってないよ、ホントにいつ落ち着くんだ」

「うっさい早くしな!朝市は待ってくれないんだからね!」

「ああもうわかったよ…皆さんごめん、一足先に行ってきます」

「行ってきまーす!」

朝から元気だなぁ。


「私はお祖父様・お祖母様と報告が済んでいないので、この後も館に居ます。

 明後日のパーティで会えるでしょうから、今回の親戚巡りはパスですね。

 それでは、ごちそうさま」

ランディさんも席を立つ、朝からスマートだ。

間違いなく三人ともルイーズに気を使っている。


ややあってルイーズは決心ついたか、俯いていた顔を上げる。

「私は…うん、今日これからご挨拶のためリューリク家のディーンお祖父様、ジェラルディンお祖母様と会いに行きます。

 ずっと会わずに不義理をしていたので少し心細いですが…ケインさん、一緒に来てもらえませんか?」

「ああ、いいよ。

 オレは特に予定もないから、最後まで付き合おう」

「ありがとうございます。

 明日は、お買い物も一緒に行きましょうね」

さらっと違う予定も組まれた。

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