025 tr21, 21/21

出発の日まで6日間。


サブロとシロ子は知ってか知らずか元気なかったが、なるべく一緒に居て遊んでおく。

相変わらずタロもジロも食欲旺盛なので、狩りに精を出す。

最近は近場で匂いを覚えられたか取り尽くしたか大型動物の姿を見ないので、領土侵犯にならない程度に遠駆けしたり、近場なら川場で電撃の練習がてら魚も調達してくる。

動物は現地で捌いた方が効率良い場合が多いので、捌き方も伯爵邸の職人に教えてもらった。


またもや伯爵に色々準備してもらった。

礼服はサイズが全く合わないので、大至急でお抱え職人の方にお願いして誂えた。

金属鎧を準備するほどの時間はなかったので、なし。

武器としては使い方判らんので、虚仮脅しの重い大剣。

この国で一般的な服装、野宿のための道具、布、鉈、解体や簡単な調理で使えるナイフなど、身の回りのもの一式も併せて。

そして護衛に持たせるには少々多額の銀貨。

代金は「学園都市までルイーズを護衛すること」だそうで、また恩が増えた。


ルイーズは準備に時間がかかるのか、あちこちバタバタ行き来してあまり話をする機会はなかった。

少し気まずいのもあるだろうし、女性の準備は手間がかかるモノだと思っておこう。



――――――――――



そうこうしているうちに、出発当日の早朝。

サブロとシロ子に、しばしのお別れを告げてきた。

ベロベロされたが、他の伯爵邸の犬たちにフォローされてた。


今回は騎士団を増員して20名、更にそれ以外で数名追加。

普段ここまでそろえて移動することはないそうだ。

オレは、荷物だけ馬車に預けてタロ・ジロと共にランニング。

大きすぎ重すぎで黒王号みたいな巨躯の馬はそうそういないし、そもそもオレ乗馬できね。


それぞれ挨拶を済ませさあ門を出るか、というタイミングでひょっこり現れたよシティア。

「俺も帝都ウィーン方面に用があるんだ、乗せてってくれよ」

ヒッチハイクですか。

「あらシティアさん、こんにちは。

 ご一緒にウィーンまで向かいましょう。

 お父様、良いですか?」

「ああ、そのつもりだったからね。

 馬車に同乗して行きなさい」

「はい、それでは今度こそ行ってきます。

 お父様も、去年と同じくお手紙出しますね」

「つ、つばm…」

「ふ・つ・う・の!お手紙です。

その方がたくさん送れますし、贈り物だって一緒に送れますから」

「あ、ああ、そうだねウンウン。

 それじゃあ行っておいで。

 身体には気をつけてな」

「そんじゃーな親父、行ってくるぜー」

「お父さんも、身体に気を付けて」

あれ、確かルイーズの双子の姉兄トマジア&ロベルトだっけ、そういえば同じ学園だったな。

「私も学園経由で帝都に報告を済ませてきます」

おっとイケメン侍従…じゃない、次兄のランディさんじゃないか。

「皆、怪我はするなよー、いってらっしゃーい」

ゴツい外観に似合わずマメなオッサンだよな、イヴァン伯爵。

あれで少し毛を分けてくれれば…ぶつぶつ。



「家族の半分以上で移動ですね、なんだかオレだけ場違いで申し訳ない」

「何を言いますか、戦力としても期待していますよ。

 ちなみにカーマイン兄さんは、パーティの後直ぐに軍務でとんぼ返りしました」

大変だねぇ。

ブリャチスラヴィチ家はルイーズ以外、全員乗馬組。

外観的な威圧の意味もあるとか。

流石に乗馬組の隣だとオレが見上げる形になるが、そんな違和感ないのはすごく奇妙。

「ケインさん、やっぱデカいね…

 うちのルーとはいつ出会ったんだっけ?」

「それがな…」

移動しながらの会話は、案外盛り上がるものだ。



――――――――――



「相変わらずイヴァン坊やはルーに甘いなぁ。

 外のデカいのとは話付いたかい?」

「はい、先日の墓所ぶりですね。

 お互い今年は曾祖母様の命日に間に合いませんでしたが、お母様の命日は行かれましたね。二人ともきっと喜んでいたと思います。

 ケインさんとは学園まで一緒に行って、4年後に帰ってきてもらう約束をしました。

 お父様から、通信用の鳥まで貰いましたよ。

 その後ドラクルやアベルは見つかりました?」

「ドラクルのやぶ蚊野郎はアホだからすぐ見つかったよ。

 あいつは泳がせておいた方が利用価値があるから、放置だな。

 アベルは…やっぱり危険だ。

 普通人間の四肢なんて再生するわけないのに、狼に千切られた指が生えそうな勢いで治癒してたわ…

 あれからまだ数週間しか経ってないのに。

 あいつどんだけ遺伝子いぢくられてるんだ…ってルーに云う話じゃないか、ごめんな。

 ちょっとアベルの方を偵察する必要があるから、また暫くは会えないな。

でな、ルーからもケインにはアベル関連の話は控えたほうがいいかもしれない。

 どうもアベルに対する忌避感は残ってるようで、無意識に忘れようとしてるみたいだから」

「ふふっ、わかりました。

 工作員の方々も、いろいろ難しいんですね」

「そう、俺たちだけの秘密な。

 ちょうどデカいのは外の話に夢中だ」



――――――――――



ロヴィニ港からトライエステまでおよそ半日、行きとあまり変わらない。

基本凪いでるから、魔術士頼みなのは違うところか。

トライエステは船員たちもいったん陸に上がったので一緒に呑みに行く、スポンサーは何とロブ船長。

今回ジェイク隊長は宿で待機、イザック率いるアウストリ語オンリー軍団は付いてきた。

もう言葉の壁はないから平気だもんね。

タロとジロは例によってルイーズたちとお留守番、ジロ接待係長よろしくね。

で、ちゃっかりシティアは食べる係としてこっちに混ざる訳だ。


「オーゥケイン、会うのは二回目だが俺たちゃ呑み友達だなー?」

早くも出来上がってるな。

「ヒゲ船長、前回オレは呑みもしなかったがオレたちゃもう呑み友達だな。

 ああそれからそこのちっこいのは喰い友達シティアってんだ、多分知ってるだろがな」

「おう酒は控えとくが喰わせてもらうぜ、ロブ坊よ。

 お前さん久しぶりだな?」

「ははいっ、シティアおば…(ガスッ)…姐さん!今日は奢りです」

「よーし」

途中で楽器が飛び出したり腕相撲大会で儲けさせてもらったり、その日の夜は更けた。

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