024 tr20, difference/違い

水浴びをしたら腹が減ったので、港近くのレストランへ。

なるべく船乗りの集うような、量が売りの店をチョイス。

…で、なぜかちゃっかりシティアが同席するんだな。


「この店はどーよ?質と量」

「どっちも良い、鼻が利くな」

「オレはお前の財布か」

「ヘヘッ、いーじゃねーか。

 こんなカワイイ子ちゃんとごはんデートなんて、なかなかできないぜ?」

「おま」

「つーわけでゴチ!

 オススメ注文しとくから、あとは任せな」

・・・今度は2人で10人前。

机に乗りきらなくて、店員引け気味だったぞ。

ここにタロとジロの肉も追加になったから、早くもお小遣いピンチだ。


「もう伯爵邸へ戻るのか?」

「ああ、昨日の今日だが踏ん切りはついた。

 向こうさん方とも話さないといけないし、街中で狼がうろうろしてるのも良くないだろ。

 何よりこの食事で、財布が大分軽くなった」

「かっこつかねーな、まあそんなもんか。

 イヴァン坊やにはオレから伝えとくから、明日の朝にでもそいつら連れて行きな」


元々長居するつもりはなかったけど、思ったより短かった。

晩御飯は・・・独りと二頭で鹿を狩ってきて、そのバーターとして食べさせてもらった。

昼の食事風景が厨房で大ウケだったらしいのと、ジロを気に入った給仕さんに取引を持ち掛けたらOKだったからだ。

繁忙時間を過ぎたら、追加料金でジロに接待してもらった。

タロは我関せずでどっかで寝てた。

オレは腕相撲大会で小銭稼がせてもらった。

船乗り、わかりやすくてイイネ!



――――――――――



そして翌日。

緊張の面持ちで伯爵邸へ。


「さてケイン君、肚は決まったかね?」

「…はい。

 知る旅に、出ます」

「じゃあ私も!」

「だめだルイーズ、何度も言っているが君はまだ子供だし、学生だろう。

 まずは学校でたくさん学び、経験するんだ。

 授業だけが学習じゃない、同年代の子から悪意も善意も受け、与えてほしい。

 一生のうちでこんなに恵まれた時間はないんだよ」

「だけどあなたと過ごす時間は今しかないじゃない!」

「ルイーズ…彼の言うとおりだ、君はまだ学生、しかも14歳になったばかりの未成年だ。

 一時の気持ちで投げだすには、まだ早すぎる」

「でもっ…」

涙をこらえ下を向くルイーズ、腕を組み重いため息をつくイヴァン伯爵。

うん、修羅場。


「ルイーズ、4年間だ。

18歳ならば成人として認められるし、学校も卒業できるだろう。

 それまでは学業に集中しなさい。

 ケイン君、君は4年間で帰って来られるかい?」

「…おそらく」

「ケインさん、4年後に帰ってきて結婚してください」

「途中を飛ばしすぎだ。

 帰ってくることは約束しよう、だが一足飛びに結婚は早まりすぎ。

 今はオレばかり見ているかもしれないが、学校はいろんな人と出会う場でもある。

 さっきの話と同じ、集団生活で人の魅力をよく知って、それから比較しても遅くはない。

 だから、今は再開の約束にしておこう」

どう考えてもこの美しくて真っ直ぐな娘さんにオレじゃつり合いが取れない、美女と野獣もいいところだ。


「オレは今の見た目の年はともかく、中身は伯爵の年齢に近いと云ったよな。

 向こうには10歳と7歳の息子が居て、ルイーズはその子らと同じ子供にしか見えない。

 家族としての親愛はあるけれど、異性としてみてるわけじゃないんだよ。

 そういう扱いはせめて成人してからにしなさい。

 だから、オレは伯爵の提案する4年後には賛成だ」


「ルイーズ、お父さんからの提案だ。

 これを君にあげよう、少し遅れたけれど誕生日プレゼントだ。

 一般には流通していないから、入手に手間取ってね」

チュビチュビチュルルと鳴く鳥の入った大きめの巣箱と、その鳥が止まれそうな止まり木だ。

「巣の中には燕のカップルが住んでいる。

 住んでいるのはそんなに珍しい個体でなく、春から秋にかけてよく見かける燕の、たまたま魔力をため込む能力があったもので、便宜上魔燕と呼ばれる生物だ。

 この組み合わせの素晴らしい点は、この巣と止まり木だ。

 巣と止まり木は非常に珍しい種類の木材でできていて、その巣に住んだ生き物は必ず止まり木との間を往来する習性をもつんだ。

 例え、その間が数千kmだろうと。

 燕の飛行能力も数千kmと云われているから、この地球上に居る限り手紙で連絡を取ることができるんだよ。

 中に住み着いた魔燕も必ず夫婦で、片方が死ぬと自然ともう片方は巣から離れていき、どこからか別の魔燕の夫婦が住み着いて止まり木と往来を始める。

 ルイーズ、また少しの間寂しいかもしれないが、これで手紙をやり取りして我慢してもらえないだろうか。

 だからお父さんと文つ…」

「お父様、ありがとう!

 ケインさん、これならいつでもどこからでも文通できますね!」

伯爵しょんぼり。



――――――――――



都合の良いものだな、とは思う。

皆が少しづつ我慢して良い結果に導いたというと耳障りは良いが、結局のところオレが我を通したかっただけ。

だが知りたい衝動を抑えることはできないし、立ち枯れするのも申し訳ない。

ただ問題を先送りしただけにしても…少しだけ、少しだけ時間が欲しい。



――――――――――



話はもう少しだけ続く。

「ルイーズそろそろ9月だ、高等学園の新学期が始まるな。

 今日は8月15日、そろそろ向こうへ戻る準備が必要じゃないか?」

「そうですね、お父様。

 行きと同じ道順…は良くないので、王国の首都ザグレヴを経由して戻ろうかと思います。

 あ、そういえば今はザグレヴにお祖父様とお祖母様が滞在していますね。

 お兄様、お姉さまたちと共にご挨拶しますよ」


「すまない、オレからもいいだろうか。

 サブロはどうしようか、まだ傷は完治してない。

 歩くくらいならできるが、このまま連れてゆくのも難しい」

「サブレとシロッコは、うちで面倒見ようじゃないか。

 他の家に居る動物たちと仲良く出来てるし、どちらもケイン君やタウル、ジェーロと一緒に旅するのは少々厳しいんじゃないか?

 サブレとシロッコは我々の知るハイイロオオカミの体格の範囲内だが、タウルとジェーロ、特にタウルは異常に大きい。

 おそらく魔力を吸う能力があるのだろう、放っておくと魔獣認定されかねん。

 狼たちの問題がそれで良ければ、ザグレヴで父と母に会ってから学園に行くのが良いな。

 事前に連絡しておくから、余裕をもって8月21日に出発でどうだい?」

「はい、皆にも伝えてそのように準備します。

 ケインさんも同行で良いですね?」

「ああ、イイとも。

 イヴァン伯爵、ルイーズも、何から何までありがとうございます。

 冬になる前に北へ向かいたいから、1か月くらいは学園に滞在できるかもしれない」

「やった!ありがとう、ケインさん!」

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