018 bonus04, no rest for the wicked/悪人に憩い無し


――――――――――


予想外だ。

計画は失敗し、資産や眷属も一部失ってしまった。

だが我々にはアベル様が居る、勝ったも同然だ。


我輩がSSSRの工作員としてこの魔術世界に送られてきたのは、計画7組のうち6番目、最後から二番目のはずであった。

なのに搭載筒の蓋を開けてみれば…予定より400年も早い!

嫌々フセスラフと組んでやったのに本国の技術者許すまじ。


元々我輩は300年を超す長寿にデザインされた選ばれし人種だったが、400年では身体が保たない。

フセスの犬公をさっさと放り出し、我輩は搭載筒に乗りワラキア方面の山中深くでコールドスリープを決め込んだ。

設定は300年、他の工作員に先んじて出先の機関を作る算段であった。

最後に確認した限り、犬公はポーランド近くまで追い縋っていたようだ。

ざまあである、施設で散々馬鹿にしよった仕返しだ。

せめてもの情けで荷物も一緒に降ろしてやったのだから、文句を言われる筋合いはない。

起きるころには、どうせ死に絶えておる。


目を覚まし、我らが都に拠点でも作ろうか…と我らが首都モスカウへ向かう。

道中マジヤル人でも冷やかすか、とハンガリーを通過したのが間違いだった。

あのフセスの犬公、子孫を大量に残しておった。

おかげでライカンスロープの血族に我輩の存在が知られてしまった。

これはまずい、眷属を増やしてライカンスロープ共は根絶やしにしなければ。


這う這うの体で最初の遭遇から逃げ出し、こっそりとモスカウで商売を始めた。

催眠術と薬物を駆使すれば、そう難しいことはない。

ある種の病原体を利用し我輩の命令には絶対服従の眷属も増やし、財産も増やし人脈も広げたた。

そのうち同僚も続々到着した。

多少の造反者が出たものの、既に大拠点モスカウを要するルスカーヤ聖導帝国は我ら陣営のものだ。

盤石の態勢で本国SSSRへの連絡手法を構築している。

あとは最終便のペア到着後、お迎えするのみだ。



だが。

よりによって最終便の到着予定地は、フセスラフの血が一番濃いイヴァンの居るフルヴァツカ方面ではないか。

あやつの近隣は我輩の影響力が薄く、場所を特定されやすいから行きたくないのだが…

仕方ない、麻酔薬や遅効性の腐食毒など、考えうる限りの装備でフルヴァツカへ行った。

また先行して現地の眷属へ連絡し、今回の計画の概要と下準備を伝える。


不幸は重なるものだ。

最終便の搭載筒は目前で何者かと接触事故を起こしていた。

搭載筒の救難信号を頼りに現場へ向かうと、おお、おいたわしや、アベル様が砂にまみれて倒れておられた。

ケイン?あ奴は頑丈だけが取り柄で愚鈍だから後回しだ。


急いでアベル様の手当てを行い、使用できそうな機材を引き連れていた眷属に運ばせる。

現場にほど近いリュブリナに待機させていたホームズ商会のシャルロックは、流石優秀でブリャチスラヴィチの喉元に突き付けた我輩の懐刀だけある。

概要だけで入手困難な大砲やマスケット銃、襲撃実行犯として足のつきにくい傭兵、イヴァン対策として末娘誘拐の段取りまでつけていた。

最後の誘拐はおまけだが、シャルロックの息子がおもちゃに欲しがってたようなのでその程度は役得として黙認だ。



――――――――――



不幸に加え、想定外まで起こってしまった。

あのうすのろケインが、狂ったような立ち振る舞いで傭兵たちをなぎ倒しおった…

止めようにも我輩やアベル様に向かって敵意を剥き出しにしたので、いったん引き下がるしかなかった。

思えば、ここで撤退して計画を練り直しておけばよかったのだ。


計画失敗に泡を食い慌てて夜襲を掛けようとしたシャルロックの妻はリュブリャナで捕縛された。


何とか失敗を取り戻そうと直近の生活まで調査してロヴィニの墓所で待ち伏せしたシャルロック自身は、今度は息子のジャンに足を引っ張られ失神。


計画を確実にするためと戦力として立ち合いを乞われた我輩とアベル様まで、あわや捕縛の危険にさらされてしまった。

アベル様は『うーん、ケイン君に充電してもらったから大丈夫だよ♪』と仰っていたが、野良犬に噛まれた指まで一部欠損した両手は痛ましい限りだ。



――――――――――



組織の長として、時には損切りも大事である。

ロヴィニ方面の諜報網は弱体化するが、今は耐えるしか無かろう。

アベル様のご回復を待ち、それから今後の方針を固めよう。

ルスカーヤのあの方へ報告したり、別方面の侵攻も進めなければならない。


そういえばルスカーヤ方面のマッチポンプ戦局はどんな進捗であろうか。

弱体化したと思わせてマジヤルの油断を誘う作戦だが、アベル様の療養中に現地視察してこようか。

それともプロイセン帝国をつつくか。

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