017 bonus03, angels and demons/天使と悪魔

予想外だ。

計画は失敗したが、悪くない。

しばらく様子を見て、上手く引き込みたい。


SSSR(Soyuz Sovietskikh Sotsialisticheskikh Respublik / 社会主義共和国連邦中央評議会、日本でいう旧ソ連の事ね)の工作員として魔術世界へ送り込まれる予定のメンバーは2名で一組の組み合わせ、全部で7組14名。

現在12名まで確認されていたが、内紛で分裂した。


俺は共産主義者の計画を阻止すべく活動する側…といっても世界を救うとか悪を倒すだのといった高邁な思想はない。単なる私怨だ。

知らない人間がどうなろうと知ったこっちゃないが、知っている人間だって好きと嫌いに分かれる。

いや、俺自身は人間と云っていいのだろうか。

俺には親兄弟も性別もない、デザインされた生物だから。


SSSRはバイオ技術と空間物理技術が特に優れた先進国家だ。


沢山の下層民を使った人体実験で生命の秘密を暴き、ついには俺やユリア、一部工作員は化け物じみた能力を持った生物として生を受けた。

バイオ技術と云っても、せいぜい現存する任意の遺伝型式を抽出して任意の対象DNAへ埋め込む、クロマチンの分裂度を有意に決める、テロメア修復酵素などの酵素・免疫系を追加する、RNAの転写部位を指定するなど、発生を有意にする程度だ。

当然ながら遺伝子配列の意味と発生する現象、相互影響は研究済みだ。


空間物理学は当初、ABC兵器(Atomic / Bio / Chemical)以外のクリーンな兵器開発を標榜して開発された。

当然ながらクリーンと云っても人道云々ではなく、接収地域の迅速な支配を目的として。

サリシャガンでスカラー兵器を開発したものの予想をはるかに下回る攻撃力に幹部は落胆、兵器としても開発は無期延期となった。

だが失敗ばかりではなかった。意外な利用方法が考案されたからだ。


時間軸は-x~+xの一方通行・一次元通過と考えがちだが、そうでもない。

物理空間に縦・横・高さのx-y-z3次元軸があるように、時間軸にもx-y-z3次元軸がある。

時間経過の速度は同一でもx方向に進むかy方向に進むか、それともz方向へずれるかは世界ごとにランダムで、しかも経過時間の速度が同一だと相互距離感の違いで存在する時間にズレが生じる。

世界が袂を分かつ原因は解明されていないが、これによって平行世界・多重世界といった別の世界が派生する。


理由不明ながら、奇跡的に魔術世界と資本主義世界はかなりの精度で重複し、同方向に平行移動している。

時間軸の僅かな速度違いで地球の空間座標に差が出て、そのおかげでイウロパ大陸には日本人が多くいるのだろう。

ところが共産主義世界は違う。

空間兵器やスカラー波操作を積極的に駆使して自ら魔術世界へ重複した。

エネルギー収支的に、魔術世界の魔力物質の回収で社会が存続すると考えたのだ。

他の計画も同時進行しているものの、俺を含めた工作員がここに割り振られた。



――――――――――



他の計画は俺も知らない、けれど魔術世界奪取計画の工作員たちは、施設教育時代に全員と過ごした。

皆が皆仲良かったわけではなかったが、それでも再開を喜ぶ程度の間柄だと思っていた。

魔術世界で再開するまでは。


無理に近づけた影響で工作員の到着に数百~数十年の差が出てしまったが、今年の6月にようやく全員が揃った。

…と思ったら事故で最終便の工作員2名は行方不明。


ひとりはアベル。以前より指導者的な立ち位置だ。

だが彼は、敵対するドラクルによって先に回収されてしまった。

最も危険な、人心掌握術に長けた能力を持っている。

俺はこいつ嫌いだけど。

ドラクルに取られたのは痛手だが、見つけ次第対策をとるしかない。

どの道ヤツの性格じゃあ説得してこちら側には付けられなかった、そう思えば最悪とも言えないか。


もうひとりはケイン…ロヴィニの街中をフラフラしてるのを発見。

しかも話を聞く限り施設、いや共産主義世界の記憶はほぼゼロ、日本人が転写されてやがった。

しかも同じ名前、ケインだ。

鈍いだがイイ奴だった・・・俺、ちょっと好きだったのに。

あんま喋らない奴だったから、そんな親しくはなかったけど。


とはいえ日本人のケインってやつも面白い。

ノリは良い、打てば響くような会話、オッサンぶってる癖に子供みたいなヤツだ。

イヴァン坊やからの緊急招集がなかったら、もっとからかってやったのに。



――――――――――



墓所でイヴァン坊とドラクルが争ってるのを見て割り込もうとしたが、ケインの落雷で目がくらんだ隙に逃げられ間に入ることはできなかった。

ドラクル・アベルは逃走したのでそっちの追跡を優先し後はイヴァン坊に任せてきたが、巧くやってるだろうか。

せっかく娘さんの誕生日だっつーから外側で済まそうとしたのに、出張ってきてしかもアレだったからなぁ…


日本人のケイン・カトーは我々の手札にするため、ユリアを訪ねさせ教育してもらおうか。

イヴァン坊やに誘導させよう。

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