015 tr13, thirteen/13

ハァッハァッ、流石に全力でヒルクライム+ダッシュ10kmはキツい。

タロもジロも息上がってるが、まだ余裕ありそう。

「ヒャッハー!おっもしれー!ねぇねぇもう一回やろーぜ」

「アホ、何しに、来たか、忘れたか」ハァハァ

「そうだ、さっさと墓地行こうぜ。

 そこの丘の上だ」

「隠れて上った方がいいんじゃね?」

「だな」

「じゃ降りろ」

「ちぇ」

ちぇじゃねえ、ゲバラか。



――――――――――



向かった先の墓地。

こういう時身体がデカいと不利だ。

最終的にはオレだけ匍匐前進でシティアの後ろをついていく。

墓地の中央付近に備えられた公園エリア、そこに建つ神殿の回廊近くで、言い争う声が聞こえる。

死角になる場所を選び、物陰から近づく。


「ほはえのへいれほれははははへふしたんらよ!へひひんほへ!」

(お前のせいで俺様は破滅したんだよ!責任取れ!)

若い男性の声、歯と顎の噛み合ってない口腔特有の喋り方。

*以下お見苦しいので翻訳版のみでお送りします。

「どなたですか?」

いつもと違い、冷たい口調のルイーズ。

「忘れたとは言わせない、お前の同級生でご主人様のジャン・ホームズ様だよ!

俺様の許嫁のくせに、この犬っころ!

あんなに構ってやったのに、なんで殴った上に居なくなってんだよ!

おまけに伯爵にチクったせいでうちの商会に査察が入って、その後は左肩下がりだ。

治療も碌に受けさせてもらえなくてこの有様だよ!

責任取って俺様の身の回り世話しろ、一生奴隷になれ、謝罪しろ、金よこせ!」

「ああ、あの意地悪な男子生徒ですか。あなた、嫌いです。

 名前も覚えていませんし、怪我をさせたのは申し訳ありませんが清々しました。

 私も教育学校の頃、毎日生傷が絶えないほど沢山怪我させられましたから。

 ずっと私の文房具や荷物を持ち去っていたのもあなたとその子分でしょう?

 すべて嫌なので、帝都の学園へ転校しました。

 貴方の面倒など、診る謂われはありません」

「ああ帝都学園へ逃げたのだって知ってるさ。

 帰りに襲撃されただろ?

 あれ、うちのパパが計画してママが侍女として誘導したんだよ」

「なんということを…あんな大砲や銃、どこから手に入れたんですか?!」

「それはなぁ…ムグッ」

「おしゃべりはそこまでだ。

 お嬢様、大人しく我々に付いてきてもらおうか。

 騎士団も全滅、伯爵も押され気味じゃないか。

 ホレ、この犬っころを傷つけたくないんだろ?」


そっと顔を出すと、顔面崩壊した若い男と、彼に向き合いこちらから背の見えるルイーズ、明らかに小さな鉄檻に詰め込まれたサブロとシロ子、鉄檻に拳銃を向ける痩せぎすの伊達男。

その向こうにはやはり痩せぎすの、背の高いオールバックの男と小さなローブ姿の人間、オールバックの向こうには片膝をつく伯爵と大量に倒れた騎士団員たち。

「おいデカいの、俺は向こうへ回り込んでオールバックを死角から狙う。

 お前さんはルイーズの確保と父子の制あ…あっ!」


ルイーズが肩を震わせながらゆっくり前進し始めた。

あと少し…という辺りで耐え切れなくなったのか、伊達男へ駆け寄る。

だがこのままでは伊達男の引き金の方が早い!

「タロ・ジロGo!」

オレも帯電し、全力で駆ける…が足りなかった。

伊達男は鉄檻へ向かって引き金を引く

ダ、ダーン!

キャイン!

至近距離なのに一発外したようだ。

どこに当たったか見るのは後だ、ルイーズを追い越し父子に向かってラリアットでスタンガン。

バチーンという音と共に二人は倒れた。


その音に反応したかのように小さなローブ姿が振り向き、フードを外す。

薄い金髪にスカイブルーの瞳、優し気な目元、いわゆる美青年だ。

「あれ、ケイ…」

タロとジロは鉄檻で止まらず付いてきて、間髪入れずローブ姿の両手に噛みつく。

ガルルルゥゥゥ

二頭とも噛み付いた手を右左に振り、獲物を弱らせる行動に移る。

オレは…硬直して動けなかった。


…何故だろう。

この男を知っている、気がする。

コイツは危険だ。

本能が強く警鐘を鳴らす。

心臓は高鳴り息は詰まり、足は竦み、それでも目を離すことはできなかった。

後ろから「ダメーッ!」という声でハッと我に返り、全力で発電、右手で小柄な青年の首を掴み電撃。

ドガガガーン!

間近に落雷したかのような大轟音、意識がホワイトアウトする前に見たのは駆け寄るルイーズだった。



――――――――――



脂汗をかきながらハッと目が覚める。

周囲を見回すと、伯爵邸でオレに割り当てられた部屋のベッドだった。

腹が減りすぎて、倦怠感が激しく直ぐには起き上がれない。

ダルさが少しマシになったので起き上がり枕元の水瓶から水を飲み、そしてベッド際に座る。

部屋にはタロとジロが犬玉作って寝ていたが、オレが起き上がったのを見て膝にすり寄る。


暫くボーっとして動く気力が湧いてきたので、廊下に出て階下の食堂へ。

ちょうど夕食時を過ぎ陽が落ち始めた頃だったので、給仕の侍女に声をかけ山ほど食事を持ってきてもらう。

程なく伯爵が食堂へやってきた。


「無様を見せてしまい、申し訳ない」

「頭を上げてください。

 むしろ迷惑をかけたのはオレの方です。

 それより大変申し訳ない、腹が減って目が回るので食事しながらで良いでしょうか。

「あっ、ああ構わないよ」

その量に若干引け気味の伯爵をよそに、遠慮なく食べながら話をする。


「こちらこそ申し訳ありません。

あそこで落雷させなければ、もっと早く駆け付けられれば、最初からルイーズと行動を共にしていれば…

 後悔ばかりです」

「ふむ、君の言う落雷は音より光が大変だったがね。

 隙を突いてドラクルのやぶ蚊野郎と隣の青年には逃げられてしまった。

 ああ、私の前に立っていた痩せっぽちはドラクルという吸血男で、ライカンスロープ…特に我がブリャチスラヴィチ一族とは因縁が深いのだよ。

 奴は毒・劇物の専門家でね…迂闊ながら我々は恐らくヤツの麻痺毒にやられた様だ。

 狼達、シロッコは衰弱していたけど元気だった。

 サブレは・・・後肢太股に拳銃の弾が当たって、今は手当てを受けている。

 それよりルイーズが錯乱してしまってね・・・せっかく今日は誕生日だったのに、悪いことをした…」

ぼんやりした頭で伯爵の独演を聞く。

「復調したら、すまないがルイーズの様子を見に行ってもらえないか。

 昨日から部屋から出てこないんだ」


まる一日寝てたのか。

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