013 tr11, drop dead!/あっち行って!
次の日の朝。
「改めて、初めまして。
私はイアン・グラーフ・フォン・ブリャチスラヴィチ・ツー・イストリア。
イストリアの領主、超人師団の団長だ。
ルイーズからあなたに助けたと聞いた、ありがとう。」
通訳されるまでもなく、流暢な日本語で挨拶された。
すげぇ。
ここから先は来栖さんによる翻訳。
「超人の素質があると聞いた。
身体測定を来栖さんに行ってもらい、今後の身の振りを考えよう。
ルイーズ、彼と連れの生活を手配させるよう侍従たちに指示を。」
超人ってなんじゃ?キニクマンか??
身長:218cm
体重:180kg
握力:210kg
100m走:9秒
垂直飛:120cm
肺活量:7,000cc
…恐ろしい子。ギネス記録抜いてる項目もあるんじゃね?見た目より重い気はする。
魔力量はほぼ無し。黒板みたいな板に手を当てて、何も反応しない。
ルイーズは手を当てたところが真っ白に、来栖さんは薄く白くなっていたのに。
しかしこれは転移者の特徴の一つで、素質があれば数ヶ月もすると徐々に表れるらしい。
そういえばこっちの世界で初めて自分の顔を見たけど、見事に厳つい。
フランケンシュタインの怪物かよってくらい眼窩の高低差が大きく、ムッツリしてると怒ってる風。
笑顔を心がけよう、うん。
そしてやはり、毛は生えてなかった。
ルイーズは途中退席したので、来栖さんと測定しながら雑談。
超人/ウーバーメンシュ(übermenschlich)とは、通常の人間を超える資質を持つ人々のことで、今では特に身体能力や魔力に優れた人を指すらしい。
余談ながら北の方の国には平均身長200cmを超える種族もおり、直球で巨人族と呼ばれている。
だからオレくらいでも、初対面で驚きはすれど異質、というほどではない。
やっぱあの野盗、頭の皮を矧ぐべきだな。
ついでに伯爵の言っていた超人師団/ウーバーメンシュ・アウフティルン(übermenschlich Aufteilung)…通称UMA、グフッ…は、そういった能力的にジンガイな連中を集めて創設された軍隊の兵種だそうで。
強いヤツほど上級職につきやすく、そういった荒くれ者を束ねる長が伯爵だと。
通常は師団と云えばdivision/ディヴィジョンだが、性質上所属した部隊を分散して他方面軍と強調させることが多いので、合えて配分的な意味でアウフティルンらしい。
…マルカジリといいUMAといい、ここの住人センス良い。
――――――――――
一通り測定を済ませ、待機。
程なくしてイヴァン伯爵に呼ばれたので来栖さんと共に執務室へ。
…良い右ストレート貰いましたね、団長。
右目を青く腫らしたイヴァン伯爵と、横でニコニコなルイーズに出迎えられた。
この肉体言語親子め。
「身体測定では、間違いなく超人認定だ。
次に転移情報の調査だが…こちらは来栖君が滞在して地域調査のついでに書類作成するから、特に問題はない。
ケイン君はこの伯爵宅に滞在し、額の傷を治しながらルイーズからアウストリ語を教わってくれ。
狼の治療も責任をもってあたろう。怪我のない狼たちの養育も問題ない。
…これでいいか、娘よ?」
「Yes of course. Thank you so much for your cooperation, my dear father」
(ええもちろん、親愛なるお父様、どうもありがとうございます)
怖い。
「ああ、最後に一つ。
どのくらい能力があるのか、少し身体を動かしてみないかね?」
通訳の来栖さんがビクッとなり、ルイーズさんの眉間にしわが寄る。
「これは譲らない。
彼はどの程度戦えるのか、数値ではない実力を測るのは団長の役割だ。」
そう云われると、ルイーズも引き下がらざるを得ないな。
執務室を出て、中庭へ。
騎士団の顔見知りから居残り組の警備隊、侍従や侍女、下働きと思わしき連中まですごい人数が庭から上階から覗いてる。
なんだい、こっちは予定調和か。
イヴァン伯爵は上着を脱ぐと手近な騎士に預け、大剣を一振り。
この人もデカい。ロブ船長よりデカい。身長でなく肉体的に。
頭頂部はオレの口辺りまで来てるので200cm近いか、着衣を預けた上半身はシャツを着ているにも拘らず筋骨隆々とした様が窺える。
5人兄妹の父ってことは40超えてるよな・・・?
「how about use anything Weapons?」
(武器は何を使う?)
「No thanks, I use my fist」
(いや、自分の拳を使う)
「OK」
(オーケイ)
「相手の『参った』か、気を失えば試合終了。
危険部位を狙った攻撃や意図的に怪我をさせる行為は禁止。
私が勝ったらルイーズは諦めてもらう、君が勝ったら好きにしなさい」
いやそんな話してないだろ。
イザックがヒョコヒョコっと出てきて、ニヤリとサムズアップ。
オマエカ・・・
コイントスし、着地と同時に試合開始。
ブオン!力いっぱい振ってきたよ伯爵。
右利きぽいので剣の左側面にコツンとモーメントを加え、ベクトルの方向をズラす。
予想外だったようで伯爵はやや前のめりになったタイミングを見逃さず、足を出し右手で左腕引っ張って転ばせる。
伯爵は転ばず、そのまま前転して立ち上がる。
大剣持ったまま。
すげえ。
ここで電撃を使うのは卑怯かと思い、力の限り小細工無しの打ち合いで挑む。
最初こそ素手で応力を駆使していなせていたが、徐々に力の差で押し込まれる。
これが身体操作の魔術なのか?
最終的には刀身の腹で横っ面をバーン!と叩かれ、オレの額の傷が開いてぶっ倒れて終了になった。
結果は引き分けと云われたが、間違いなく手加減されていた。
あんなんじゃオレの完全敗北だ。
悔しい。
――――――――――
気が付いたのは翌日の朝。
身体は綺麗に拭かれ、額の治療も済んでいた。
アチコチ痛いが、怪我より筋肉痛だな。
あの後伯爵殿はルイーズから「嫌い!あっち行って!」宣言が朧気に聞こえたのが、今回一番のハイライトか。
どっちが気を使ったのか、隣のベッドにシロ子も寝ていた。
だいぶ血色も戻り、スースー寝息を立てるくらいには良くなったようだ。
寄り添うようにサブロと、少し遠慮して黒白のタロ・ジロも犬玉作ってた。
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