010 tr10, Human metal/ヒューマン・メタル

ルイーズに少し弾かせてもらえないかと尋ねると、快諾してもらえた。


身体の大きさの関係から指弾きは難しそうなので、ピックを借りる。

年代的に微妙だがロングスケール、少しだけ持ちやすいか。

これでも前世じゃバンド組んでライヴ出演する程度には演奏してたんだぜ。

エレキの、しかもベースだけどな。

子供出来てからとんとご無沙汰だったが、楽器を持つだけでジーンと懐かしさがこみ上げる。


適当な高さの甲板の段差で腰を下ろす。

ピックと慣らしで、定番の禁じられた遊びやイエスタデイ・ワンス・モアから始まり、弾き語りの練習としてLet it beやFoxy ladyを試してみる。

…ああ、深く染み渡る音の深さ。

今迄持っいてたどの楽器よりも、身体への返りの反響が心地良い。


ふと目が前に向く。

ジーンとしていたのは自分だけでなく、お嬢さんにも感じ入ってもらえたようだ。

胸のあたりで手を握り唇をきゅっと締め、瞳を潤ませているが敢えてツッコまない。

「Hay audience Danke schone, Next songs are more hard and heavy, are you ready?」

(お聞きの方々ありがとう、次の曲からは激しいよ、いい?)

「Yes!」

(はい!)


一応断りを入れたので、楽曲はシットリなし。

MEGADETH(敢えて)のanarchy in the USAから始まりParanoid、Iron man、Beatallica(これも敢えて)風のgarage days nite、back in the USSRとガンガンボルテージを上げ、最終的にはMotorheadのOverkill, Ace of spadeと座ってられない位盛り上がった。

いつの間にか船員たちも集まってワーワーやってたが、お嬢さんの安全は確保できてたからいいか。


「danke, danke, your play was not great, but your songs and choice was greatful.

 Hey men, go back to worker to yourself, the rest will star drink after clean!」

(ありがとう、ありがとう、演奏はイマイチだったが歌と選曲は良かったよ。

おらお前ら仕事中の奴は持ち場に戻れ、休みのモンは片づけたら呑むぞー!)

タイミングよく船長らしきでっかいヒゲのオッサンが前に出てきた。



――――――――――



宴会から少し離れた場所でルイーズと共に腰を下ろす。

腰帯に挟んでいた布でボディとネックを拭き、両手でそっと楽器を手渡し。

「danke schon, this instrument is so beautiful sound. Your great-grandmother saves great-valuable item.」

(どうもありがとう、この楽器はとても良い音色だ。君の曾祖母さんは代えがたい価値あるものを遺してくれたね)

そのままギターをぎゅっと抱きしめ、何も言わず泣き出してしまった。

困ったな…あ、タロとジロが顔出した。


しばらくルイーズの隣に座り二匹をかまっていると、落ち着いたのか「アリガトウ」と日本語で話しかけられた。

「The song “Yesterday once more “ was great-grandmother loves, she play anytime when I let her raise my child.

 I don’t look at radio but learned the meanings.」

(イエスタデイ・ワンス・モアという曲は曾祖母の大好きだった曲で、私を育児していたころ良く弾いてくれたの。

 ラジオを見たことはないけれど、意味は知っているわよ。)


渡来品と云っていいのか、向こうの世界から渡ってくる品物は基本的に貴重だ。

また、その使用にも様々な制約がかかる。

ギターのペグやブリッジ、弦は既存の素材や技術で複製でき、そこそこ流通している。

だがラジオやテレビ、スマホなんかは電波曲もないし、そもそも真空管一つ複製するのにエライ手間がかかってしまう。

昔は利用価値の高い渡来品を巡って戦争まで起こることもあったそうだが、今は国で管理しているとのこと。


さてルイーズさん。

タロとジロをひとしきり撫で繰り回すと、おもむろにギターを構えた。

「I wanna play too, I was inspired yours ne.」

(私も弾きたくなっちゃった。貴方の演奏に触発されて、ね)

ウィンクいただいた。

普段幼げなのに、こういう時は良い表情するんだよなぁ。

合奏も面白そう、言語以外にもやりたいこと増えたな。



――――――――――



気が付くとヒゲの船長がルイーズと逆側の隣に座っていた。

「オマエ、ヤポーネ?」

「はい、そうです」

「オレ、オマエ、マルカジリ!ガオーッ!」

ブフッ、ホント誰だよこういうネタ教え込むの。

ゲラゲラ笑ってると、ニッコニコしてるヒゲ船長、ロウベルト・トゥルージロに白い子狼を『ジロ』と紹介すると『オー、ジェーロ』と喜んでた。

ルイーズの父親の弟、叔父にあたるらしい。

自分のことはロブと呼んでくれ、と接待モードのジロを撫でながら云われた。

タロは知らんぷりしてオレの足でゴロゴロ。


「オマエ、一番デカイ、イママデ見タ。」

「オレ、仕事、ヤポーネ乗セテアッペンニーニ行ク」

軍で請け負ってるのか、なんでやろ。

「最近ヤポーネ、暴レル、帰リタイ泣ク、デモデキナイ」

あー、若いモンがすみません。

でも帰れないのか…

「ヤポーネ国、アル、デモ遠イ、アブナイ、金ナイ」

日本、あるのか。それとも日本に見たいな国なのか。

平行世界であっても、出来れば帰りたいな…


「オマエ、フルヴァツカ住ム、イイ。ルイーズ、オマエスキ」

既に演奏を止めこちらを見ていたルイーズ、日本語判らないのでニコニコしてるだけだったが、ロブ船長のサムズアップで察したのか赤くなってた。

後でベシベシ叩かれてた。

ロブ船長オレの方を超すくらい巨体なのに、力負けして見えたぞ・・・


夕日も暮れる頃にロヴィニ港へ到着。

荷解きもほどほどに船着き場へ降りると、そこにはロブ船長を上回る巨躯とヒゲが待っていた。

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