009 tr09, certain days/とある日々

トライエステ市中の旅館に到着、思いつめた様なジェイク隊長に呼び止められた。

「So sorry… We reflect heute planen und more think die dame」

(申し訳ない… 今後の計画に反映し、お嬢様ともっと考える)

内容はともかく相手に合わせて慣れないダル・リアタ語を使うあたり、この人本当に偉い。

イザックに向かって「Are you sure you won't be attacked today? Don't you have a plan?」

(本当に今日は襲撃されないか?計画はないのか?)

「Sir yes sir! We should wait on the gland floor’s rest-area and keep the desk, sir!」

(そのとおりであります!我々は一階の休憩所で待機し、机をキープするであります!)

目線を合わせるとニヤリと嗤うので「OK, we need more drinking BEER!」と隊長の背中をはたく。

発案者のイザックに来栖さん、他にダル・リアタ語のわかる騎士、ランディとガス、がニカっとしたので、本日の酒場行きメンバー決定。


ルイーズは頬をプクーっとしてたが

「Das ist ein süßer kleiner Wolves?」

(子狼達が心配でしょ?)

と云ったらしぶしぶ引き下がってくれた。

シロ子心配だもんね。

子供を酒に付き合わせちゃイカンし。


以前からドイツ語は少しだけ知ってたしアウストリ語としてちゃんと覚えなきゃと思っていたので、呑みニュケーションで簡単に教えてもらう。

日本だとアルハラとか云われそうだけど、封建制?未だに火縄銃ぶっ放して剣でチャンバラやってる世界だ、酔って歌ってナンボだぜ。

…あれ、そういやオレ徹頭徹尾文無しじゃね?

それどころか衣類上下とサンダルしか人工物持ってない。

毛もないし。


その晩の酒代はジェイク隊長が出してくれた。本当に申し訳ない。

何処かのお嬢様が涙の海に還る前に部屋へ戻る。

あんだけ説教したし当然ながら今日は別部屋…に入ろうとしたら、ルイーズの部屋の内側からカリカリ、キャンキャンと音が。

人様の部屋の鍵なんか持ってねーよ…と思ってたら、寝ぼけ顔のルイーズお嬢様登場。

「nn-, here come on… wolves are guten junge, Bist du ihr elternteil?」

(んー、こっちおいで… 狼ちゃんたち良い子だから。あれ、パパさん?)

あーもう…黒白だからタロとジロだな、お嬢様起きちゃったよ。

仕方ないのでルイーズお嬢様を寝かしつけシロ子の脇で寝ていたサブロはそのまま、タロとジロを回収して自室へ戻る。

タロとジロを置いたらフロントへ行き、ルイーズの部屋の鍵を掛けてもらってからようやく自室に戻り就寝。



――――――――――



案の定朝からフグのお嬢様。

「Why you couldnn’t stay my room?」

(なんで私の部屋に居てくれなかったの?)

「Of course you are lady and my room was different.」

(そりゃもちろんキミは淑女で、オレの部屋は別にあるからだ)

「But I w… nnn」

(でもっ、う…ンン)

唇に人差指をあて、頭を横に振る。

「You are child, It’s no changed fact, not good thinking and still fast somethings.

I understand your wolve’s love and pluck, but human is more difficult.

Please you should study hard everything without there somethings because now you are student.

Ich liebe intelligente Menschen.」

(キミはまだ子供だ。事実は変わらない、考え方がよくない、それに何かするには未だ早すぎる。

狼への愛情や勇気は理解できる、だが人間はそうはいかないんだ。

 まだ学生なんだから、そんなことよりもっといろんなことをたくさん学んで欲しい.

オレは、知的な人が好きだよ)

フグから茹でタコになったけど、通じたかどうか。


二日酔い顔でランディとガスのコンビが朝食のテーブルに来る。

そういや未だ来栖さんもジェイク隊長も起きてこない。

そこまで死ぬほど呑んだっけ?・・・と云ったら、青い顔のガスに睨まれランディに呆れ顔された。

他の騎士と合わせて何本か樽開けたそうな。ボク覚えてなーい。


朝食後暫くして全員揃ったので港へ。

呑みに行かなかった騎士達が率先して作業してくれたみたい。感謝。

ジェイク隊長は青を通り越して白い顔で号令を取り哀れを誘いつつ、皆で船に乗り込む。

後でお詫びしないと。



――――――――――



乗り込んだ船はガレー船?船体の両側に幌と、内海の凪いだ水上でも推力を持つオールも備える。

夕暮れ時には到着する予定とのことで全体的に慌ただしい。

不用意に船内をうろつくよりはよかろうと甲板の隅に腰掛け作業を眺める。

すると、船首の方からポロン、ポロン…♪と聞き覚えのある音が。

弦楽器なのは間違いない。


逸る心を抑え、音源へ向かう。

そこには、ギターを抱え優雅に演奏するルイーズ嬢。

その手にはサンバーストのヴィンテージ…?ギターだ!


まろやかなボディの曲線に特徴的な花とハチドリを描いたピックガード、白い象牙ベースに黒いマホガニーのフレット、何よりヘッドには燦然たる”Gibson”の冠。

紛ごうことなき前世界の品物、ギブソンのアコースティック・ギターだ。

なんでこんなところに…と聞いたところ、曾祖母の形見で受け継いだとのこと。

補修パーツや修理で苦労することはあるけれど、他の魔道具として使用するリュートなどと違って音色が好きで、何より家族の思い出として大事に演奏しているとか。

言葉が出ない。

思わず涙ぐんでしまった…。


単なる楽器との邂逅だけではない。

これは不条理の闇に射した、一条の光かもしれない。

元の世界とココに何らかの繋がりがあって、しかも人だけでなく品物の移動もあると証明されたからだ。

もしかしてココは単なる異世界でなく平行世界に近い関係で、もしかして元の世界に還れるかも知れないじゃないか。

そんな期待を、抱いてしまった。



帰りたいなぁ。

友人は、家族は元気だろうか。

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