006 tr06, the body talks/身振り手振り


実際のところ、オレの立場はけっこう際どかったらしい。

半裸の巨人が突然飛び出してきてあっという間に30人近くなぎ倒したんだから、そら皆ポカンとするわな。

ルイーズさんと意思疎通できて子狼を保護し、かつ投石で友好的なのを確認できたからこそ、危険でないと認識されたらしい。

あぶねぇ、言葉通じないって怖い。


やはりルイーズさんやんごとなきお家の方なのか、それともこの国は福利厚生手厚いのか。

警ら隊の人たちがテキパキと野営の準備を始め、ルイーズの騎士団ご一行を招待してくれた。

しかも、テーブルまで持ち込まれた暖かいディナー。

あんま自信ないけど、オッサンだから一通りは対応できるぜ。

カトラリーが小さくて使いづらいけど。


食事も終わり、寛ぎのひと時。

「Cain, I heard you come from the other side, Japan?」

(ケイン、別世界から来たと聞いたけど、日本から?)

「Yes, I come from Japan however I really don’t understand how to into the world.

Where is here and what is your original language? Why you realized there??」

(そう、日本から来た。けれど、どうやってこの世界に来たのかさっぱりわからない

 ここはどこであなたは何語を話し、どうやって気が付いたの?)

「Wait wait ! I understand your worry but we have long time for talking.ne?」

(待って、待って!不安なのはわかるけど、ゆっくり会話しましょ。ね?)

娘さんに諭されてしまった。ショボン。



――――――――――



ここはアウストリ帝国下のフルヴァツカ王国、リュブリナ伯領。

彼女、ルイーズは勉強のためアウストリ王都近郊の学園都市で寮生活しており、今は年度切り替えのために里帰りする最中だったとか。

言語はもちろんアウストリ語、ドイツ語にかなり近い。個人の感想。


転移者・転生者は場所によってしばしば現れるようで、彼らは共通して「日本から来た」「ここはどこだ」「英語は話せるか」「English?」と尋ねるらしい。

年齢も職業も千差万別、性別もバラバラ、服装は特有の…つまり現代日本人の恰好。但し外出着とは限らず、部屋着だったり寝巻だったり、素っ裸の場合も。

彼らは発見されると近隣住民に保護され国へ連絡し、一定期間監察下で生活した後に身の振りを決める。大半はアッペンニーニ半島へ送られるらしい。


らしいが多いのは、彼女自身まだ13歳の学生さん。今は6月で里帰り中の8月に14歳で、知識はあってもそこまで世の中に精通してないからだ。

ダル・リアタ語(英語)を話せたのは、リアタ地方出身の友人と会話して覚えた。

子狼に気が付いたのは、なんと匂いだって。嗅覚鋭いね。



聞いてばかりなのも悪いので、オレも自己紹介。

加藤 化殷(かとう けいん)、リアタ語風に名乗るとCain Katoだ。今更か。

日本の工房で働く40歳過ぎのオジサンで奥さんも子供もいたけど、ある日起きたらこの世界に放り込まれた。

額の怪我は、大岩にぶつけたから。

その事故で狼たちの親が死んでしまったので、子狼達を引き取って川原で生活してた。

あ、黒いのはタロ、白いのはジロ、怪我してない灰色はサブロ、怪我したのはシロ子ね。

クマに襲われたショックでサブロとシロ子が逃げて、追いかけたら大砲の音がしたからそちらへ向かったらルイーズ達が襲われてた、と。


日本語が通じれば楽なんだが、今のところ共通語はダル・リアタ語(英語)だけ。

少なくともシロ子が治るまでは一緒に居て、アウストリ語やこの世界のことを教えてくれるとルイーズから嬉しい申し出をされたので、ありがたく受け取る。いい子。

後ろでイザックがニヤニヤしてるから、小石を弾いて鎧にカツーンと響かせとく。

まあ、子供のいうことだから期待しないでおく。



――――――――――



一晩明けて朝。

日の出とともに目が覚め、朝食の準備を・・・ああ、しなくていいんだっけ。

ルイーズと前の生活のことを話してたので、以前の習慣で起きてしまった。

子狼達が懐でスースー寝てるから、もう少しゴロゴロしてようか。


警ら隊の方々も厳重に見回りしてたようで、昨晩の襲撃はなかった。

普段から野盗なんてそうそう出ないが、やたら武器が揃ってたのが不審だったのか警備を強化していたようだ。

時間を置かず騎士団の方々も全員活動開始。こっちはこっちで不寝番を交代でしてたようだ。

結局昨晩は侍女の姿を見なかった。あっちの方が主人みたいな対応だな、変なの。


警ら隊から食事が届き、ルイーズの目覚めに合わせて朝食。

やっと侍女も出てきた。

ちゃんと服着てるのになんかすごい睨んでくる。

ガオーッ!…ってやるとまた青い顔で失神しそうなのでガマンガマン。


シロ子に肉を分け与えたり他の子狼達にルイーズと戯れてもらったりしてるうちに、撤収の準備が始まる。

体力を持て余してるので騎士団の方へ向かい、身振り手振りで手伝うと申し出。

青目オジサンのジェイクがちょっと困り顔で手招きし、キャノン砲やマスケット銃の方へ一緒に行く。

「This is so heavy, please help us if you could be lift up it.」

(これ、すごい重いんだ。もしよかったら持ち上げるの手伝ってもらえないか)

ジェイクとは別の、警ら隊の茶目オジサンからお願いされる。

是非もなし。


デカい身体だけあって、弾薬や砲身をひょいひょい持ち上げられる。

キャノン砲の砲身は車がついてるので長距離なら牽引移動できるものの、道路に出るまでが大変みたいで一緒に引っ張る。

邪魔なので群がる警らの人を退かせ、上手いこと車輪を引っ掛けて砲身ごと道路へ乗せる。

ニカニカワーワーと取り囲まれ、ペシペシ叩かれた。悪い気はしないね。



――――――――――



日の高いうちに撤収作業も片付き、先に警ら隊のお偉方とルイーズの馬車・騎士団、続いて野盗を連れた警ら隊で移動。

オレは馬車の後ろで徒歩。ちょっとジョギングくらいの速度。

子狼たちは、揃って馬車の中でルイーズとお戯れ。コラ侍女、お説教したそうな顔してんの窓から見えるぞ。

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