007 tr07, hunters and preys/狩人と獲物


――――――――――



リュブリナへ到着・・・といっても郊外から石造りの家屋が続き、大体この辺から都市か、といった風情。

いわゆる城壁で囲われてるのは、しばらく進んだ先の河沿いから。

防衛的にどうなんだ。


お偉いさん達と馬車・騎士団ご一行はそのまま城壁内へ、オレも手招きされたのでついて行く。

警ら隊は牽引物が重いのか到着どころか、はるか遠くだ。

オレはいい加減怪我の具合を見てもらうために手当てを受けた。

といっても額は軟膏を塗られ、ガーゼを当てて包帯を巻き返されただけだが。

身体は擦り傷と打ち身だけで問題ないらしい。すげぇ、頑丈。


ここでいったん解散となり侍女は今後の手配のため場外へ、騎士団は厩の方へ。

ルイーズは子狼達を場内の簡素な服装の人たちに預け何言か告げてからこちらを向き、「come on?」とオレに同行を促す。

云われるがまま、ルイーズやお偉いさん、青目オジサンのジェイクと共に館の客室?へ。



そこには煌びやかな裾・襟・袖の上着を羽織った金髪灰目のイケメンオッサンと、ニコニコした黒髪黒目の小太りバーコードオッサンが待っていた。

ルイーズとジェイク、イケメンオッサンでしばらく話し込み、皆それぞれ握手の後着席を促される。

イケメンオッサンの合図でバーコードオッサンがこっちに向き直る。

「コニショアー!ワタシ、アナタ、ハナスデキル、ニーパンネ」

吹・・・いや思い留まりにこやかに「あなたは日本語を話せますね、私は日本人です」と返す。

初対面で失礼しちゃイケマセン。

「冗談ですよ、見たところ貴方は転生か転写された方のようですね。ようこそ、フルヴァツカ王国へ

 私は来栖ワイズ、転移者の審査官です」

流暢な日本語で返された。一杯食わされた。


イケオジはロベルト・グラーフ・フォン・トゥルージオ・ツー・リュブリナ伯爵、バーコードおっさんは来栖・ワイズさん、日系の転生者審査官。

トゥルージオ家のロベルト伯爵は今代よりリュブリナ伯となり、領内掌握中に問題が起こり若干焦り気味だそうで。

ただ一般的な日本のイメージと違い、爵位は主に行政機関の役職に近いとのこと。

中央集権化が進み各都市では軍隊を持たず警備隊が治安を担っており、騎士団や警備隊のオッサンらも自前で銃持ってなかったのはこのため。

だからこそ今回の野盗団は不審な点が多く、転生者発見よりも野盗退治を重く見て大人数の警備隊を差し向け、不快な思いをさせ申し訳ない、と来栖さんを通じてロベルト伯から謝られた。

むしろ前屈み気味で暴走したこちらこそ申し訳ない。


転生者に関してはルイーズの言っていた通り、通常は発見次第当該地域の行政で保護。観察の扱いを受けるのが通例。

毎年数十人が発見されるため真偽を見定めるための審査官制度もあり、たまたま巡回していた来栖さんが同席したためスムーズに話が進んだ。

但し今回はルイーズの主張により彼女の領内へ同行・保護することで話が進みそう。

なんとルイーズ・ブリャチスラヴィチさん、リュブリナから南西方向の隣領イストリアのご息女だそうで・・・

ホラ、やっぱりやんごとなかった。



――――――――――



伯爵や各隊長達はその後も話し込み、昼食に続き夕食まで官舎で頂いた。

来栖さんは転移者の子孫で、バーコードはパンチの利いた洒落で、気に入ってるらしい。

くっそ手ごわい。

会話の最中も時々「ふぁさっ」とか殺しに来・・・グフッ、撫でつけんな!


書類も書いたし・・・書類?羊皮紙でなく植物紙!?印刷まで・・・

さすがに活版印刷みたいだけど、思ったより文明は進んでそう。


すっかり日も落ちたので、ジェイク隊長の先導で城壁を出て少し離れた辺りの旅館へ。

子狼達はちゃんと治療を受けてから届けられ馬車の中で待機してたので、連れて本館へ。

侍女もロビーで待機していたが、ルイーズを部屋に案内するとさっさと下の階へ行ってしまった。

やっぱり感じワル。


オレの部屋は一つ開けて隣か・・・と思っていると、こっそりルイーズさんが顔を出す。

「Could I go with your room ? I would like to be together wolves and should be quiet… Please!」

(お部屋に行っていい? 狼達と一緒に居たいし、静かにするから・・・お願い!)

狼愛ハンパないのか、バケモンだけど大人しいから平気と思ったか、危機感ねえな。

まあいいけど。


こっそりオレの部屋に入ったルイーズさん、ベッドは2つだけどどっちもオレには小さい。

膝から下が収まらないってなんだよ。

ちょうどいいからベッドは彼女と狼達に譲って、オレは隣の部屋でソファの下、床に寝る。ソファすらはみ出るからな。

彼女はばつの悪そうな顔をしていたが、足のはみ出具合を見て納得してた。



――――――――――



夜中。

ガラスを叩く僅かな音で目が覚める。

薄目を開けて窓の方を向くと、テープを張ったガラスから手を入れ鍵を開け、窓を開けんとする黒装束の一段・・・さてはNINJAか?!

なんて馬鹿なことを考えてるうちにするすると黒い布を全身に巻き黒仮面をした集団が5人ほど窓から侵入してきた。

うち一人がこちらに気付いたのか、周囲2人に肘打ちしてから筒を構える。

ニンジャじゃなくアサシンか、解ったけど思い通りになぞしてやらん。


被っていた毛布を真ん中からやや左に向け投げつけ、左の黒装束に飛びつく。

電撃の準備をすると、またノイズが見える。

右手前腕と左腕全体、あと下半身。

右腕フェイントで左腕本命、足の運びで懐に入る算段と見た。

自分の右手で相手の右手首を引っ張り、右足を添えてバランスを崩す。

そのまま右手刀で脊椎に電気。

次の一歩、左足は吹き矢の懐に踏み込み左手で顎下から昇りゅ…いや掌底。

毛布をかぶった左黒装束は 左足を軸に右足の後方旋回で首を極め、意識を飛ばす。

コイツらプロのくせに、反応遅すぎねえか?


扉の方に目をやると、一人は闖入したらしい。

残る一人がこちらを向いて目を見開いていたので左手フェイスハガーで電流強めのスタンガン。

「ギェッ」とか一丁前に声出して倒れた。

隣室を覗き込むと、掌底食らった上に子狼にかみつかれる哀れなアサシンが倒れてた。



翌朝。

オレの目の前には正座したルイーズとジェイク隊長。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る