005 tr05, refuge/避難

娘さんのほかに甲冑騎士が2人ほど付いてきた。

侍女さんはキャッチした騎士が馬車へ運んでいた。

他の連中は、野盗の拘束や伝令で近隣の町に向かったようだ。


道すがら、娘さんと話をする。

名前はルイーズさんだそうな。ルイーズ・ブリャチスラヴィチ。むつかしい。

護衛付きの馬車なら間違いなく良家か富豪のご令嬢だろう。


女性としては背が高いものの、それでもずっと頭のてっぺんを眺めるのも憚られるので前屈気味に目線を合わせて会話。

キャラメルブロンドの明るい髪とエメラルドグリーンの瞳。

あどけなさの残る鼻筋や顎線はややたれ気味の目じりと相まってどことなくシェパードっぽい。

耳の位置は普通だが、犬のような柔毛がきれいに生えそろい耳輪が少し尖っている。

多めの体毛は薄い色で白い肌と相まりチャーミング。云わないけど。

しかし圧倒的に毛髪量が多い。ウラヤマシイ。

髪の毛わけて。



――――――――――



木陰に向かうと、4匹とも大人しく待っていた。

シロ子は熱が出たようで、ハッハッと息を吐いている。

サブロはシロ子を心配そうに寄り添い、タロとジロはルイーズさん、というより後ろの騎士を警戒して呻り声をあげる。


「タロ、ジロ、大丈夫だ。サブロ、シロ子を持ち上げるぞ」

各々むにゃむにゃ文句を垂れるが、妨害まではしない。

ルイーズさんは心配そうにシロ子を見てるので、衣類ごと抱き上げ患部の辺りをそっとめくる。


「Oh…, so please let’s go to cargo and cleanly the body. What’s happened?」

(ああ…、直ぐに馬車へ行き綺麗にしましょう。何が起こったのでしょう?)

早口でまくし立てるので、少々気圧されつつ

「She fell down the edge and hurt the hind limb. Now she has injury heat.」

(崖から落ちて、後肢を怪我した。今、怪我で熱が出てる)

「Did she eat anything recently?」

(最近食事は摂った?)

「Grilled fishes, every day」

(焼き魚、毎日)

「Do you know her fell down point?」

(この子の落ちた場所はわかる?)

「yes, there」

(ああ、あっちだ)

「OK, this problem is only injury, born or hit. It need safety resting and good eating some days

 Of course you should stay together ne.

Could we take the poin just in case after her care?」

(オーケイ、問題は骨か打ち身の怪我だけね。何日か休息と食事を与えましょう。

 もちろん、あなた達も一緒に滞在ね。

 念のため、手当の後に落ちたところへ連れて行ってもらえる?)


足早に馬車へ戻り、急いで彼女のカーディガンをソファに敷き、貫頭衣に包まれたシロ子をおろす。

タロ、ジロ、サブロは最後尾をピョコピョコ付いてきた。

シロ子は衣を解き、ハンカチを水で濡らし身体を拭きながら怪我のチェック。あちこちに擦り傷・打ち身。

後肢は骨が出るほどではないが痛がるので、念のため患部に棒を添えて真っすぐに固定。

痛がったが、必要なことだ。

あとはなるべく患部を冷やし、ふっかふかなソファに寝かしつける。

馬車の中は、侍女とシロ子が占拠した。



――――――――――



処置が終わり、馬車を出る。

待機していた騎士2人がハッとした顔をしたが、気にする風もなく騎士と話をする。

野盗を拘束していた騎士2名が呼ばれ、馬車近くに待機する。

「Let’s go?」

(行きましょ?)

促されるまま、崖へ向かう。

ああ、カーディガン脱いでたから驚いたのかな。

むしろ毛量羨ましいんだが。キレイだし。


改めて崖を下から見上げる。

不自然に崩れた場所がある。

落下地点近傍にはなぜかボーリング大の黒い塊・・・鉄球か?

硝煙の臭いがきつく、また熱くて素手で持ち上げるのは無理そうだ。

ルイーズさんと騎士たちは何か深刻そうに話す。

騎士がマントで鉄球を包み、二人掛かりで持ち上げて引き上げ。


しばらくして余裕ができたのかルイーズさん、今度はしゃがみキラッキラの瞳で子狼を見つめてる。

サブロを抱え上げ、渡してみる。

暴れない、顔をペロペロ。キャーキャーまんざらでもない様子。

ジロはルイーズさんの膝小僧をスンスンし、頭ぐりぐり。

タロはこっち戻ってきて「撫でろ」フンス!、だそうで。



――――――――――



ひと段落して残った騎士団やルイーズさん達と遅い昼食。

元々食べる予定だったサンドイッチのうち、伝令で抜けた人の分を分けてもらった。

文明の味、パンにはさんだトマトとチーズおいちい!

そうこうしているうちに侍女も目を覚まし、ようやく出てくる。

相変わらず青ざめており、ルイーズさんと2、3言葉を交わしたら飲み物だけ受け取り馬車に戻った。

去り際、なんか睨まれたし。


さてこれから。

馬車で数時間のところにリュブリナという大都市があり、今まで滞在してたのはリュブリャニツァ川と立派な名前のある場所だった。

今日はそこで1泊して明日は港へ移動する予定・・・だったが、一泊伸ばすと。

リュブリナの治安部隊到着を待ち、監視と連行手伝いまでが本日のお仕事。

こっちの話し中にこっそり抜け出そうとした野盗へ無警告で投石、ヒット。

野盗どもは再びビビってひと塊になった。なんか臭い。


8人残った騎士のうち3人はダル・リアタ語(英語)を話せるそうな。

「Your stone strike is excellent! Please teach me how to …strike, werfen? throw?? das stein!」

(すごい投石だな!オレにも石当て・・・ナーゲル?投げる??教えてくれよ!)

若干英語怪しい彼はイザック・ワイアルド。

標準日本人より縦横ともムッキムキで大きい、明るい茶色の瞳孔と灰金色の短髪で、金属兜被ってたくせにハゲてない。若い。

ずるい。

無精ヒゲまで生やしやがって…


「OK, Please rise hand up when I teach the throw with him」

(いいよ、一緒に投げ方知りたいやつは手ぇ挙げな)

ややあって「Heben Sie Ihre Hand, wenn Sie wissen möchten, wie man einen Stein wirft.」と訳してくれたようで、皆ぞろぞろとついてきそうな勢いだ。

おい誰かルイーズさんと居なきゃダメ・・・あんたも来るんかい、元気な娘さんだな。



――――――――――



野盗を拘束した空き地近くの木に向かって、皆で投石。

チョークなんて気の利いた小道具を持ってる騎士がいたので、ありがたく的を描く。

無かったら野盗を的にしたのに、命拾いしたな!ヒッヒッヒ


なんて時間を潰してるうちに、100人規模の団体さん到着。

甲冑の騎士もいるけどマスケット担いだ狙撃手もいる、あとは幌付車を曳いた馬がメイン。

騎士様がこちらに近づいて来た。

最初に面頬を上げた青目オジサンがそちらへ向かい、何やら会話してる。

あの人ジェイク・イーライ隊長だって、ルイーズさんがこっそり教えてくれた。

あの人偉かったのね、ダル・リアタ語(英語)話せなかったけど。



各人からの事情聴取、野盗たちや迫撃砲なんかを回収していると、すっかり日も暮れた。

オレの分の聞き取りはルイーズさんが代返してくれた。

森からバケモノが飛び出してきて襲われた!俺たち被害者!とか野盗諸君は宣ったらしい。

許さん、次に森で見かけたら頭の皮矧いでやる。



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