004 tr04, animal instinct/動物の本能

前方の開けたあたりでズドオオン!とかドゴオオン!なんて音。

続いてワアアァァアと人間の鬨の声?と金属をかち合わせるガギンガキンてな音。

少し遅れて白煙と鼻を突く強い匂いが濃く渦巻く。

ヤバい、戦いか?

狼なんて駆除されたら困る、特に小さいのに吼えたらイッパツだ。

がけ下までだいたい10mくらい、ビル3階分くらいか。

急いで三匹とも抱え上げ、上手いこと足場を見つけて崖を下る。

やっぱりこの身体、性能良い。毛はないけど。


シロ子はグッタリしており、全身打ち身と擦り傷。特に左後肢の骨は折れてるのか熱を持っている。

三匹を下におろしロ子を抱えるも、心配そうに覗き込んでいる

頭を打っているかもしれないので慎重に貫頭衣で包みつつ移動し、人目につからない木陰に運ぶ。

他の子狼たちもついてきてシロ子の脇に集まり、傷や身体を舐めている。



――――――――――



「いいか、ここで静かに待ってるんだぞ」

理解したのか、タロはオレの指先をペロリと舐めて小さくクウンと鳴く。


さあ、次は不明の喧噪の正体だ。

隠れてやり過ごすのも手だが、万が一見つかった時に怪我した子狼を抱えて逃げられる自信はない。

先ほどから続くズドオオンの音が何度か、続いて白い煙と刺激臭。絶え間ない金属音と鬨の声。

そおっと音のする方向を見ると、数十m先で馬車を囲んで甲冑騎士と不揃いな格好の戦士?が殴り合ってる。

直接殴り合ってるのは総勢20~30人くらいか。

少し離れたあたりに長い筒型の銃を構えた人が数名、銃の先端から棒を突っ込んでる。

アレは火縄銃、いわゆるマスケット銃だな。ズドオオンの正体か。

更に離れた丘の上にはキャノン砲が1台、最初の轟音はあれか。

銃を使った連中は統一した服装でないので、馬車+甲冑 vs だらしねえ連中、おそらく盗賊かなんかだな。


決めた、甲冑の連中に加勢しよう。転生モノの定番だな。ダメでも人数が少ない方が巻きやすい。

こぶし大の石をなるたけ拾い上げながらマスケット銃の脇方面へ移動。

森の切れ目で一旦止まり、狙いをつけて次々に石を投げる。

5人いた狙撃手全員の肩もしくは頭にヒット!

当たるもんだねぇ、前世のオレは投擲なんてさっぱりだったのに。


ぎょっとした顔で狙撃手を見る野戦砲の砲兵めがけて全力ダッシュしながら投石。

こちらは走りながらだったせいか、石の当たったのは3人中1人。

残る2人はラリアットしたらぶっ飛んでグッタリ。

死んじゃいないだろう。


ふと丘の先を見る、きらびやかな格好の人間の馬が1組と青年を前に乗せたひょろい影と馬が1組。

野盗の頭領ぽかったので、石を拾い力いっぱい投げる。

ヒットしたが残念ながら小石だったせいか馬が驚き二頭とも逃げていった。



――――――――――



丘の下の馬車方面を眺める。

まだ戦闘中だろうに両陣ともこっちを見てポカンとしてる。

いやいやダメだろう。

丘を駆け降りさあ突っ込むぞ!というタイミングで馬車の扉が開く。

いやいやダメだろう。

若い娘さん、武装どころかワンピースにカーディガン?!しかもキョロキョロしてる。

続いてひっつめ髪で紺色の服を着たキツい顔の侍女らしき女性。

いやいやダメだろう!


「あぶねえから引っ込んでろ!」

大声で警告したがこちらもポカン。

もう知らん、甲冑以外の人間を倒す。

首をさらした奴と金属鎧の奴はスタンガン、あとは顎のあたりを掌底で殴れば簡単に気絶してくれた。

驚きすぎて動きが鈍いんでない?

倒れたのは全部で20人ほど、狙撃手と砲兵合わせたら27人か。野盗の方が明らかに人数多いじゃねえか。



手近にいた甲冑騎士に話しかけてみる。

「大丈夫か?」

ポカン顔のままだったが、ハッっと気が付いたようにこっちを見上げる。

ちっちぇえな、オレの肩辺りに兜がある。

・・・あ、オレがデカいんだっけ。


「Wer bist du ? Was hast du gerade getan ?」

慌てて面を上げ、こちらを見上げて眉間にしわを寄せ声をかけてくる青目のオッサン。

ああ、ダメだこりゃ。言語チートは無しか。さっぱりわからん。


「My name is Cain, I came from there forest. Can you speak English?」

(オレの名前はケイン、そこの森から来た。英語は話せるか?)

ひそめ眉を一層強め難しい顔になったオッサンは、警戒の色もあらわに立ちはだかる。

自然と他の騎士も馬車に集まり、警戒の色をにじませる。


先ほど馬車から顔を出していた娘さんと侍女が馬車から降り、こっちへ向かってくる。

騎士たちは警戒しながらも止めずに付き従う。

オレの面前に来た途端、娘さんは顔を赤らめ下を向き、侍女は顔を更に青くし「ヒッ」と短く叫んで倒れる。

隣の騎士様、ナイスキャッチ。


「Ah…, which, Do, do you have any wear? Of course no problem if that form is your traditional…」

(ええと…、あ、あの、何か着るものをお持ちではありませんか? もちろん貴方の流儀でその恰好なら問題ないのですが…)

もじもじしながら娘さん。

…あっ!

裸だった!


シロ子に貫頭衣使ってたから、ズボンとサンダルだけの上半身裸じゃん。そりゃ皆気まずいよな。

「イヤーンエチー」

両手で胸を隠し右足の膝から下を曲げ、マチコさんスタイルでセリフ棒読み。

娘さん小さくプッ、騎士は何人か面の中でブフォと盛大に吹き出してるの聞こえたぞ。



――――――――――



毒気が抜けたのか娘さんの態度で何か気が付いたのか、騎士たちは多少態度を軟化する。

気を取り直し、騎士のマントを借りて羽織り会話再開。


「Thank you so much for your assistance because we attacked anything raiders. This language is the Dal-riata. Are you reincarnated or transference person? 」

(野盗に襲われていたところ、助力ありがとうございます。この言葉はダル・リアタ語といいます、あなたは転生者か転移者でしょうか?)

おお、やっと言葉が通じたと思ったら、いきなり身バレかよ。なんで判るんだ。


「Maybe transference, but I don’t know the detail because of different the body. By the way, could you help us that my baby wolf is hurt…」

(たぶん転移だが、違う身体なので詳しくは解らない。それより、幼い狼が怪我してるので助けてもらえないか)

伏し目がちだった顔がパッと持ち上がる。


「I guess so! Let’s go and rescue them hurry! Hurry!」

(やっぱりそうなのね!早く行って助けなきゃ!早く!)

どうやら狼たちを心配してくれていたようだ。何で気が付いたんだ。

とはいえその顔にはもう迷いはなく、明確な意思を湛えていた。

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