005 聖者の影にオオカミ少年

「お前も黒天寺狙ってるとか周りに言いふらしてるらしいな。それでライバルを蹴落とそうして仲間を使って神崎を脅した。そんなところだろう? 今更無駄なあがきだろうがよぉ~、最近不良どもを手なずけて親分ヅラしてるらしいがお前、調子に乗るなよ?」

 そんなつもりはないが? 神崎が脅されたと言っているんですか?

「そりゃお前、そういうわけじゃないが……そういう状況ふうにしか見えないだろうがよぉ~」

 いつものオトナの配慮おもいやりと都合のいい短絡思考ストーリーか。そんなだから神崎に簡単に手玉に取られるんだよ。


 神崎龍斗は自分に貼られた優等生というレッテルを逆に利用する。ついた嘘も「神崎の言う事だから」と真実にすり替えられてしまう。

 例えばセンセイやトモダチの前で困った顔をして見せる。察して「何かあったか?」と訊かれれば「大きな声では言えないんですが……」「ここだけの話なんだけど……」とライバルの悪口を吹き込んだり自分の欲求を通すように思考を誘導したりする。

「これ以上は先生オレ指導せっきょうしなくちゃならなくなるだろうがよぉ~。面倒ごとは火事になる前にぼやのうちに消したほうがいいってのはそりゃお前……分かんだろ?」

 生徒が羽目を外すのを未然に防ぐといういつもの先回りの謎理論いいわけだな。そのくせとっくに火事になっているときには見て見ぬふりというダブスタ振り。

 針生センセイはわざとらしくおれにタバコの煙を吹きかけてくる。安い挑発だ。それでもニコチン中毒の不良は我慢できなくなるらしい。

 横にいるクラス担任の長光極ながみつきわみが口を開きかけて諦める。ハリセンに副流煙とかまともなことを言っても無駄だぞ。それにキーちゃん・・・・・はガッコウでは猫被りそれでいくと決めたんだろう?


 神崎龍斗の意図はおれの行動を他人に見張らせ制限することにあるのだろう。異端者が迫害いじめを受ける辛さは身に染みているからな。おれが錬金術師の『協力者』だとバラす手もあるが今はまだ時期尚早だろう。『ラフィン』どもがうろついて街がパニックになるタイミングを狙っているのかもしれない。

 しかしそれでもおれに黙って耐えるつもりは無いがな。どうせなら神崎の策を逆手に取って自滅を誘ってやるのもいいかもしれない。


 そのためにおれは表と裏の2つの作戦を考えた。表の作戦はおれの評価を向上させ、味方を増やすことだ。これにはサニーデイ・カンパニーと長光先生キーちゃんに協力してもらおう。秘密基地ガレージに入り浸る晴子らに本当に勉強会をさせて1ランク上の高校を狙うとか。そうなれば長光先生キーちゃんも味方に引き込みやすくなる。

 裏の作戦は四天王との直接対決のために手数を増やす。おれが自由に動けるような組織チームや影武者を作ることだ。これは匿っている児島草平にやって貰おう。

 神崎はおれがゼロワンと【同化】した錬金術師とは気付いていない。ならばそれを利用してこちらも仲間がいると思わせて厚みを持たせてやればいい。児島はあくまで裏方だが、鍛え直したいたいなら特訓にもちょこっと・・・・・付き合うつもりだ。


 キーちゃん先生を味方にする方法だが、実はおれはガッコウ以外の場所で先生と会っている。先生は『つるみや食堂』のおっちゃんの甥だ。夏休み中におっちゃんが検査入院とかで店を留守にしたときに厨房の手伝いに来ていたのだ。キーちゃんというのもその時おばちゃんがそう呼んでいたからだ。

 常連のジジイに「やっぱりコンさんがいねえとこの店ダメだな」とか言われたときに包丁を手に厨房から飛び出してきた先生を見た。普段の気弱なところしか知らなかったからおれも驚いた。その場はおばちゃんが謝ってなんとか収めたが「何が悪いんだよ、コンチクショー!」と先生がキレそうになっていたので、鶏ガラと煮干のスープの比率と注ぐ順番が逆になっていると教えてやった。別の日にはチャーシューの付けダレに入れる酒が老酒じゃなくただの紹興酒になっているというのも。

 そんなことがあっておれはおばちゃんに感謝され、キーちゃん先生と少し仲良くなった。キーちゃんと呼ぶと「あ゛?」とか言われるので本当に少しだけだが。


 実を言えば長光先生も元ヤンで、バイクで夜の街を席巻していたらしい。水上のおっさんから夜行棲ヤコウセイという暴走族の名前を聞いた。そのまま行けば魔騎士魔武マキシマムに並ぶくらいになっていたかもしれないと。

 過去形なのが気になっておれ夜行棲ヤコウセイの解散した理由について訊くと、おっさんは「時効だしな」と言って教えてくれた。

 それは夜行棲ヤコウセイが遠征で走りに行っていたとき、そこで出くわした一人の中学生らしき子供に30人余りいた全員がぶちのめされて天狗の鼻を折られたせいらしい。

 おれは一瞬蛾眉丸かとも思ったが、そいつは女の子のように小柄なパーカーを目深にかぶった子供だったという。だったら人じゃ無くて山童や小鬼だったのかもな。1対30で圧勝か、しかしどこにでも怪物ってのはいるもんなんだな。はっはっは。(水上:イヤイヤイヤ、そんなヤバいやつが何人もいてたまるかよ!)

 それをネタにキーちゃんを脅す? そんなことをしても本当の味方にはなってくれないだろう。先生にも幸せになってもらわないとな。


 このガッコウには白雪姫と呼ばれる風巻白雪かざまきさゆきという保険医がいるのだが、キーちゃんは彼女が好きなのだ。隠しても周りにはすっかりバレバレだがな。

 しかし白雪姫はダニのハリセンに何か弱みを握られて言いなりになっているらしい。それならおれがダニ退治してやろうというわけだ。名付けて『バカの神崎とダニのハリセンをまとめて潰して丸めてゴミ箱に放り込んでキーちゃんと姫ちゃんを結婚させよう』作戦だ! ……すまん、勢いで何も思いつかなかった。


 裏の作戦のキモは影武者の児島草平のレベルアップにかかっているといってもいい。入れ替わりのためにキャラ付けの道化面ハーレクインを真似た仮面も作ってみた。顔に書いたへのへのもへじの落書きが、ツナギと相まって田んぼのカカシっぽくていい感じだ。そしてもう一つは錬金術師用ののっぺらぼうタイプの道化面ハーレクインだ。こっちは愚者フールとでも名乗ろうか。

 どうせならツナギに背番号つけてハッタリで人数を増やすとかしてもいいかもな。0番から100番とか。うん、一気に大所帯だな。【百鬼夜行】か?

 ついでに武器も作ろう。別に鍾子ドーラの蛇腹剣に触発されたわけじゃ無いぞ? 最初の形は鉄扇だが、それぞれの骨がフォールディングナイフのようにヒンジで繋がっていて伸ばせば杖になる変化武器だ。遠い間合いに腕が伸びていくイメージから猿臂えんぴと名付けよう。


 これであとは狂聖堕Sクルセイダーズの出方待ちだな。表か裏か、どっちが先にくる?

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