第9話 背伸びた?

土曜日


「よし、着いたぞ」


そういって酒呑童子につれてかれて着いた場所は、電車ですぐの神社だった。なんなら契約前の俺でも歩いて行ける距離だ。


「結構近いんだな。試験会場」


「昔から灯台下暗しっていうだろ?」


そういって酒呑童子は鳥居をくぐろうとした。


「…なぁ、酒呑童子」


俺は、酒呑童子が鳥居をくぐる前に呼び止めた


「どうした?」


「なんていうかその…」


俺は言おうかどうか一瞬悩んだが、ここは言うしかないか。


「なんか、背伸びた?」


酒呑童子、普段家にいるとき俺とそんなに身長変わらないはずだが、今は二メートルほどある。そういえば、初めて会った時も二メートルくらいあった気がするが…


「ああ、そうかまだ言ってなかったな。余、っていうより人型の化け物って身長変えられる奴多いんだよ」


「え?なんで?」


「人間世界に馴染むためらしい。背変えたらその分力制限されるけどな」


たしかに、二メートル越えの奴がいたらだれでも二度見するだろう。下手したら五度見ぐらいするかもしれない。とにかく目立つ。化け物としても目立つのは避けたいだろうしな。


「でも、別に今までだって家にいるときは二メートルでよかったのに」


「母さんに間違いなく疑われるぞ」


「あ…」


そういえば母さんには酒呑童子、他校の友達って言ってたんだった。二メートル越えの高校生、俺見たことないし。


「じゃ、身長のことはもういいだろ。さっさと行くぞ」


「わかった」


そういって俺たちは鳥居の中に入り、一つの建物の中に立った。


「あまり普通に過ごしてたら知らないかもしれないが」


酒呑童子が口を開いた。


「この建物、社務所って言ってな。お前はくじとかが売ってる場所ってイメージが強いだろうけど、神職や巫女の控室になってるんだ。ちなみに結婚式の申し込みもここでするらしい」


「俺に結婚する相手がいるとでも?」


「そかお前彼女いない歴=年齢だったな」


「うるせぇ斬るぞ」


俺が言い出したとはいえ、地雷踏んできやがった。


「お前顔はそこそこいいのに、なんでだろうな」


「顔だけでモテるなんて空想の中だけよ。まともな奴らであればあるほど、顔で判断はしない。おれ、そんな性格よくないし」


「へー、ちょっと意外」


「もっとも、うちのクラスに彼氏彼女持ちいないが」


「そか、じゃあ入るぞ」


そういって酒呑童子は社務所の扉を開いた。


中は意外と広く、何かの道場のようだった。


「おや?化け使いのお客さんですか。しかも六芒星のものではない。珍しいですな」


中には道着を着て、立派な白いひげを生やしたハゲのおじいさんがいた。ぱっと見八十はあるだろう。けど、その割には姿勢がよく、背筋がピンとしている。


「そうだな。今日、入隊試験なんだろ?ちょっと受けようと思って」


酒呑童子がまるでこのおじいさんと仲がいいかのように言った。


「このおじさん、知り合い?」


「いや?初めましてだぞ」


いや初見かよ…


「そうか、受験者か…」


そうおじいさんが言うと、おいてあった壺を倒した。すると…


ガガガ…


恥の畳が一畳が勝手に動き、下に続く道が現れた。


「なんていうか、壺を倒して隠し通路ってありきたりだな」


俺は思わず口に出してしまった。


「さぁ行け若者よ。そして合格してくるのだ」


そういっておじいさんは建物を出て言った。その時、おじいさんの横の姿を確認できたが、めっちゃ猫背だった。さっきまで姿勢よかったのに…


「降りるか酒呑童子」


「そうだな春人」


酒呑童子もそれに気づいたのか、二人とも混乱したような声で言ったのち、俺たちは下に降りた。



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