第10話 ループの想定外

「なぁ、酒呑童子」


「春人、言いたいことはわかる」


 俺と酒呑童子は今試験会場に行くため階段を下っている。だが…


『いくらなんでも長すぎだろ!』


 かれこれもう十分くらい下っている。


「何?化け使いってこんなにハードル高いの?」


「馬鹿か。余が違和感持つほどなわけないだろ」


「じゃあ何なんだよこの長さは」


「知るか。ただ…」


「ただ?」


すると、酒呑童子が金棒と刀を出しながら言った。


「確実に化け物が絡んでる」


「試験会場占領されたんか?」


「いや、だとしたらさっきの爺さんがなんか言うはずだ。言わなかったこと考えると、第一試験がこの階段のループからの脱出だろうな。春人、お前も剣を抜け」


俺は酒呑童子に言われて刀を抜いた。この刀は酒呑童子が予備で持っていたやつらしい。酒呑童子もずっと金棒一つってわけにもいかないしな。


「で、どうすればいいんだ?」


「そうだな…ループ系ってことは階段やこの空間そのものに何か力が加わってるんだろうしな…」


「なるほど。じゃあとりあえずあれだな。俺まだ慣れてないから頼む」


「あいよ」


灯遊火ひあそび


酒呑童子は、火をまとった金棒と刀を振り回した。すると、金棒の炎の衝撃と刀の炎の斬撃があたりに飛んだ。


暗闇に炎が燃え移る。そしてその炎が、何か大きなものの輪郭を際立出せる。ループの原因はこれだと俺たちはすぐに分かった。


「酒呑童子、ここは俺がやる」


「言われなくても譲ってやるよ」


【ヒートアクセル】


俺は地面を強く蹴り、暗闇の中燃える何かに斬りかかった。


ザシュッ


俺の刃がそれを斬った時


パリン


何かが砕ける音がした。それとともにあたりの暗闇にひびが入り、砕けた。

そこは学校の会議室のような壁が白く、広い空間だった。

そこには何人かの人間、そしてそれと契約してると思われる化け物がいたが、全員が驚いた顔をしてこっちを見ている。


「春人、よくやった」


後ろから酒呑童子が歩きながら言ってきた。


「酒呑童子、おぜん立てありがとうな」


「おぜん立ていうなw」


すると、どこからか一人の男がやってきた。年齢は二十代後半ほどだろうか。若さと渋さ、両方を感じる。


「まずは脱出おめでとう。これで一次試験は突破だ」


「あ、ありがとうございます」


「そして、その…」


「その?」


男は少し困りながら続けた。


「実はあの空間、ちゃんと出口を用意してたんだ」


「はい、そうですか」


「だから壊されることは想定してなかったんだけど、君たちがあの空間のコアとなってる部分を探し出して無理やり壊したせいで、もう今日は他の人たちの試験できなくなっちゃったんだよ」


『え?』


俺と酒呑童子は驚いてお互いの顔を見つめた。


「あんなもろいのに?」


「壊されることを想定されてなかった?」


「お前ら不合格にしようか?」


『ハイすいません』


男がけっこう怒ってそうだったので素直に謝った。


「では、ちょっとしたアクシデントの影響で二次試験の時間を早めます。皆さん、私についてきてください」


男はそう言って歩き出した。他の受験者はそれについていく。


「春人、行くぞ」


「分かった」


俺と酒呑童子もそれに続いていった。

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