第9話〜過去〜
購買室に着くが、やはりたいがの姿は無かった。居るのはさくらさんだけ。
「あら、あいらさん…」
「たい…とらは何処へ?」
沈黙が流れる。
「そう…ですか…」
さくらさんの表情と、沈黙で察する事が出来る。
「俺、探して来ます。」
「無茶よ!…彼なら必ず帰ってくるわ…だから待ちましょう?」
そう言われても…探さなきゃ行けない気がした。
「大丈夫ですよ、ちょっと見て来るだけですので。」
「…そう、気を付けてね。」
気を付けて、まりさんにも言われた言葉だ。
「えぇ、気を付けます。」
そう言い、闇へと走り出す。何処にいるか宛もなく。しばらく走っていると人影を見付ける。
「たいが!」
そう声を掛ける。たいがは振り返り、こちらを見る。
「…なんで来た」
「そりゃ心配だったからだ!」
顔が険しくなる。
「要らん心配だな、さっさと戻れ。」
「いいや、お前と一緒に戻る。」
「いや、お前だけ戻れ。」
1人にはして置けない。必ず一緒に帰る。
「そんな事出来るわけないだろ!バカか!」
「…馬鹿で良い。これ以上、死人を増やさない為だ。」
そう言うと、たいがは走り出す。
「あ!待て!」
「着いてくるな!」
着いて行かなきゃいけない。このまま野放しにして置けない。しばらく走り、たいがが立ち止まる。
「…それ以上着いてくるって言うなら、ここでお前を殺す。」
「それも覚悟の上だ、お前を死なせない為に。」
大鎌を首元に向けられる。
「…馬鹿なのか?」
「馬鹿はお前だろ、なんで殺さない。」
「…言ったはずだ、これ以上誰も死なせない。」
鎌を下ろす。矛盾してないか?俺を…殺すんじゃないのか…?たいがの目にはまた、あの日見た様に涙が浮かんでいる。
「…着いて来たきゃ勝手にしろ。」
そう言うと、また闇の中へ走って行く。
「おい!流石に速度落としてくれよ!」
あっちの世界に居た時より断然早くなったたいがを追い掛け、闇の中へ走って行く。
「…気が済むまで追い掛けさせるか。」
その後しばらく色んな教室を巡り探して行く。だが、女性の姿は無かった。流石に離れ過ぎると帰れなくなるからとさとし帰路に着く。
「…」
痛い程の沈黙が流れる。しばらく歩いた後、心配して追って来たのかさくらさんと合流する。
「もう!確かにその人も大事だとは思いますが、私達も心配になるんですから!」
そう怒られて居ても尚、たいがは何食わぬ顔で歩いて居た。…また黙っていつもの監獄の様な教室に入る。
「鍵、掛けておけ。」
「待ちなさい、まだ話は…」
言葉を遮る様に扉を閉められた。
「はぁ…あいらさんごめんなさいね。」
「良いんです、あいつにもあいつなりの事情があると思うんで。」
あいつなりの事情…ね…俺はあいつがここで何を見て何を感じたのかは分からない。
「…戻って食事にしましょう、けんじさんももしかしたら戻ってるかも知れないし。」
しかし、期待とは裏腹に、けんじさんの姿は無かった。
「…ここじゃあしょうが無いわ。」
口を開いたのはさくらさんだった。
「でも…」
「良いの、まりさんの言いたい事も分かるけれど…ここでは当たり前の事よ。」
また沈黙が流れる。けんじさんなら、この沈黙を打ち破ってくれただろうか?
「…食事にしましょう…食べ物、取ってくるわ。」
そう言い、さくらさんは教室を出て行く。
「…」
「…さくらさんはね、けんじさんの奥さんだったんです。」
まりさんが話し始める。
「ただ、色々とあって離婚してその後すぐの事故で2人ともここへ来た。」
なんとも…なんとも悲しい現実だ。
「…ここに来てからの2人は脱出する為に協力している間に仲を取り戻した様な感じだったのよ。」
正直、辛いと思う。そんな大事な人がまた居なくなった現実が辛いと思う。
「さぁ、食事にしましょう…」
さくらさんが戻って来たが、やはり何処と無く元気が無いように思える。
「…ご馳走様でした」
食事を終え、洗い物をする。
「…ごめんなさいね、今日のは余り美味しく出来なかったわ。」
「…!そんな事無いです!とても美味しかったですよ!」
「良いの…自分でも分かっているから。」
また、沈黙が流れる。
「…まりさんから聞いたと思うのだけど、私とあの人は元々結婚していたの。」
突然話し始める、どこまで察しがいいんだこの人は。
「…えぇ、離婚後すぐにこちらへ来たと。」
「…そう、最後の思い出にね、昔付き合い始めた頃に行った花畑に行ったの。その帰りだったわ…」
数ヶ月前
「…本当に良いの?」
「…すまない、これ以上私はお前を幸せに出来ないから。」
冷めきった様な会話。
「…そう」
どこか寂しい景色、昔はあんなに輝いて見えたあの景色は今、少し寂れ徐々に色を失って来ている。
「…帰ろうか」
「…そうね」
車に戻りエンジンを掛ける。
彼女は私の古臭い車をかっこいいと言ってくれた。
今は、もうそんな事思っていないのだろう。
「…」
「…」
車内での会話は無い、お互い冷め切って居る証拠だろう。
気分もなんだか暗く歪んで行く。
「…!ケンジさん前!」
さくらの言葉にハッとする、目の前にはとても大きな落石があった。
「しまっ!」
気付く頃には遅かった、車は宙を舞い、崖下へと落ちて行く。
(あぁ…死ぬのか…。)
そう思ったのもつかの間、意識が途切れる。
気が付くと暗い校舎、何も見えない程の暗くどす黒い闇が広がっていた。
「ここは…はっ!ケンジさん!?ケンジさん!」
辺りを見渡すが、ケンジさんの姿は何処にも無い。
教室を飛び出し、隣の教室に飛び込む。
「…良かった。」
ケンジさんはちょうど起きた所だった。
「…さくら、良かった生きてたんだね。」
「…もう、そんな事言ってる場合じゃ無いでしょ!」
安心感からか、笑いが込み上げてくる。
「ふふ、良かったわ。とりあえずここを出ましょう。」
「そうだな」
一頻り笑い合い、教室へ出r
「もう!いつもあんたはこんな事して!いい加減にしなさい!」
後ろの教室から怒号が響く。
「うるさい!もう嫌だ!」
「ゆうちゃん!」
ゆうくんが、教室を飛び出し廊下へ走って行く。
「ゆうくん!?何処へ行くの!?」
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