第8話〜遭遇〜

夜、また俺はたいがの元へ向かった。

「…」

「たいが?起きてるか?」

「…」

反応は無い

「入るぞ?」

扉を開け、中へ入る。そこには寝息を立てているたいがが居た。

「…寝てたか」

近くに寄ってしゃがむが起きる気配は無い。

「…おれも戻って寝るか」

立ち上がり教室を出る。そこにはけいやさんが居た。

「…けいやさん」

「…虎さんの教室に居たんですね」

「…」

何も言葉が出てこない。

「ダメだって言われた筈でしょう?」

分かっている、分かっているけど会いに行かずには居られなかった。

「…これっきりにして下さいね。もしこの行為で彼が揺らいでしまえば我々も困ります。」

何を困ると言うんだ。

「…でも」

「言い訳は聞きたくありません。例えどれだけ仲が良くても皆許しません。」

「…すみません」

教室に戻り布団へ入る。

「起きろっ!」

「ぐっ!」

腹に掛かる重い感覚。

「あぁ、おはよう」

「ご飯だ!さっさと行くぞ!」

無理やり起こされ隣の教室へ移動する。

「あらおはようございます、今日はシチューを作ってみました、お口に合うと良いんですが…何分、作るのが久々ですから。」

今日はまりさんが食事を作っていたようだ。

ご飯を食べ、また探索へ出る。今日はけんじさん、俺、たいがが探索へ出る。

「気を付けて行ってきてくださいね。」

さくらさんが手を振っている。いつも明るいが、疲れは無いのだろうか?

「…行くぞ」

昨日よりたいがは元気がないように思える。

「今日は…」

「食料、後ティッシュとかの消耗品が見つかると良いですねぇ。」

けんじさんがメモを確認する前に答えてくれた。

「あぁ、了解しました。」

闇の中へ歩き始める。

しばらく歩くと、購買室が見えて来た。

「とりあえずあいらさんは中で収集をお願いします。」

「けんじさんはどうするんですか?」

「私は外で見張りを」

元気な人だな。武器は、ナイフを持っている。果たしてナイフ1本で渡り合えるのだろうか?

「分かりました」

「中にもゾンビが居るかもしれないのでお気を付けて。」

中に入る、どうやらゾンビは居ないようだ。

「えっと、食料は…」

陳列棚を見ながら食料になりそうな物を探す。

「…とりあえずこんなものか。」

パン、弁当、菓子…普通の購買と違い鮮度の落ちやすいものもあるには有るが、出来るだけ保存が効く物を選ぶ。

「けんじさん、終わりました…けんじさん?」

外にけんじさんの姿は無い。

「けんじさーん!」

大声を出しても返事は無い。

「…どこに行ったんだ。」

辺りを見渡しても闇ばかり。

「けんじさんなら、どこにも居ないわ?」

後ろから声がする、反射的に振り返る。そこには居なかったはずの女性が居る。

「誰!?」

「あらぁ、先ずは自分から名乗るのが常識よ?僕には分からなかったかしら?」

飄々とした女性。暗いと言うのにサングラスを掛けている。

「ふふふ、可愛い反応ね。」

「…とりあえず、生存者が集まってますのでそちらに行きましょう。」

攻めて…安全な場所に…

「必要無いわ、私は一匹狼。1人で大丈夫よぉ?」

「それでも、一応安全ですので。」

「ふふふ、お姉さんに惚れちゃったかしら?でも良いわ、お詫びも兼ねて行かないわよ。」

お詫び?

「どういうことですか?」

「えぇ、食事を頂いてしまったから。」

その言葉に言い知れない恐怖を感じた。何故かは分からない、いや分かりたくなかった。

「それじゃあね、可愛い僕!また会える事楽しみにしてるわ!」

その女性は闇へと歩いて行く。

「…何だったんだろう。」

とりあえず、戻らなくては。居なくなったのを1人で探すのは良策とは言えない。それ以上に女性の事を皆に教えなくてはいけない気がした。

教室に戻ると、たいががちょうど戻って居た。

「帰ったか。」

「おう、取り急ぎ報告が有る。」

皆に何があったかを話し始める、会った女性に付いて話し始めた時だった。

「サングラス…はっ!?その人の風貌は!?」

「えっ?あぁ…サングラスで、血の付着した白衣を着てたよ。」

たいがは顔を青くした。

「…た」

「え?」

「何処で見たっ!さっさと話せっ!」

切羽詰まった様な反応に一瞬呼吸が止まりそうになる。

「…購買、ここから1番近い購買室。」

たいがは聞き終える前に教室を飛び出す。

「何処へ行くの!?」

さくらさんは追い掛けるように外へ出る。しかしもうたいがの姿は無かった。

「…どういう事ですか?」

下を向くまりさんに声を掛ける。

「…多分、探している人。女性って事は私達も知っていたのだけど。」

案の定、たいがが探している人だった。

「…けんじさんは大丈夫でしょうか…?」

「…分からない、けど大丈夫だと思いますよ…?ここの古株ですから。」

根拠は無いのだろう。言い方がそんな気がした。

「…俺も、追って来ます。」

「気を付けてね」

笑顔を向けられる。憔悴し切って居る筈なのに。

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