第7話〜日常〜
「あいつの所行ってみるか。」
廊下へ出るとけんじさんがいた。
「おや、御手洗ですか?」
「はい、ちょっと催しちゃって。」
「でしたらあちらの…虎さんが居る教室の先ですよ。」
都合が良い、バレずに会いに行ける。
「ありがとうございます。」
「大丈夫だとは思いますが、お気を付けて。」
「はい、行ってきます。」
彼の元へ足を向ける。扉の前へ立つ。耳を澄ませても音はしない…寝ているのだろうか?
「…あいら」
扉に手を掛けようとした途端中から声がする。
「あ、いや、ごめん!」
「…良いよ、中に入って。」
…さっきよりやけに素直だ。扉を開け中に入る。
「…」
「…あいら、本当にあいらなんだよね?」
おかしな奴だ。
「…そうだ、正真正銘俺だよ。」
「そうか…本当にあいらがこの世界に来ちゃったんだ…」
たいがは悲しそうな顔している。
「なんでそんな顔してるんだ?」
「…ちょっと長くなるけど大丈夫?」
目には、涙が浮かんでいる。死んでいる方には赤い涙が浮かんでいる。
「あぁ、大丈夫だ」
「…俺は、お前を大事に思ってた。いや思ってる。」
唐突だ
「喧嘩別れをしても、ずっと考えてた。もっとずっと…一緒に居られるって思ってたし。」
「…」
「でも、俺はここへ来て死ぬんだって思った。」
死ぬ、いつもなら笑い飛ばしているが、彼の目は本気だ。
「ここはいつ死ぬか分からない世界」
「それはあっちだって同じだろ」
「違う、ここはその死が隣でいつも狙ってる。」
こいつ、いつも表現が詩的すぎる
「そんな世界に、来て欲しくなかった…」
「…」
「俺はずっとここで色んな死を見て来た、最初は辛くて悲しくて壊れそうだった…いや、もう壊れてるのかも。」
いつもなら、元からだろって笑っている。
「今じゃもう何も感じないんだよ、ここじゃしょうがないって割り切るのに慣れた。」
そうか、こいつは…
「…あいらが死んでも、多分俺はもう何も感じない。」
俺が死ぬって思ってるんだ。
「…死ぬのか?」
「え?」
「俺は死ぬのか?」
不意に出てしまう。
「…うん、このままだと確実に。」
その言葉で今起こっている状況が現実であり、やばいという事を再認識する。
「俺は…最初、非現実的でこんなのアニメとかゲームみたいな夢だって思った。」
俺も、そういう風に思っていた。
「でも、そのアニメやゲームと違って…俺は何も出来なかった。そりゃそうだよね、物語の主人公じゃないんだし。」
違う、お前は…
「なんの力もなくて…何も出来なくて…」
違う…お前には…もう力が…
「結局死に損なって…」
辞めろ
「馬鹿だよね…」
辞めてくれ…今の俺に…その笑顔を向けないでくれ…
「…大丈夫、お前は馬鹿じゃない。」
馬鹿じゃないよ。
「…ありがとう、そろそろ寝る。どうせまた探索に駆り出されるし。」
「そうか、じゃあおやすみ。」
「うん…おやすみ…」
立ち上がり、扉を出ようとする。
「待って!」
「なんだ?」
飛び付いてくる。
「辞めろ、男に抱き着かれる趣味は無い。」
「…あいらは死なないで」
顔を見なくても分かる…泣いている。
「死なないよ、少なくともお前の前では。」
そう言って、出て行く。馬鹿だ、俺は馬鹿だ。たいがは頑張っているのに…俺は…。
「長かったですね」
けんじさんが話し掛けてくる。
「ごめんなさい!ちょっと腹痛くて…」
「隠さなくて良いですよ、虎さんに会ってたんですよね。」
鋭いな、この人。
「…はい」
「はぁ…知り合いだからってダメですよ。」
ダメ出しか…
「ってさくらさんは言いそうですよね。」
違った
「でも…あいつは…」
「…どんな話をされたんですか?私達にはとても冷たい態度なんですが、貴方とは良い話をしてそうです。」
この人はどこまで見透かすんだ。
「えっと…その…」
「言いたくなければ大丈夫ですよ、ただ…あの人は私達を守ろうとしてくれてるんです。そんな人を全力で支えたり守り合いたい…だからあの人の事を知りたいんです。」
ここの人達は優しいなぁ。そんな中俺は…あの時…
「…あいつも、ここの人達を守りたくて頑張ってます。ただあいつは、他の人が死ぬのが怖くて…」
「…ふふ、舐められたものですね。我々は簡単には死にませんよ、だってみんながみんな守りたいものだから。」
…優しさは、時に心を軽くする。でもどうしてだろう、優しい人程先に逝く…
「そろそろ寝ます、けんじさんも…無理せずに…」
「ありがとうございます。おやすみなさい。」
布団に入る。
……
「起きろっ!」
「ぐっ!」
急に身体が重くなる。見ると、ゆうくんが乗りかかっている。
「…朝か、ごめんありがとう。」
「朝飯出来てるから行くぞっ!」
朝から元気だなぁ…朝かどうかは分からないけど。
「あらあいらさん、おはようございます。」
「さくらさん、おはようございます。」
なんだかおかしな気分だ、外は暗いのに朝の挨拶をしている。
「さぁ座って?朝ごはん食べましょう!」
皆席へ着く、当然たいがの姿は無い。
「あいらさん、今日の探索貴方も同行してください。」
さくらさんが急に言って来た。
「え?あ、はい。」
「えー?でもこいつめちゃくちゃ弱いじゃん!武器も無いし!」
「こら、ゆうちゃん!ダメでしょ?」
昨晩のことを思い出す。ゆうくんの言葉…あれが本音で今は強がってるんだ…
「あはは、大丈夫ですよ。」
「本当にすみません!」
頭を深々と下げて来る。
「そんな!頭を上げてください!」
また和気藹々とした時間が流れる。
「それじゃ、行きましょうか。武器は…これなんてどうです?」
刀を手渡される、模造刀では無い本物の刀だ…
「えっと…使った事無いんですが…」
「誰でもそうですよ、とりあえず習うより慣れろです!」
さくらさんは案外大雑把な人なのだろうか…刀を握り、構える。
「うん、様になってるわね!それじゃあ行きましょうか」
外に出るとたいがが立っていた。
「…刀か」
昨晩見たたいがとは違う、冷たい方のたいがだ。
「虎さん、今日もよろしくお願いしますね。」
たいがは何も言わずに歩き始める。
「あいらさんゆうくんまりさん、お気を付けて。」
行ってきますと手を振り探索へ出た。数分後、目の前にゾンビが現れる…
「…おい、こいつを切って見ろ。」
急にたいががこちらを向き指示してきた。
「分かった」
構えを整え、フーっと息を吐く。そして吸い込み一気に切り掛る。
…スパッとゾンビの頭が切れ、その場に倒れた。
「凄いですね!」
まりさんが拍手をする。
「ありがとうございます、一応剣道をしていたもので。」
たいがはと言うと、慣れた手つきで遺体に探りを入れていた。
「…違うな」
「何が違うんだ?」
「…行くぞ」
何も答えてくれなかった。
「…余り詮索して欲しくない話みたいなので、深掘りはしない方が良いですよ。」
まりさんは真剣な表情をしていた。
その後、滞り無く探索が終わりセーフルームに戻った。
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