第6話〜被害〜

「お疲れ様です、お先失礼します。」

仕事が終わり、帰路に着く。

「ふぅ…やっと終わったぁ!」

明日はおやすみ、偶には大貴でも誘って飯でも行こうかな。そう思いながら、携帯を見る。

『おつ〜明日、飯でも行かね?』

「送信っと…」

メッセージを送り、イヤホンを取り出す。

「コンビニでも寄ってくか。」

いつもの道を逸れ、コンビニへ向かう。

「いらっしゃいませ〜」

入店音がなり、明るい店員からの声が掛けられる。その時、ピロンっと携帯が鳴る。

「おっ」

『良いぜ!焼肉でも行くか!』

あいつ返信早過ぎないか?

「そしたら、今日はカップ麺だけにしとこうかな。」

手頃なカップ麺を取り、レジに向かう。

「いらっしゃいませ、お箸と袋はお付けしますか?」

「箸だけで良いです。」

「分かりました、お会計189円です。」

「ICで」

携帯で、決済画面を出す。

「では、音が鳴るまで機械にタッチをお願いします。」

ピピッと軽快な音が鳴り、明細画面が開く。

「こちらレシートのお返しです。ありがとうございました〜。」

カップ麺を鞄にしまい、また駅へと向かう。

駅へ着き、ホームに入る。

「まもなく、快速が通ります。危ないですから黄色い線までお下がりください。」

前の方に並んで居たので後ろに下がろうとした。その時、ドンッと後ろから圧力を感じる。

「えっ」

何が起こったのか分からなかった。身体は宙を舞い、線路へ投げ出される。

「いった…」

立ち上がる。ぷぅぅぅぅぅ、と電車の音が鳴り響く。

音の方を見ると、電車が目の前にあった。

ガンッと音が鳴り、また宙を舞う。周りから劈くほどの悲鳴が聞こえる。

全身に痛みが走っている、声が出ない。

ただ嫌な程の悲鳴が聞こえるだけで身体は動かなかった。そこで意識が途絶える。

「うん…」

目が覚める。

「あれ…俺電車に引かれたはずじゃ…」

辺りを見回すが、見知らぬ景色…

「何処だここ…学校…?」

どう見ても学校だが、暗い。すぐに携帯を取り出し、現在地を確認しようとする…が、画面は割れ、何も反応が無い。

「まじか…」

パッと腕を見る、付けてた筈の時計が無い。現在地も、今の時間も分からない。

「おーいっ!誰かいないかー!」

叫んでみても、なんの返事も返ってこない。

「とりあえず、出口を探そう…」

恐怖で震える身体を何とか動かし、出口を探す。

「にしても、ここ何処だ?俺は、死んだのか?」

そりゃそうだ、電車に轢かれれば高確率で死ぬ。

「はぁ、短い人生だった…」

そうぽつりと呟く。その時、先から呻き声が聞こえる。

「誰かいるのか!」

声の方へ駆ける。

「ヴァァ…」

そこには足が変な方に曲がり、苦悶の表情を浮かべる人とは形容し難い物が立っていた。目は白く濁り、口から血を流している。

「な…なんだこいつは…に、逃げなきゃ。」

逃げようとしても、恐怖ですくみ足が動かない。

「い、嫌だ…来るなっ!」

そいつは、聞こえていないかのように無慈悲にも襲おうと向かってくる。

「来るな!来るなぁ!」

叫んでも、足を止めずに向かってくる。その時、ザシュッと音がなる。そいつが前のめりに倒れる。

「良かった!怪我はない?」

「え…え?」

足の力が抜け、その場にへたり込む。

「大丈夫?あっ、もしかして来たばっかり?」

何の話をしてるんだ?来たばかり?見た目15~6位の女の子が手を差し伸べて来る。

「立てる?」

…無理だ、足に力が入らない。

「無理そう…だね。でも怪我が無さそうで良かった。」

女の子はその場にしゃがみこみ、目線を合わせてくる。

「喋れる?声出せる?私はるみ、松川るみ。貴方は?」

「え…?」

頭がおかしくなりそうなほど混乱する。

「…ちょっと無理そうだね、人呼んでくるからここから動いちゃダメよ?」

「ま、待って!」

振り絞り声を出す。

「落ち着いて来た?でも待ってて、すぐに呼んで来るから。大丈夫、動かなければ何も無いわ。」

そう言うと、走って行ってしまう。足に力を入れ、立ち上がった。女の子の言う通り、その場で待つ。2~3分程でさっきの女の子が男の人を連れて来た。

「良かった、無事なんだね。」

ちょっと小太り気味な男性だった。

「とりあえず、安全な場所に行きましょう。」

男性に促され着いていく。しばらく歩きとある教室の前へとつく。

「戻ったわ」

女の子は扉を開け入っていく。

「ほら、貴方も」

男性の後に続き一緒に入る。

「お帰り、あら?生存者?」

声を掛けてきたのは中年の女性だ。

「えぇ、どうやら来たばっかりみたい。」

「そう、それは大変だったわね…座って?今暖かい物用意するわ。」

「あ、あの!ここどこですか!?とゆうかあれはなんなんですか!?」

拍車がかかった様に声が出始める。

「落ち着いて?とりあえずここは安全だから。説明もするわ、先ずはお茶にしましょう?」

優しく手を引かれ、椅子に座る。

「先ずは私、宮崎さくらと言います。そして貴方を助けた女の子」

「さっきもお話したけど改めて、松川るみよ。」

今は自己紹介なんてしてる場合じゃ…

「自分は吉本けいやと言います。」

続けて小太りの男が名乗る。

「他にもいるけれど、それは来てから話しましょう。貴方は?」

「自分は…小島あいらです…」

「あいらくんね、よろしくお願いします。」

丁寧な方だ。その後、ここの説明、何があったかを説明される。

「とりあえずはこんな所かしら?何か質問はあります?」

事細かに説明をしてくれたお陰で何とか整理がつく。

「所で、何人くらい生存者が居るんですか?」

「今は、8人くらいかしら?あ、貴方を入れたら9人ね。」

思った以上に多い。

「1人生存者か怪しいけど…」

「るみちゃん!そういう事言わないの!あの人だって立派な生存者よ!」

「ごめんなさい…」

謝り、しゅんとする。

「もう…謝る相手が違うのに…まぁいいわ。」

その時扉が開く。

「戻った、なんだ?また新入りか?」

「どうも…っ!?」

その顔に見覚えがあった。片目は白く濁り、ボロボロのコートを着ていたが、そこには喧嘩別れをして、疎遠になっていた男、たいがが立っている。

「たいが!?たいがなのか!?」

「あら?お知り合い?」

さくらさんは目を丸くしていた。いや、るみちゃんやけいやさんも目を丸くしている。

「…誰だお前?」

返ってきたのは、悲しくも無情な返事だった。

「どうして…どうしてお前が」

近寄ろうとする、しかし…手に持っていた大鎌を首元へ向けられる。

「…俺はお前なんて知らない…それ以上近寄るなら切る」

無慈悲な答えだ…

「何をしているの!?辞めなさい!」

さくらさんがたいがに駆け寄り手を掴む。

「離せっ!」

「きゃっ!」

振り払われ、その場にへたり込む。

「…いつもの教室に戻る、鍵かけておけ。」

そう言うと教室から出て行った。

「痛た…ごめんね?大丈夫?怪我は無いかしら?」

立ち上がり、服を払っている。

「さくらさんこそ大丈夫ですか?」

「ええ、大丈夫よ。はぁ…るみちゃん?悪いんだけどお願いできるかしら?」

「…うん、分かった。」

そう言うと、るみちゃんは部屋を出て行った。

「あの人は、虎と名乗っていたわ。私達よりずっと前から居るみたい。最初はあんな感じじゃなかったのだけど…」

虎…やっぱり、たいがなんだ。

「あの人…仲間が居なくなったりする度にあの様な言動が目立ち始めたの…」

どうやら、最初は優しかったらしい。

「風貌は最初からあんな感じだったんですか?」

「えぇ、小さいゾンビに噛まれたらしいの。感染は止まってるっぽいのだけど、いつ進行するか分からないから自ら教室に立てこもってて…出て来るのは探索の時だけなの。」

…変わっていた。俺が死ねと言ったからだろうか?あいつは確かにこの空間に居る。

「とりあえず、けいやさん?この人に案内をお願いします。次いでに倉庫で食料を取ってきて貰えるかしら?食事にしましょう。」

「分かりました、あいらさん着いて来てください。」

教室を出る。

「でもまさか、虎さんのお知り合いだとは思いませんでしたよ。」

「…俺も、あいつがここに居るなんて思いもしませんでした。」

…偶然なんだろうか?

「ここが、倉庫です。」

声が掛けられハッとする。

「どうしました?」

心配そうな顔を向けて来ている。

「大丈夫です、ちょっと考え事をしていただけなので。」

「…まぁ、無理もありませんよね。こんな場所で知り合いと顔合わせしたんですから。」

そう言い、笑っている。

倉庫に入り説明を受ける。

「分かりました、ありがとうございます…あいつが居る教室は…」

言葉がこぼれる。

「あぁ、それはここから2つ隣の教室ですね。でも、あまり近付かない方が良いですよ?あの人極度の人嫌いっぽいので…」

そう言うと、食料を持って来ていたカゴに入れ始める。

「ちょっと、出てて良いですか?」

「…20分程で食事が出来ます。それまでに戻って来て下さい。後、一応これを。」

ナイフを手渡された。

「何がいるかは分かりません。絶対に遠くへは行かないように」

そう言い残し、隣の教室へ戻って行った。

「…行ってみるか」

あいつの居る教室へ向かう。

「…誰だ?」

教室の扉をノックする前に声が掛けられる。

「…たいが?お前やっぱりたいがなんだろ?」

「…俺が言えるのはお前なんて知らない、安全な教室へ戻れ。それだけだ。」

扉は反対に付けられ、外側から簡単に鍵を開けられる仕様になっていた。そこへ手を掛けようとした瞬間

「開けるなっ!」

急に怒鳴り声が聞こえビクッとする。窓にはダンボールが内側から貼り付けられ、中は見えない。

「…さっさと戻れ、気が散って寝れない。」

冷たい声だ。無視して扉を開ける。そこには壁に背を預け座っているたいがが居た。

「だから開けるなと言ったはずだが?耳が聞こえなくなったのか?」

冷たい視線

「たいが…どうしたんだ…?」

「その名前で呼ぶなっ!…捨てた名前だ…」

何を言っているんだこいつは

「厨二病はまだ現在のようだな。」

近付こうとするが…

「近寄るな、それ以上近寄れば殺す。」

大鎌を向けられる。目は鋭く、本気さを感じる。

「どうして…」

「…ここでは、簡単に人は死ぬ。」

片足に包帯が巻かれているのが見えた。

「その足…」

「関係無い、さっさと戻れ。」

「待ってくれ!話を!」

「うるさいっ!黙れっ!…知った様な口を聞くな…殺すぞ。」

その時、扉からさくらさんが入ってくる。

「貴方達!?何をしているの!?」

「さくらさ、」

「良いから教室から出なさい!」

腕を引っ張られ教室を出る。

「また来るから!」

扉を締められる。

「…はぁ、貴方お知り合いなのは分かるけどダメじゃない…」

「たいがは…」

そう言おうとした…

「食事の準備が出来たわ、先ずは食べましょう?」

モヤモヤした気持ちを残し、戻る。

教室には、残りの4人が居た。

「あ、貴方が新人さんですか。話は聞いていますよ。虎さんのお知り合いだとか…」

眼鏡を掛けた中年の男性だ。

「ふーん?見るからに弱そう」

そう言いながら笑う小学生くらいの男の子。

「こらゆうくん!そんな事言うんじゃありません!」

「だって本当の事じゃん!ざーこ!」

口の利き方がなっていない…

「ごめんなさい…この子誰に対してもこんな感じなの…」

母親だろうか?

「私は矢口まり、こっちは矢口ゆうとです。よろしくお願いしますね。」

「あぁ、自己紹介を忘れていたね。渡辺けんじです。どうぞよろしく。」

各々が自己紹介をして行く。

「自分は小島あいらです。貴方は、」

「山寺かずき…」

余り話さないタイプだろうか。

「さぁ、食事にしましょう!」

机にそれぞれの食事が並べられ、中央に大皿が置かれる。

「有り合わせで申し訳ないわねぇ…でも、食料は貴重な物だから我慢してね。さ、席へ」

促され席に着く。

「「「「「頂きます」」」」」

「い、頂きます。」

「ゆうくん?頂きますは?」

怒られている…

「やだ!なんで言わなきゃ行けないの?」

「こらゆうくん!はぁ…ごめんなさい頂きましょう。」

ご飯を食べ始める。みんな和気あいあいと話している。だが、俺はあいつの事が気になって余り箸が進まない。

「あら?ごめんなさい、お口に合わなかったかしら?」

「…あ!いえ!美味しいです!」

「そう、良かった!」

さくらさんの顔が明るくなる。

「まぁ、しょうがないだろう。来たばかりで混乱もしていただろうし。今日はゆっくり休みなさい。」

けんじさんがこちらを向いて微笑んでいる。

「ありがとうございます…皆さんはその…」

言葉につまる

「…帰りたい、でもその方法はみんなで探してるし怖くてもみんなが居る。」

かずきさんが急に口を開く。

「そう…ですよね…」

しんと水を打ったように静まり返る。やはりみんな、怖い上に疲弊しているんだろう。

「明日の探索はどうするんだ?」

空気を変えようとしたのか、けんじさんが問い掛ける。

「そうねぇ…」

「俺行く、みんな雑魚だし。」

「ゆうちゃん!」

「良いのよまりさん。ゆうくんにお世話になっているのは事実なのだから。」

「本当にごめんなさい…私も行きます…」

まりさんはゆうくんを叱り続けている。

「では明日は、まりさん、ゆうくん、たいがさんにお願いしましょう。よろしくお願いね。」

「分かりました」

そしてまた和気あいあいと話が始まった。

「「「「ご馳走様でした」」」」

「ご、ご馳走様でした。」

「それじゃあ」

そう言いながら、けんじさんが立ち上がる。

「今日の見張りは私が担当します。皆さんどうぞお休み下さい。」

「あらぁけんじさん、ありがとうございます!安心して寝れますね!」

「いえいえ、この位当然ですから。」

そう言うと、みんな出て行く。着いていくと、隣の部屋へ入って行く。

「俺の布団は絶対使わせねぇから!」

入ると、ゆうくんがべっーと舌を出し言ってくる。

「こら!ゆうちゃん!またそうやって!」

まりさんに怒られているのにも関わらずそっぽ向いている。

「大丈夫よゆうちゃん、新しく布団用意したじゃない。あなたの場所は誰も取らないわ。」

そう言って微笑むさくらさん。

「とりあえず、寝ましょう。明日も大変よ!」

みんな床につく。

…しばらくして。

「…寝れない。」

どうも寝付きが悪い。まぁ、こんな場所だし当然だ。

「あいら、まだ起きてる?」

隣で寝ているゆうくんが声を掛けてきた。

「起きてるけど、どうしたの?トイレ?」

「そ、そんなんじゃねぇよ!」

「声が大きいよ。」

みんなが起きてしまう。

「あっ…えっと、そうじゃなくて。」

何やらモジモジしている。

「えっと…今日は…ごめんなさい。」

驚いた、急に謝られるなんて思ってなかった。

「…どうして?」

「だって…いっぱい失礼な事言っちゃったし…」

この暗さがそうさせるのだろうか。

「…どうしてそういう事言うのかな?」

「それは…僕が強くないとお母さんを守れないから…みんなを守れないから…だから…」

…優しくて強い子だ。まだ小学生くらいなのにみんなを守ろうとしている。

「探索だって本当は怖いけど、みんなを守る為に頑張るんだ。」

凄いなぁ…頑張ってるなぁ…

「…大丈夫だよ、ゆうくんのお陰でみんな感謝してるよ。」

「…そうだと良いなぁ。みんなを守れてると良いなぁ。」

本当は誰よりも素直で優しい子なんだ。

「明日も探索でしょ?頑張る為にしっかりと寝ようね。」

「うん、おやすみあいら。」

そう言うとすぐに寝息を立て始める。自分はと言うとまだ寝れない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る