第1話〜異変〜

「はぁ…疲れた…早く帰るか…」

いつもの変わらない一日、仕事が終わり帰路に着く。時刻は午前2:30を回った所だった。

何も変わらない、仕事に行き怒られながら仕事をして家に帰って寝るだけ。

そんな毎日。

「もう…いっその事死んでやろうか…」

携帯に映る写真を見る。

そこに映るのは楽しかった時の思い出…もう戻らない楽しかった時の思い出。

「あいつ元気かなぁ…」

喧嘩をして、疎遠になったもうどうでも良い筈の記憶が蘇る。

自然と温かいものが頬を伝う。

「ダメだダメだ、弱気になってちゃ何もならん。」

自分に言い聞かせ、前に向き直る。

その時、足元の感覚が無くなり、身体は宙に浮く感覚を纏う。

…落ちて行く。

身体が引っ張られるように、下へ落ちて行く。

「…あぁ、死ぬのか。まぁ、良いか。」

頭はやけに冷静だ、今起こった非現実的な現象にさえ気にも止めずに死を悟る。

そこで記憶が途絶える。

「…ん…ぅん…」

気が付くと、知らない場所に居た。

学校だが、暗くまるで地の底の様にどこまでも闇。

「…はは、何処だここ、地獄か?」

さながらback room彷彿とさせる。

落ちたかと思ったら変な学校に居る。

頭が混乱し、現実を直視するのを嫌がっていた。

「非現実的だ、これは夢だ。」

頬を抓っても痛みが走るだけ。

「とりあえず、外に出ないと…」

自分でも驚く程に焦りは無く、脚はまるで別人の物のように出口を探し始めた。

思考が冷静になりつつあるのか、嗅覚が戻り始める。

「…なんか臭いなぁ。生臭い…」

腐乱臭の様な、そんな生臭さが鼻を抜け脳に伝達される。

嫌悪感に顔を歪めながら、教室の扉の前に立つ。

「…化学実験室」

普通の学校で言う理科室の様な場所だろうか。

扉を潜ると、教室内の光景が目に入る。

めちゃくちゃに散乱する肉塊、至る所に飛び散っている赤い液体。

まるでそこで戦争でも行われたか、そんな惨状が嫌でも目に入る。

「…なんだよ…これ…」

嗚咽が走る、胃の内容物を床に撒き散らす。

「はぁはぁ…ふう…うっウグェッ!」

止まらずびちゃびちゃと音を立て、床を汚して行く。

数秒で嘔吐は収まるが、頭の混乱は絶えず理解するのを拒む。

その時、廊下から呻き声が聞こえる。

「…!誰かいるのか!?人!?」

廊下に飛び出る、必死に声のする方向へ走る。

思考は停止し、身体は、本能は人が居るという安心感を求め、必死に脚を動かす。

…思えば、辞めておけば良かったのかも知れない。

「ゔゔぁ…」

そこには脚がなく、脳が赤黒く剥き出しになった人とは形容し難いものがこちらに向かって這いずっていた。

「は…はは…」

口から空気の漏れるような音が響く。

そいつが脚に縋り付いてきが、もう身体は拒む事すら出来なかった。

そいつが脚に噛み付こうとした時、破裂音が響き渡る。

とても大きな音で、焦げ臭さが漂い意識を引き戻す。

「やぁ〜っと仕留めたぁ!」

軽快な声が聞こえる、目の前を見ると。

今度こそ人と呼べる存在が立っていた。

「お兄さん、無事?うんうん、怪我ひとつないねぇ!良かった良かった!…なんか言いなよ」

そこで意識が飛んだ。

まぁ、今までで意識が飛ばながったのが奇跡だったけど。

「あらら、流石にお姉さんの刺激が強かったかな?」

次に目に飛び込んで来たのは、タイルの様に正四角形が並ぶ天井だった。

「…あっ、お兄ちゃん目が覚めた?」

横には6~7歳前後の男の子が座っていた。

「ちょっと待ってて、ゆき姉呼んでくるから。」

そう言うと、廊下へ出て行った。

身体を起こす、部屋を見渡す。

朦朧とした意識の中、現状を理解しようとする。

4つのベッド、それを仕切るように衝立が有る。

隙間から、先生用の机や棚が見える。

「…ここは、保健室的な場所かな。」

過去の記憶と類似点を見つけ、理解する。

その時扉を勢い良く開き、女性が入ってくる。

「お兄さん元気〜?うんうん、まだ何が起こってるか分かってないって顔してるねぇ!」

さっきの女性だ。髪を後ろで括り、暗いだろうにサングラスを掛けて血に染った白衣を着ている。

「…あ…あの…」

声を出そうとするが、うまく出ない。

「あぁ〜ん、無理に喋らなくてい・い・の!まだ頭働いてないだろうからね!」

なんとも軽薄そうな人だ。

隣の椅子に腰掛け、話をし始める。

「まずは自己紹介ね!私は川村ゆき、気軽にゆきちゃんって呼んで!…皆からはゆきママとかゆき姉って呼ばれるけどピチピチの2ゔぅん歳だからね!」

「歳を盛るなババア、それにそんな事してる場合じゃねぇだろうが」

後ろから男が入ってくる。

「誰が結婚し損ねた売れ残りババアだ!もっかい言ったら鉛玉脳天にぶち込むぞゴラァ!」

さっきとは打って変わってドスの効いた声に変わる。

「そこまで言ってねぇだろ…」

…一体何を見せられてるんだ。

「っとごめんねぇ!びっくりしたよね!貴方も天国へ行きたくなかったらババアなんて言わないでね!きゃぴっ!」

「ゔぇ」

「なんか言った?」

「何も言ってねぇよいよいよ耳おかしくなったか?」

「あ"?もういい、表出ろ。地獄からやり直させてやる。」

本当に何を見せられてるんだ。

「…はぁ、何が起こってるんですか?ここどこですか?」

このめちゃくちゃな空気を断ち切りたいが為に、質問をぶつける。

「あら、また蔑ろにしてたわ!ごめんねぇ?とりあえず現状の説明をしよっか!」

説明によると、この場所は現実とあの世の境目に取り残された学校であり、死に損なった奴らがうようよ居る場所。

何かの拍子に、そこへ迷い込むらしい。

「とゆう事は…自分は死んだのですか?」

「うーん?厳密に言うとねぇ、まだ死んでないのよ。意識だけこっちに飛ばされてるの、私達もそう、現実では身体は生きてる状態。まぁ、もしかしたらもう身体は無いかも知れないけどねぇ〜」

「…植物人間」

口から溢れ落ちる。

「そう!植物人間状態にあるのよ、病院でおねんね状態よ!キャー!ふしだらなお医者様に襲われちゃうわぁ!」

「もうそのキャラ辞めたら?話進まねぇよ。」

「うるさいわねぇ!良いでしょ別に!」

「とりあえず、今総出で脱出方法と生存する為のことをやっているの。」

どうやら、意識だけでも物を食べたりしないと死ぬらしい。

「だから、貴方もこれから食料の調達と脱出方法を探す為に強制的に働いてもらうわ、ここで死んで死に損ないのゾンビ達の仲間入りをしたいなら別だけどね!」

「見たから分かるだろうが、あいつらはゾンビだ。噛まれれば同じ様になる。嫌なら働けってことだよ。」

…帰りたい。だけど、帰るすべは無い。

「…所で、何人くらいに生存者は居るんですか?」

「今は5人よ、貴方を含めてね。本当はもっと居たのだけど、皆死ぬか探索から帰らなかったのよ。」

背筋に寒気が走る、ここでは死がまじかにある。

「…さっきの子供は!?」

「あぁ、こうちゃん?あの子もそうよ。」

嫌な予感がする。

「まさか、あの子も探索に出たり…?」

「…そうよ、あの子にもお願いしてるわ。」

嫌な予感が当たる。

「どうして!?年端の行かない子供ですよ!?聞く限り危ない場所なのに!」

「あぁん!そんな怒鳴らないでぇ?お姉さん怖いわぁ、しくしく…でもね、ここではそんな事言ってられないの。あの子も生き残る為に、ここを出る為に必死なのよ。」

「でも!」

「貴方に何が分かるの?来たばかりの貴方にこうちゃんの何が分かるの?…こうちゃんは自分から志願してきたのよ。もちろん私達は止めたわ、そうやって死んでった子を何人も見て来たから。」

「…ごめんなさい」

それ以外言葉が思い付かなかった。

「…煙草あります?」

「ん?あ、煙草?今あるのって私が吸ってるキャロルだけだけど…」

「あぁ、それで良いです。僕もキャロル吸ってるんで。1本頂いても?」

落ち着く為に、とにかくさっき見たぐちゃぐちゃの肉塊の様な思考を収めたいが為に。

「良いわよ、ほら。」

「ありがとうございます。」

火を付け、螺旋を描いて登って行く煙。

「貴方煙草吸うのね、意外。」

「…良く言われます。」

気付けば、男は居なかった。戻ったのか、探索に出たのかは分からない。

「ポケット灰皿だけど、これ使って?布団には落とさないでね。燃えちゃったら困るし。」

女性の顔は、さっきの明るい表情から憂いを帯びた顔になっている。

「それじゃあ、動ける様になったら隣の教室に来て。早速働いてもらうわ!」

そう言うとスクッと立ち上がり、部屋を出て行った。

「はぁ…なんだろうなぁ。神様のいたずらってやつかなぁ…」

溜息をつきながら独り言を漏らす。

煙草を消し、立ち上がって部屋を出る。

「隣の部屋って言ってたな。」

扉には対策本部と書かれた紙がテープで貼り付けてある。

扉を開けると、ゆきさんとこうくんと1人、知らない人が居た。

「もう動いて大丈夫?」

いち早くこうくんが声を掛けてくる。

「うんうん!顔色良し!大丈夫そうね!」

返答を待たず、ゆきさんは軽快に言う。

「あ!そうそう!この人の事も紹介しなきゃね!この人は、」

「高橋田貫、よろしくね。」

「たぬき…」

普通ではありえない名前だ。

「君も変な名前だと思うだろ?親が刀好きでさ、同田貫正国から取ったんだよね。言わばキラキラネームだよ。」

「あぁん!お姉さんを蔑ろにしてぇ!仕返しかしらぁ?寂しいわぁ!」

ゆきさんが後ろでしょぼーんとしていた。

「でも、お姉さんは可愛いと思うなぁ?」

「あはは、ありがとうね。」

照れた様な笑いをする。

少し背が高くくせっ毛、眼鏡の男性、歳は20前後のように見える。

「それと、あともう1人の男性は…?」

さっきの男性の事を聞いて見る。

「あぁ、あの失礼なガキの事?」

言葉が鋭い気がしたが、スルーする事にした。

「まさとさんの事ですね?」

「そう、あいつは優希まさと。16歳のこうちゃんのお兄ちゃん。」

お兄ちゃん、その言葉に疑問を持つ。

「…え?てことは、兄弟でここに?」

「そう、僕とお兄ちゃんは事故でここに来た。」

こうくんが話す

「ちょっと…」

「大丈夫、説明しないとなんで兄弟でここに居るか分からないし。」

…かなり出来た子だ。

「とりあえず、まずここの説明をするね。」

たぬきさんが手招きする。

「まず、ここはみんなの生活空間。一応安全な場所だよ。」

普段はここで寝泊まりしているらしい。

「で、隣の部屋、あぁ君が起きた保健室とは反対の隣ね。そこは、倉庫。」

武器や、食料をそこに置いているとの事。

「探索準備をする時はそこでね。一応、銃器も有るけど、弾は限られてるから気を付けてね。…まぁ、ゆきママがかなり使ってるからなんだけどね…」

たぬきさんは苦笑している。

「もう!私を悪者みたいに!ちゃんと探索で見つけて来てるもん!」

頬を膨らませ、腰に手を当てそっぽを向く。

「まぁ、近接武器も有るから好きな様に。」

「…これってここにあったものなんですか?」

「そう、ここにある武器、食料はここで拾って来たものだよ。」

本当に非現実的だ…あの世と現世の狭間の筈なのになんで物があるのだろうか…

「なんか気が付くと無かったはずの場所に落ちてたりするんだよね。」

今更だが…かなり恐怖を感じる。

「誰かが居て、そこで息絶えて置いて行くのか…分からないけど、有難く使わせて貰ってる。」

言わば遺品なんだろう。

「食事は1日2食。みんなで食べる事にしてるんだ。と言っても時間の間隔なんて無いから適当な時間にだけどね。」

腕を見ると付けている時計が2:35を指し止まっていた。

「ここでは時計が止まったりおかしくなって働かないんだよ。」

そういえば…時間なんて最近は余り気にしていなかったっけ…。

「話が逸れたね、説明に戻ろう。」

その後も、たぬきさんから説明を受けて隣の部屋に戻る。そこには、探索から帰ったであろうまさとさんが居た。

「おう、もう大丈夫そうだな。」

「まさとさん、お疲れ様です。これから彼に戦闘方法とか教えてあげて貰えませんか?」

「構わねぇが、不器用だから手加減は出来ねぇぞ。」

「あぁ、そうなると…」

「お願いします。」

頭より先に口が動く。

「え?」

「お願いします、自分に戦闘の事教えて下さい。」

「分かった、死んでも文句言うなよ。」

「大丈夫ですか?一応、ゆきママにお願いした方が…」

何故だろう、怖い筈なのに逃げたい筈なのに、口から溢れ落ちる。

「大丈夫です。」

自分が自分でないような気がしてならなかった。それからまた、倉庫に向かい武器を選ぶ。

「当たり前だが、使いこなせねぇ武器じゃすぐに死ぬ。先ずは俺と組み手をして扱いやすい武器を選ぶんだ。」

扱いやすい武器、言わずもがな戦闘経験のない自分だからどれが良いとか分からない。手頃なナイフを手に取る。

「ナイフか、素早い動きが求められるぞ。ただ、音も無く近寄り倒せる利点がある。あいつらは音には敏感だからな。」

そこから軽い組み手をする。しかし、簡単に動きを見切られ壁に飛ばされる。

「ごふっ…」

「…お前にナイフは向かないようだ。」

みぞおちを打ち付けた様に呼吸ができない。

「早く立て、そんなんじゃここで生き残れない。」

思っていた以上にスパルタだ…

「フー…フー…すみません。」

呼吸を整え立ち上がる。ふと横を見ると、拳銃が置いてある。

「拳銃か、さすがに組み手にゃ使えねぇ。その黒板を的だと思って撃ってみろ。」

ナイフを置き、拳銃を手に取る。思った以上に重い…友人の家でモデルガンを持った事が有るが遥かに重い。

「…構え方がおかしいな。お前モデルガンも撃った事無いのか?」

「友人の家で持ったくらいです。」

「そうか、まぁやってみろ。」

黒板目掛けて発砲する。反動で身体がそれその場に尻もちを着いた。

「…ダメだな。重心もブレて狙いが定まってない。まぁ、護身用に一丁持っとくのが良いか。」

その後も、警察が持っている棍棒の様なもの。トンファーや、刀といった物を使って見たがダメだった。

「…お前さすがに弱過ぎるな。そのまま探索に出たら死ぬぞ。」

怖かったからとか言い訳だけが頭に浮かぶ。

「…すみません」

まさとさんはナイフ1本でここまで圧倒してくると言うのに、自分と来たら何も出来ない…

最後、薙刀などの長物。

「長物は、扱いが難しい。複数人で戦闘する際一歩間違えたら味方を傷付ける。」

戦闘経験が無い分、そうなりそうで怖い。自分が手に取ったのは大鎌だった。

「それで良いのか?薙刀の方が扱いやすいぞ。」

「いえ、これでお願いします。」

両手でしっかりと握る。

「なら良い、死ぬなよ。」

まさとさんが斬りかかってくる。フーっと息を吐き、大鎌を大きく回す。そして、まさとさんのナイフ目掛けて刃を振り落とす。

ガキンッと音を立てまさとさんの手からナイフが落ちる。そして、畳み掛ける。まさとさんを突き飛ばし、首元に刃を向ける。

「…お見事」

自分でも驚く程に扱いやすい。自分の適性が分かった。

「うんうん!さすが!君の適性は大鎌だったか!」

扉を開け、ゆきさんが入ってくる。

「これで探索にも出れるね!」

ゆきさんは機嫌良さそうに話す。

「自分でもここまで扱えるとは思いま…」

「待て、どうしてその動きをしようと思った?」

まさとさんは言葉を遮り聴いてきた。

「え?あ、あぁ、アニメを見ててそうやって回して勢いを付けるのを見たから真似しただけです。大鎌の戦い方ってこんな感じだと思ったので。」

まさとさんもゆきさんも驚き目を丸くした。

「…凄いわ!まさかアニメで見ただけでその動きが出来るなんて!お姉さんには出来ないわ!」

ゆきさんが賞賛の声を上げる。

「…お前の実力を見誤ってたかも知れないな。」

何故こんなにも褒められているのか分からない。

「来て初日でこんな事して疲れたでしょう?ご飯作るから、隣の部屋で待ってて!」

ゆきさんは食品を見て上機嫌に話す。

「今日は奮発しちゃおうかしら〜?」

鼻歌交じりに、食品を見ている。

「行くぞ」

まさとさんに声を掛けられ、倉庫を出る。

…ふと窓を見る。窓の外は、何も無い闇だけが広がっていた。しかし、一瞬何か光ったように見えた。

「あれ?」

「どうした?」

まさとさんが振り返る。

「いえ、何か光った様な…」

「気の所為だろ、外は何も無い闇だ。光る筈が無い。」

そう言うとまた前を向き部屋の扉に向かう。自分も気の所為だと、疲れているんだろうと思いまさとさんの後に続き部屋へ入る。

「あ…お兄ちゃん達…おかえり。」

こうくんがこちらに気付き声を掛けてくる。手元にはノートと算数の教科書らしき物が広げられている。

「お帰りなさい」

たぬきさんが優しく微笑む。

「今お勉強中なの?」

「そう、たぬきお兄ちゃん頭良いから…」

こうくんはにこにこしている。まさとさんの方を見ると少し微笑んでいる。

「まさとさんも笑うんですね。」

そんな言葉を不意に発してしまった。

「俺だって人間だ。笑う時くらいある。」

そう言うと、真顔に戻った。しかし、頬が少し赤くなっている。

「お・ま・た〜!!!」

扉を勢い良く開け、ゆきさんが入ってくる。

手には食料が沢山入ったカゴを下げてる。

「今から、ご飯作るからもうちょっと待っててねぇ!」

ウキウキしながら、置いてあるカセットコンロの方へ進んでいく。

「せっかく新しい仲間が増えたんだから、奮発しないとねぇ!」

また鼻歌混じりになっている。

「さあ出来た!みんなー?机並べてー?」

20分くらい経過しただろうか、ゆきさんが声を掛ける。その時グゥ〜っと音がする。

「…良い匂い」

こうくんのお腹が鳴った様だ。

「あらあら?お腹空いちゃったのね!じゃあすぐに食べましょう!」

そして、机に豪華な食事が並べられた。

「さぁ!食べましょ〜?」

「「「「いただきます。」」」」

「どうぞ〜!」

食事を口に運ぶ…美味しい。そういえば、ここ最近ちゃんとした食事を取って居なかった。

自然と目頭が熱くなる。

「あらあらぁ?そんなにお姉さんの料理が美味しかったのかしらぁ?」

「黙れ、不味い飯がもっと飯が不味くなる。」

「あ"ぁ"?そんなんなら食わなくて良いが?」

「まぁまぁ」

そんな和気あいあいとした話を聞きながら、食べる。普段は一人で食べて居たからか、みんなと食べると何倍にも美味しく感じた。

「「「「「ご馳走さまでした。」」」」」

食べ終え、ゆきさんはお皿を外の水道に持って行こうとする。

「…あ、僕も手伝うよ」

こうくんは立ち上がり、付いていく。

「ありがとう〜、どっかの誰かさんと違ってこうちゃんは優しいねぇ!」

ふとまさとさんを見ると何事も無いようにナイフの手入れを始めていた。

そして、皿洗いが終わって戻って来た。

「それじゃあ今日は誰が見張りを担当しようか。」

どうやら就寝時の見張りを決めるらしい。

「君は来たばかりで疲れてるだろうから、しっかりと休んでね!次から担当してもらうかもしれないし!」

「あ、分かりました。お言葉に甘えてそうさせて貰います。」

「じゃあ今日は僕が担当しようかな。」

たぬきさんが手を上げる。

「じゃあ、たぬきくんお願いします!」

そうして、みんな保健室に向かう。

どうやら寝る時は保健室らしい。

「これからまた増えたら布団足りなくなるわねぇ、次の探索の時探してみようかしら?」

そう言うと布団に入って行く。

「…お兄ちゃんお休み。」

こうくんが声掛けて来た。

「うん、お休み。」

そう言い自分も布団に包まる。

なんだか少し暖かく感じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る