第15話 両替と買い物

「お金、たくさん……!」

『そうだなぁ』


 ペトラが覗いているのは、大きめの壺だ。その中には、銅貨や銀貨が大量に入っていた。全財産が財布の中に入らなくなって久しいからなぁ。気が付けばこの大きめな壺を埋め尽くすくらいペトラは小金持ちになっていた。


 毎日ペトラが貧民街の連中や、料理店なんかに水を売った成果だな。


 それはけっこうなことだが、そんな大金の入った壺を誰もが出入りできる食堂に置いておくのは危ないんじゃないか?


 女たちのことは信じないわけじゃないが、金は人の心を歪ませるからなぁ……。


 なにかしら対処しておいた方がいいかもしれない。


『この街に銀行はないのか?』

「ぎんこう……?」


 ペトラが不思議そうに小首をかしげた。知らないみたいだ。


『まずはおっかさんに相談してみるか』

「ん」


 というわけで、ペトラにおっかさんを呼んでもらったわけだが……。


「ペトラ! あんた、稼いだねえ! すごいじゃないか!」

「ん!」


 ペトラがない胸を張っている。


『ペトラ、このままじゃ金が使いにくいからおっかさんに相談してみろ』

「ん。おっかさん、お金重たい。運べない……」

「そりゃ銅貨や銀貨ばっかりじゃねえ……。よし、わかった。おっかさんに任せときな!」


 そう言っておっかさんはノシノシと食堂を出ていくと、すぐに戻ってきた。


「ふー。やっぱりここは涼しいねえ。精霊様様だ!」


 おっかさんは汗を拭うと、なにかをペトラに差し出した。


 大きな銀色の硬貨と……金色に光る硬貨。金貨だ!


「金貨……!?」

「そうだよ。いいかい、ペトラ? 銅貨は何枚で銀貨になる?」

「ん? 十六枚?」

「そうだよ。いいかい、ペトラ? よく覚えておきな。銅貨十六枚で銀貨一枚になる。で、こんどはこっちだ」


 おっかさんが手に持った大きな銀色の硬貨を指差した。


「これは大型銀貨ってやつさ。これには銀貨五枚の価値がある。で、こんどはこっち」


 おっかさんが今度は金貨を指差した。


「これが金貨だよ。この金貨は、大型銀貨五枚分の価値がある。じゃあ、銀貨何枚で金貨になるかわかるかい?」

「んー……」


 ペトラが指を折りながら数えていく。だが、すぐに諦めたようにしょぼんとしてしまった。


「わかんない……」

「まだちょっと難しかったかねぇ。いいかい? 銀貨が二十五枚で金貨になるんだ。覚えておきな」

「ん!」

「じゃあ、両替して算数の勉強でもしようかね。ペトラ、壺のお金を全部床に出しな」

「ん? ん」


 ペトラが壺を倒すと、中から銅貨や銀貨が大量に出てきた。


「いいかい、ペトラ。銅貨は何枚で銀貨になる?」

「十六枚」

「じゃあ、銅貨を十六枚あたしにちょうだい。あたしが代わりに銀貨をペトラをやるから」

「ん」


 そうして、おっかさんはペトラの持つ銅貨と銀貨を金貨と大型銀貨に両替してくれた。これでかなりスッキリしたな。財布にしている革袋にも入りそうだ。


「ペトラ、あんた服でも買ってきたらどうだい? その二枚しか持ってないんだろ?」

「ん」

「最低でももう二、三枚は欲しいとこだね。ちゃんと下着は新しいのを買うんだよ?」

「わかった」


 すごいな、おっかさんは。あの守銭奴のペトラにこうも簡単に高い買い物をさせるとは……!


 それだけおっかさんを信頼しているのと、お金がたくさん集まって、ペトラの心に余裕があるのだろう。


 まぁ、たしかにまともな服が二枚しかないのは問題だよな。パンツなんてまだ一枚しかないし。ここで服を買う選択をしてくれるのは助かる。


 そして、オレたちはこの間行った古着屋に来ていた。


 本当は新品の服がいいが、新品の服は高すぎるからな。


 それでも、古着屋の中でも一番状態がいい服からペトラの服を選ぶことができた。


 買ったのはまたワンピースだ。だが、今度のはちょっと飾りがついてて豪華版である。古着ではあるが、この街だったらいいとこのお嬢さんのように見えるだろう。


「どう?」

『似合ってるぞ! お姫様みたいだ!』

「ん!」


 女の子ってなんでお姫様が好きなのかねぇ。


 そして次はパンツだ。


 この前買ったパンツの色違いを三枚買った。飾りもなにもないシンプルなパンツだ。まぁ、ペトラはまだ子どもだし、これでいいだろう。パンツを見せびらかす機会もないしな。そんな機会なんてないほうがいい。


 それからブラジャーもパスだ。ペトラにはまだ早い。


『ペトラ、髪を結ぶリボンなんてどうだ?』

「んー?」


 ペトラはまっすぐで綺麗な銀色のロングストレートをしている。いつもストレートだが、たまにはヘアスタイルを変えてもいいだろう。


「いる?」

『髪、じゃまじゃねえか? 縛ると少しは楽になるぞ? それからかわいくなる』

「じゃあ買う」


 かわいくなるというのが効いたのか、ペトラは深い青色のリボンを二つ買った。


 これでツインテールもできるし、二つあれば十分だろう。


 娼館に帰ったペトラが、女たちの着せ替え人形になったのは当然の帰結だった。


 ちなみにオレはツインテール推しだね。



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