第11話 次なる目標
ペトラがゾラのことを心配してこの日は外に出ようとはしなかった。
ゾラというのは、客に殴られて左目を腫らしていた女だ。十五歳くらいの比較的若い娼婦で、ペトラと仲がいい。
まぁ、ペトラは女たち全員にかわいがられているんだがな。
だが、そのかわいがり方にも二種類ある気がする。母が娘にするような、まるで親子のようなかわいがり方と、友人のそれだ。ゾラはどちらかというと後者だな。
いくら日陰とはいえ、アホみたいな気温の中では氷なんてすぐに溶けちまう。オレはその都度、氷を創ってはペトラに渡した。他にもペトラや暑さにやられている女たちに飴玉みたいな氷を創って配ったりもした。
これが好評で、女たちはうっとりとした表情を浮かべて氷を味わっていた。
今では水瓶に大きな氷が浮かんでいる始末だ。
思ったんだが、この氷ってのは水よりも高値で売れるんじゃねえか?
かき氷はすぐに溶けちまうから無理だろうが、それなりに大きな氷を出してやれば、金持ちが大枚叩いて買ってくれるんじゃなかろうか?
あとでペトラに教えてやろう。
『にしてもこれは……』
現実逃避していたオレの目に飛び込んできたのは、すっぽんぽんになって水瓶に向かう一人の女の姿だった。
細身なのに出るところは出ているナイスバディだな。オレも男だからな、どうしても視線が歩くたびにプリプリ揺れる尻に吸い寄せられちまう。
「あは! 冷たーい!」
女はまるで少女のようなはしゃいだ声をあげて水を飲んでいた。
そう。今まで昼間に娼館にいなかったから気付かなかったが、昼間の娼館は無法地帯だ。みんな露出狂なのかってぐらい服を脱いじまう。中には下着まで脱いですっぽんぽんになっちまう奴もいた。
蒸れて気持ち悪いんだってさ。
それを見てペトラも服を脱ぎだすのは問題だ。さすがにパンツだけは穿かせたが、服は脱いじまった。
ペトラはまだパンツに慣れていないのか、ずっと脱ぎたそうにしていた。
『なんていうか、すごいな……』
どこを見ても女の裸体が目に入りやがる。オレとしてはかなり困る状況だ。
とはいえ、ゾラを看病しているペトラに外に行こうとも言えない。
まったく、どうすりゃいいんだよ……。
「アラン、氷欲しい……」
『ああ……』
オレはただの製氷機。そう思うことにして、オレはこのだらしない女の園の中で過ごしていた。
まぁ、その甲斐あってか、ゾラの左目はわりとすぐに腫れが引いた。まだ青黒くなってはいるが、そのうち治るだろう。左目もちゃんと見えてるようだし、ひとまずは大丈夫だな。
◇
夜はいつものように精霊たちを吸収して過ごし、ペトラが起きる前に帰ってきた。
ペトラは心配なのか、ゾラと一緒に寝ていた。
というか、オレにはあまり感じないが、砂漠の夜ってのは意外だが寒いらしい。女たちはお互い距離を取っていた昼とは真逆にお互い抱き合うようにして寝ている。
まぁ、氷の精霊とかいるくらいだからな。それなりに寒いのだろう。風邪なんか引かなきゃいいが……。
温めるといったら火だが、布団に引火したら怖いから止めておこう。
そんなことを思いながら、ペトラが目覚めるまで待つ。それが最近のオレの日課だ。
オレは精霊だからか、夜目が利く。薄明りの中ペトラの寝顔を見ていると、ずいぶんと頬が女の子らしくふっくらしてきたな。手足にも肉が付いてきたし、いい調子だ。
「ん……」
その時、ペトラがむずがるように声をあげる。
そのまま何度かムズムズ動くと、ぼんやりと目を開けた。
『起きたか?』
「んー……? ん」
また目を閉じて寝てしまった。
『ま、気ままに待つか……』
自分でも意外だったが、オレはこういうなにもない時間というのが嫌いではないらしい。日本にいた時は、常になにかしてなきゃ気が済まない質だったんだが……。これも精霊なんてみょうちくりんな存在になったからか?
まぁ、ここには日本みたいに娯楽に溢れているわけじゃねえから助かるといえば助かるな。
電気が無いからテレビもねえし、雑誌やマンガもないみたいだ。この街の住人はなにを楽しみに生きてるんだ?
『人間の三大欲求ってやつか?』
食欲・睡眠欲・性欲。
『睡眠は足りてるよな? 性欲はまだ早いし……。じゃあ、食欲か?』
やっぱペトラにはただ水を売るだけじゃなくて、楽しみってやつが必要だ。
オレも欲しいものがあった時はバイトしたりしたしな。んでよ、欲しいものが手に入った時はやっぱり嬉しかった。
オレはペトラにも喜んでほしい。生きる喜びなんて言ったら大袈裟かもしれないが、人生にはちょっとした喜びってやつが必要だろ?
それが食べ物ってのはちょっとどうなんだと思わなくもないが、この街で手に入る贅沢品なんて限られてやがるしなぁ……。
『やっぱ、菓子になるか?』
子どもって菓子や甘いものが好きだろ。たぶん。
『この街で食えるスイーツってやつも探してみるか……』
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