生首と義姉とお茶会する少女の話
――桜の木の下には死体が埋まっている。
そんな物騒なことを言いだしたのはいったい誰だったか。今考えても仕方のないことを頭の隅に抱えながら、わたしは桜の木を眺めていた。庭の主役たる桜は
麗らかな陽気の中で、いっそすべてが夢であったらよかったのにと思う。本当のわたしは眠っていて、起伏のない平坦な人生を歩んでいる最中かもしれない。優しい父母との三人暮らし。兄は婿養子へ行ってしまったけど時々遊んでくれて、
「今年もきれいに咲いたでしょう」
義姉の言葉がわたしを現実に引き戻す。
わたしは「……ええ、とても」と返事をするのが精いっぱいだった。
優美な茶器を手にした義姉は手際よく準備を進める。やはりわたしは、その様子をただ見ていることしかできなかった。紅茶を淹れる白魚の指先、
「さあ、お茶の時間にしましょう」
兄が仕事で不在の白昼、穏やかなお茶会が始まる。テーブルを囲むのは義姉とわたしと、ガラスケースに収まる生首。
この首と繋がっていた胴体は、桜の木の下に埋まっている。義姉が埋めてしまった。
事件が起きる前に警察は動けない。事が起きてしまってからでは遅いのに。だから義姉は、私に付きまとっていたこの男を殺した。殴打し、引きずって、埋める。まるで手慣れているかのように。そして、わたしが加害者の幻影に怯えないよう、男が確かに死んだ証として首だけを残した。義姉はわたしを抱き寄せて「これで大丈夫よ」と、事もなげに言ったのだ。それ以来、わたしたちはこうして麗らかな春の日にお茶会をする。
わたしは生首を、二度と開くことのない双眸と土気色の肌を見るたびに安堵し、
どうして義姉は血の繋がった本当の妹ではないわたしに、ここまでのことをしてくれるのだろう。わからない。わからないから、少しこわい。
ティーカップに口をつけながら視線だけでひっそりと義姉の様子を伺う。すると、彼女はわたしの胸中を見透かしたかのように、恍惚とした笑みを浮かべた。
「私のかわいいかわいい小妹、ずっと守ってあげますからね」
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