第4週 3話

年鑑 フューチャー・ウォーカー

WEEKLY 4th 「私(僕)が主役?」


≪21≪


 ナギが一刻かずときたちと知り合って1カ月近く経つ。彼女は過去の世界の環境に慣れ始めて、20世紀の住人も彼女を受け入れていた。


 その日は日曜日。ナギは一刻の親戚が経営している喫茶店<mii>で真面目にアルバイトとして働いていた、店での彼女の評判は良く、常連の他、新規の客が口コミで来店していた。


「和(ナギ)ちゃんが未来人だったとはね…しかも、私より年上なんて驚きだわ~おまけにもいて…」

[お褒め頂き光栄です~]

 ドラッチは美衣みいの優しい言葉で、一時回路をショートさせていた。

「今後ともよろしくお願いします、そろそろが来るかと…」

 美衣はナギが何者だろうと、全く驚かなかった。

 ナギは接客をしながら、誰かを待っていた。しばらくすると…


「いらっしゃいませ~」

「あら、今日は団体さんね…」

 一刻が<mii>にやって来たが、彼独りではなかった。

「すみません、無理言いまして…」

 一刻はポップカルチャー研究部のメンバーを<mii>に招いた。


「どうも、桧木ひのきと申します」

「腹減ったな、コーラとカツカレーをお願いします~」

野比坂のびざか君の叔母さん、おキレイですね~」

 一刻・兼正かねまさ剛志つよし英雄ひでおは奥の予約したテーブル席に座り込み、何やら打ち合わせを始めた。


「では…野比坂君の脚本が完成したということで、本格的に撮影を始めます」

 ポカ研部長の英雄が仕切り役となり、大学祭映画について話し合った。


「だいぶ予定が遅れているけど大丈夫なのかな?」

「その点は心配ないみたいだよ、ねえ、野比坂君…?」

「え…うん、音代おとしろさんがどうにかしてくれるって…」

 一刻はそう言って、仕事バイト中のナギをじっと見た。


「ナギちゃんのことは信じるけど、何だか実感湧かないな」

 兼正が注文したコーヒーをすすりながら呟いた。

「今は彼女に頼るしかないよ、言う通りにしよう」

 ポカ研男性部員は、ナギのバイトが終わるのを待って、彼女の指示に従った。


 一刻たちはナギの住居室に招かれて…


「…勝手に家の物を触らないでよ~」

「打ち合わせは店で済ませたけど、こんな所に皆を集めてどうする気だ?」

…」

 ナギは自室の壁に向かっていた。すると、彼女は別空間の場所へと消えていった。

「…部室の時と一緒だ、この壁を通り抜けたら、に行けるんだ」

 英雄は状況を理解して、ナギと同じ行動を取った。残りのメンバーも同じ行動を取っていき…


 ナギの部屋の壁を超えると、そこは別世界だった。


「本当に以前まえ来た場所か?」

 一刻たちはぽかんと口を開いて、首を傾げていた。

「一定の重力、光と酸素以外、何もない世界だからしてみたの」

 以前、ナギが借りたは全体が白くて殺風景だったが、かなり様子が変わっていた。

 彼らが訪れた場所は青空が広がっていて、お洒落な建造物があった。


「人工的な空だけど雰囲気あるでしょ?この建物は私たち専用の撮影スタジオよ、案内するわ」

 一刻たちはナギについて行くしかなかった。

 スタジオ施設内は広々として明るく、あらゆる機材が揃っているようだった。

「すごい…うちの父親が所有している映画撮影所より立派だ」

 兼正は愕然と立って、施設内を見渡していた。

「このスタジオはどうやって手に入れたの?」

 英雄がナギに質問した。

「借りたのよ、スタジオの他に休憩室や仮眠室、浴室があるから好きに使っていいわよ」

「ナギちゃんって金持ちなの?」

 剛志がナギに素朴な疑問を呈した。


「いいえ、別にお金はないけど…」

「でも、これだけのことをしたら何かとお金がかかるんじゃ…」

 英雄も疑問を投げかけた。

「今回の映画製作のために色々と借りたけど、一切お金はかかってないの」

「それはどういうことだ?」

 ポカ研男性部員の頭のもやもやは晴れることはなく、未来世界との価値観の違いが浮き彫りになった。


 ナギが住んでいる未来世界、24世紀での金銭感覚は現在と比べると、かなり特殊だった。

 未来では〝金銭〟は存在せず、収入源は全て〝ポイント〟となる。ポイント制には使用期限期間を設けており、利用頻度は所有者により異なる。

〝ポイント制度〟は借金、収賄、裏金、資金洗浄、隠し口座、行為などを防ぐための対策で、税金制度は廃止。よって、未来人に金銭という概念はなかった。

 

 また、未来の世界では労働条件も異なっていた。

 未来では就職の世話、紹介、情報提供をする組織・機関は存在せず、就労者は多様性や独立性を重視していた。

 誰にも頼らず、好きな時に働けて、好きな時に休むことが未来就労者の理想スタンスだった。

 労働時間には特に制限はなく、いくつも仕事をかけ持ちしても問題はない。仕事に必要な免許・資格の数は豊富で、〝何でも屋〟請負業が人気である。ナギも請負業者として働いており…


「私は観光業を中心に個人経営しているわ、宇宙旅行、時間旅行、異世界旅行のガイドとかね…」

「そうだったのか…でも、どうしてバイトしているんだ?」

 一刻がそっと挙手して、ナギに質問した。

「それは私がこの時代の人間だからよ、ポイントは未来では使えるけど、現在では無意味なものだから…」

 ポカ研男性部員は未来の日常を知り、大学祭映画の撮影作業に取り掛かるのだが…

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