第4週 4話

年鑑 フューチャー・ウォーカー

WEEKLY 4th 「私(僕)が主役?」


≪22≪


「撮影場所を提供してくれて助かるけど、この空間ってどのくらいの広さなんだ?」

 一刻かずときがナギに質問した。

「大体、東京と同じくらいの面積よ、私のポイントだと借りられる範囲はこれが限界でね…」

きたいことはまだあるけど、そろそろ撮影の準備をしようか?」

「そうね、良い作品が作れるよう頑張りましょう」

 英雄ひでおは監督の顔になり、ポカ研の士気が高まった。


 今日からポカ研の大学祭映画の撮影が始まる。部員それぞれに役割があった。


 一刻は脚本兼主役他雑務、兼正かねまさは小道具兼衣装兼美術他雑務、剛志つよしは大道具兼カメラ他雑務、英雄は監督、ナギは助監督兼主演と決定した。


野比坂のびざか君とナギさんのW主演ということで…」

「本当に僕が主役で良いの?」

「何も気にすることないよ、自信を持ってね」

「…ちぇ」

 兼正・剛志コンビは一刻主演に納得していなかったが、監督には逆らえなかった。


「さて、何から始めようか?」

 英雄は部員たちに意見を求めた。

「せっかく広い場所があるから、リアルな美術セットを組みたいんだけど」

 兼正が1つの案を出した。

「お安い御用よ、建造物も簡単に用意できるから」

「衣装は用意できる?」

 兼正がまた1つ、ナギに頼みごとをした。


「ええ、兼正君は絵上手いの?」

「まあね、プロのデザイナー目指しているから」

「じゃあ、衣装の絵を描いたら、私に渡して」

「うん、分かったよ」

「それじゃあ、セットを組んでいこうか、本当に大丈夫なの?」

 英雄が心配そうな顔でナギに訊ねた。

「任せといてよ、はひとどおり揃ってるわ」

 ナギは未来の便利道具を使おうとした。


「映画演出に必要な建造物セットはこれで…」

 ナギが用意した道具一式は小型無人航空機とモニター機器だった。


〝レコン・アイ〟は21世紀に開発された無人航空機ドローンの発展機であり、遠隔操作の他、機体に搭載された人工知能による自立操縦も可能。本機が撮影した映像は、リアルタイムでモニターに送信されて、静止画・動画のデータ保存ができる。


「レコン・アイで住宅や街の風景を撮影するの、半径500キロメートル以内なら問題なく操作できるから、都心部の撮影もできるでしょ」

「撮影だけしてどうする気だ?」

 一刻がナギに質問した。

「後で分かるから楽しみにしといて…この作業は…郷田ごうだ(剛志)君にお願いしようかな~」

「え?俺が?」

でしょ?操作は簡単よ」

 ナギは剛志にレコン・アイでの作業を任せた。複数のレコン・アイ機が作動して、現実世界へ飛び出していった。


「下準備は彼らに任せて、私たちは今後の予定を話し合いましょうか」

 一刻・ナギ・英雄は兼正・剛志コンビの作業が終わるまで、撮影スタジオでミーティングを行った。

 そして時間は流れていき…


 ナギは兼正・剛志コンビの様子を見に行った。


「郷田君、調子はどう?」

「撮影は大体済んだよ、高層ビル群、住宅街、山林地帯と色々と撮ってみたけど…」

「上出来よ、使えそうな写真をピックアップしてしましょう」

「印刷?」

 剛志はナギの言っている意味が分からなかった。

「これを使うのよ」

 ナギは1つの未来道具を出した。それは未来版の印刷機プリンターだった。


〝リアリティ・プリンター〟は高性能の3Dプリンターで、建造物に関しては外装・内装・細部を徹底的に再現、実物と変わらない印刷機能が備わっている。

 レコン・アイで撮影した写真データをリアリティ・プリンターで読み込んで、印刷設定すれば、立体印刷物が続々と出てくる。


「これなら、いちいち建設工事する必要ないし、手間が省けるわ」

「確かに精密に印刷されているけど、これじゃあミニチュアじゃないか」

 剛志の意見はごもっともで、印刷物は手のひらサイズであった。

「まあまあ、本番はこれからよ」

 ナギはまた1つ、未来道具を出した。それは物体読込機であった。


〝スケールスキャナー〟は密度・比率・重量を瞬時に計算・読込を行い、対象物体の大きさを変化させる三次元ハイテク装置である。これがあれば、大型所有物の保管場所に困ることがなく、装置はコンパクトサイズなので、何時でも何処でも持ち運べる。


「これを置いてと…」

 ナギはスケールスキャナーと立体印刷物を所定の位置に設置した。すると…


 スケールスキャナーから不思議な光が照射されて、それを浴びた立体印刷物に変化が起きた。立体印刷物が巨大化していき、原寸でとどまった。


「これはすごい!…」

 ポカ研男性部員は呆然と立って、信じられない光景を目の当たりにした。

 気づけば、1つの大都市が築かれていた。

「これで映画の世界観ロケーションが完成したわね」

 ナギは得意気げに言った。

 これにて、想像を超えた映画製作が開始されるのであった。

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