第4週 1話

年鑑 フューチャー・ウォーカー

WEEKLY 4th 「私(僕)が主役?」


≪19≪


 場所は一刻かずときが在学する大学。一刻とナギは休み時間に英雄ひでおを呼び出して、大学祭映画の脚本の一部を見せようとした。


「殺し屋と一国の王女が恋をするラブロマンスものか、悪くないね」

「ありがとう、練りに練って、ようやく形になったよ」

「彼、徹夜して書きあげたのよ」

兼正かねまさ君たちにもこの脚本を読んでもらおう、続きを頼むけど、あまり無理しないようにね、音代おとしろ(ナギ)さんもサポートしてあげてね」

「はい、分かりました」

 ナギは英雄と会うと変な感情が際立つ。それが恋かどうかは不明であった。

 講義じゅぎょうが終われば、学生は自由の身となる。ポップカルチャー研究部の部室には続々と部員が姿を現していき…


「一刻にしてはやるじゃないの」

「アクションシーンの指導は俺に任せろ」

 一刻が執筆した大学祭映画の脚本は評判が良かった。


「これで軌道に乗り始めた、後のことは皆で解決していこう、配役に撮影機材の発注、ロケーションの許可、やることは山積みだ」

「ここでだね」

 その時、兼正がどや顔で立ち上がった。

「また君の世話になるよ、映画づくりはお金が要るからね」

 兼正の父親は日本有数の企業を経営しており、映画製作・配給企業の重役だった。兼正は由緒ある財閥御曹司おぼっちゃんで彼の特権コネを活用したが…


「断られたの?」

 兼正は気分よく父親に電話したが、何故かしょんぼりしていた。

「電話は父の秘書が出たよ、現在、仕事で海外を飛び回っているらしい、それで用件を伝えたんだけど…」

 兼正は父親の秘書に大学祭映画の協力を頼んだが、期待通りの返事はなかった。撮影スタジオは空きが無くて、専属スタッフも忙しくて手を貸してくれないとのことだ。


「そうか、まいったな~」

 ポカ研部員は困惑して、部室は重い空気に包まれたが…


「………」

 一刻たちの熱気が冷める中、ナギは何かを目論んでいて、ある決断までに至った。それから…


 夜を迎えると、一刻は自宅で大学祭映画の脚本作成に取り掛かるが、ワープロのキーを叩く音は響いてなかった。彼は何か悩んでいるようで、創作意欲が湧かなかったが…


「作業は捗ってる?」

「!?」

 その時、一刻は急にナギが現れたことで腰を抜かしそうになった。

「お茶でも淹れようと思ったんだけど…」

「君は神出鬼没だな、どうやって入った?」

「この道具を使ったの、〝スペーススタンプ〟といってね…」

 スペーススタンプは、判子状端末機を空間に押し当てることで、空間に穴が開き、そこを潜り抜けると別の場所に移動できる機能があった。

 ナギご自慢の未来の便利道具だが、一刻の反応は思ったより薄かった。


「相変わらず汚い部屋ね~」

「ほっといてくれ、何もする気が起こらないんだ」

「大学祭の映画の方が上手くいってないから?」

「まあね…今は君の相手をする暇はない、帰ってくれよ」

 一刻は憂鬱な気分のままであったが、ナギは退こうとしなかった。

「私に提案があるんだけど…」

「提案?」

 ナギは一刻を元気づけようと、ある策略をめぐらせようとした。

 

 翌日、ポカ研の部室に部員が集まるが、活気が無く静まり返った空気に包まれていたが…


「映画撮影は援助がないと厳しいな、どうしようか」

 部長の英雄は部員に意見を求めるが、挙手する者は居なかった。そんな時…


「ごめんなさい、遅れて…」

 ナギは走って部室にやって来た様子で、かなり息が上がっていた。

音代おとしろさん、君はいつも元気だね~」

「部長も皆も目が死んでいるわね、映画のことで悩んでいるんでしょう?」

「うん、あまり時間がないし、低予算で短編映画ショートムービーを作るしかないかも…」

「皆、本当にごめん」

「ちゃま(兼正)、お前のせいじゃない、一刻には悪いけど、ストーリーは変更しないとな」

 兼正は自分を責めて、剛志つよしが彼を慰めた。部室の雰囲気は暗くなる一方だが…


「ちょっと待って、まだ諦めるのは早いわ」

 ナギが部員たちに希望の一言を述べ始めた。

「いい加減なこと言ったら承知しないぞ」

 一刻はナギの悪ふざけだと思い込んでいた。

「私だって真剣に取り組んでいるわ、今回ばかりは頼ってほしい」

「頼るって…君が何をしてくれるんだ?」

「任せてよ、素晴らしい映画が作れちゃうから」

 一刻たち男性部員は首を傾げて、ナギを疑っていた。


「まず、撮影場所スタジオが必要ね…」

 ナギはそう言って、何かの準備を始めた。


「おい、まさか!」

 一刻は何か嫌な予感がしたのか、つい声を上げた。彼の予感は的中したのか、部室に異変が起きた。

「おっ来た来た」

 ナギがそう言うと、突然、謎の光体が現れた。それは未来から送られた商品だった。

「それは何なの?」

 英雄がナギに訊ねた。部室に届けられた商品はビニールシートのようなものだった。

を壁に貼り付けたいんだけど…手伝ってくれない?」

 男性部員はナギの言う通りに動いた。余計な物をどかして、彼らは部室の壁一面に謎のシートを貼った。

「そろそろ何をしているか教えてくれよ」

 剛志がナギに訊ねた。


「別の場所に移動するの、…」

「え?」

 男性部員はナギの言ったことが理解できなかった。

「シートが貼られた壁を通り抜けるの、先に行くわね」

 ナギは簡単に説明した後、一刻たちの前で実演してみた。すると…

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