第3週 6話

年鑑 フューチャー・ウォーカー

WEEKLY 3rd 「ポカ研って何?」


≪18≪


「重力は元通りよ、ご迷惑をおかけしました」

「何でこんなことを?」

「私が住んでいた環境の重力に合わせたの、地球の重力に慣れてないから、たまに変更するの」

「未来の世界の重力は?」「人工惑星の重力は地球の6分の1ほどよ…」

「月の重力と同じだな、それはエアコンじゃないのか?」

「ええ、〝グラビティ・コントローラー〟…重力を制御、重力場を変更させることができるの…お茶を淹れるから、奥の部屋で待ってて…」

 ようやく落ち着き、一刻かずときたちは大学祭映画の脚本の企画会議に取り掛かった。


「ご注文のものを持ってきたぞ」

 一刻は、自身が手掛けた脚本の冊子を段ボール箱に詰め込んで持参した。

「これを参考にして、映画のストーリーを考えましょう」

「没になったものもあるからな、映画となるとスケールも変わるし…」

「どういった作風ジャンルがお好み?」

「やっぱりSF(サイエンスフィクション)ものかな、却下されたけど…」

「宇宙を舞台にした映画なら作れるかも…」

「『スターウォーズ』みたいな?」

「ええ、参考程度に未来の映画を観てみる?」

「え?観れるのか?」

 その時、一刻は表情を一変させて、独り胸を躍らせた。

「ちょっと待ってね…」

 ナギはそう言って、何やら準備に取り掛かった。彼女はゴルフボールサイズの球体を床にばらまき…


「…コンテンツメニューを開いて…作品名は…」

 ナギは相棒のドラッチに指示をした。すると…


「え…これは…!」

 ナギの部屋は突如、別の空間に切り替わった。そこは宇宙空間のようであった。

「映像トリックよ…上映を開始します」

「あんまり音がうるさかったら、下階したのマスターにどやされるぞ」

「心配御無用、防音対策は万全よ、外のことは気にしなくていいから」

 24世紀の映画鑑賞は、スクリーンや固定された座席でじっと観るスタイルは存在しない。自然と作品の世界を体感することが主流だった。

 

 一刻はじっとして、未来の映画を観ることにした。ジャンルは宇宙を舞台にした戦争もの、光学立体映像が宇宙の世界を見事に再現していた。

 作中序盤、クオリティの高い宇宙戦艦や戦闘ロボットが現れて、迫力ある音響効果により、あたかも戦場にいるような錯覚を起こすほどの魅力があった。が…


 一刻は鑑賞中、興奮していたが、ナギは退屈そうであった。


「…ここまでにしましょうか、上映時間が長いから…」

 ナギはキリのいい場面で映画映像を停めた。


「大作だな、こんな映画が撮れるいいな~」

「そうでもないわ、この映画はド素人が作ったものよ、実際にあった宇宙戦争をテーマにしたドキュメント映像作品なの」

「え、そうなの、凄いな…」

「未来では映画と呼ばないわ…〝イメージコンテンツ〟と言ってね、誰でも簡単に監督になれるのよ」

「へえ、羨ましい~」

「私はそうとは思わないわ」

 その時、ナギの目が鋭くなり、室内に厳粛な空気が漂っていった。そして、一刻は彼女の見解を聞くことにした。


「何か不満が?」

「未来の映像作品は面白みがないわ、技法はありきたり…すぐに飽きてしまうんでね…」

「現代の映画さくひんとの違いは?」

「いくつもあるわ、以前、あなたに観せてもらった映画はどれも素晴らしかった、多種多様な映像演出、作業が丁寧で個性的な作品ばかりだわ」

「そこまで褒めてくれると何だか嬉しいね」

「過去には未来に無いものがある、だから、未来人の過半数は古き良きクラシカルを求めるの、便利すぎるのも難点ネックでね…」

過去ここはそんなに良い時代ところか?」

「まだ慣れないことがあるけれど…生活習慣、食べ物、ファッション、流行など、独特なものが感じられるわ、貴重な体験よ」

 ナギは一刻の質問に対して、率直な意見を述べた。


「成程…それで本題に入りたいんだが、ストーリーはどうする?」

「私は現実味があるものを好みだけど…」

「現代劇か、時代劇…歴史もの…どうするかな」

「私たちにしか撮れない作品を創るのよ」

「あっさりと言ってくれるが、それが難しいんだよ」

「とにかく、あなたの脚本を読んでみて、じっくりと考えていきましょう」

 一刻たちは協力して、大学祭映画の脚本づくりに力を注いだ。


「あなたっていろんな作品を書いているのね~」

 ナギは一刻が執筆した脚本を読んで、独り感心していた。

「今日はよく褒めるな、あくまで趣味の範囲だ」

「この道に進みたいと思ったことはある?」

「そりゃあるさ、趣味を仕事にすることは大変なことだ」

「現実は甘くないってことね…?」

 その時、ナギは一刻の異変に気づいた。彼は一冊の脚本冊子を読みながら笑みを浮かべていた。


「何か面白いことでも書いてあった?」

「いや、昔のことを思い出したんだ、演劇部の頃を…」

「青春だったのね」

「ああ、演劇部の仲間とは長いこと会ってない、たまに電話するくらいだ」

「…幼なじみの皆本雫みなもとしずくさんも?」

「ああ…」

 一刻は一瞬、ナギの前で動揺した反応を見せたが、気持ちを切り替えて、脚本づくりに尽力した。彼らの作業は夜更けまで続くのであった。

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