第3週 4話

年鑑 フューチャー・ウォーカー

WEEKLY 3rd 「ポカ研って何?」


≪16≪


「…何をした?」

「そう、目くじら立てないで…ちょいと細工をしてね」

 一刻かずときは一旦、部活仲間から離れて、ナギの悪事を聞き出そうとした。


 実は大学校舎には特殊な念波が広がっており、その影響で学生や講師、職員、その他関係者はナギのことを在学生と識別していた。なお、一刻は除外対象なので正気を保っていた。


「洗脳みたいなものだけど…健康を害する効力は無いから心配無用よ」

「君ってやつは…1年後輩の意味は?」

「礼儀を弁えることを覚えたの…よろしく頼みますよ、先輩~」

 一刻たちは密談を済ませて、ポカ研の輪に入った。


「…音代おとしろさんはうちに入部した理由とかあるの?」

「え…それは…」

 ナギは英雄ひでおの素朴な質問に対して、困惑する表情を浮かべた。

「こんなオタクが集まる部活サークルなんて興味ないだろ?」

「…それは聞き捨てならないな、野比坂のびざか君!」

桧木ひのき…君?」

 英雄は一刻の何気ない一言が気に入らない様子で、その時、彼に何かのスイッチが入った。

「オタク文化も馬鹿にできないよ、特に日本のアニメ市場は好調でね…海外でも高く評価されてるし…日本が世界に誇れるポップカルチャーに違いないよ、日本アニメはハリウッドの映画産業に匹敵する規模に成長していくだろうね、次にゲームだけど…」

 英雄はオタク文化について、熱く論じていき、聞き手の4人は圧倒されていた。英雄は音声ガイドのようで、自慢げに語っておらず、全く嫌みを感じない、つい聞き入ってしまう力があり、偉人変人の極みに達していた。


「…分かったよ、別に馬鹿にしているわけじゃないよ、ごめん…」

 一刻は眼前の英雄の存在が恐くなり、何故か謝っていた。剛志つよし兼正かねまさも口出しできず、一時、部室は変な空気に包まれた。


「歴史は世の中に刻まれていくけど…文化や流行は簡単に廃れていく…僕たちみたいな人種がオタクの素晴らしさを広げていかないと…もう少し、ポカ研の部員として自覚を持ってほしいな」

「そうだね、君の言う通りだ…申し訳ない」

 英雄の説教で一刻だけでなく、兼正と剛志も反省していた。そして…


「桧木先輩って、かっこいい…」

 ナギは英雄に魅力を感じて、珍しく恋する女性の顔になっていた。英雄の熱弁はまだ続き…


「たかが部活だけど、結構、真面目に取り組んでいるんだよ、中途半端な気持ちで入部するなら…別の部活を勧めるね」

「いえ…入部します、入部させてください!私、映画とかアニメとか詳しくなりたくて…勉強しますのでお願いします!」

 ナギはポカ研の部員に深々と頭を下げた。

「音代さんの気持ちはよく伝わったよ…入部を認めよう」

「ありがとうございます!」

「何?この感じ…」

 ポカ研の部室が和やかになる中、一刻だけ納得していなかった。


「…さて、ポカ研の団結力が高まったところで…本題に入ろうか」

 ポカ研部長を務める英雄が気持ちを切り替えて、場を仕切りだした。


「夏休みも終わり、秋めいてきましたね~」

 兼正が急に芝居口調で喋りだした。

「大学祭に向けて、を考えないとね…」

「今年はどんな映画を撮るんだ?」

「映画?」

「うちは大学祭に合わせて、映画をつくっているんだ、完成したら、文化祭当日に上演するのさ」

 一刻がナギに議論内容を説明した。


「どんな映画を撮るか決めていこう」

「ハロウィンの季節だし…ホラー系の映画とか…」

「前に撮ったと思うけど…同じテーマは面白くないよ」

 剛志の案は却下された。

「…SFはどうだろ?宇宙人とか怪獣とか登場するような…」

一刻カズは相変わらず幼稚ガキだな」

 剛志が嫌みをぼやいた。

「うーん、面白いと思うけど…特撮は手間とお金がかかるからね」

 一刻の案も却下となった。大学祭で上映する制作映画はなかなか決まりそうになかったが…


「和ちゃんを主役にした映画を撮りたいな~」

「え…私?」

 兼正の下心見え見えの案は果たして通るのか、こうして、ナギが加わって、奇想天外な大学生活スクールライフが始まった。

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