第3週 2話

年鑑 フューチャー・ウォーカー

WEEKLY 3rd 「ポカ研って何?」


≪14≪


「何でここに来たんだ?勝手に外出するなよ!」

「ごめん、暇だったからつい…」

 ポップカルチャー研究部の部員たちにとって、一刻たちの会話は聞き捨てならなかった。


「おい、まさか…お前たち付き合っているのか?」

 一刻に質問している部員の名は、郷田 剛志ごうだつよし。色黒大柄の体育会系、意地悪な性格でよく一刻をからかっているが、友達思いの一面もある。

 ちなみに、剛志はポップカルチャー研究部の他に、かけもちでラグビー部に入部している。彼の渾名ニックネームは〝大将〟。


「…何か同棲しているような言い方だったな」

 そう言ったのは、兼正だった。一刻は部員たちに責められて、部室から逃げられない状態であった。

「確か、恋人いたよね…別れたの?」

「いや、違うんだよ…桧木ひのき君」

 ポップカルチャー研究部部長を務める男子大学生の名は桧木英雄ひのきひでお。彼は学業成績優秀、運動神経抜群、容姿端麗の誠実な優等生であった。言うまでもなく、英雄がポップカルチャー研究部の中で一番モテる。


「そうだ、女優を目指しているカノジョがいたじゃないか?」

「皆、僕の話を聞いてくれ…彼女は…」

「…お隣さんよ」

 一刻がまともに話せない中、ナギがフォローに回った。

「そ…そうだよ、同じアパートに住んでいて…勿論、部屋は別だ」

「引っ越してきたばかりだから、いろいろと

「それはいやらしい意味ではなくて?」

 兼正が意地悪な質問をした。


「いい加減にしろ!単なる友人だ」

「…そうだよな、何かほっとしたぜ」

 興奮状態の男性部員たちは、ようやく落ち着きを取り戻した。


「…ここってどういった活動をしているの?」

「いわば…娯楽を楽しむ場所だよ」

〝ポカ研〟の部長を務める英雄がナギに説明しだした。彼らの部室内を見ると、名作、大作、珍作の映画作品VHSビデオ、洋楽、邦楽のCD、漫画雑誌、ゲーム機、当時流行った玩具などが置かれていた。


「一…野比坂君の部屋と似ているわね…」

「彼は洋画、邦楽、アニメ、ドラマ専門でね…」

 ポカ研の部員たちには、それぞれ得意分野がある。

 兼正は主に、ゲーム関連、玩具、洋楽、日本の芸能界など。ちなみに、父親の仕事の関係でがある。

 剛志は主に、スポーツ全般、アクション映画、日本漫画など。

 英雄は専門分野が幅広く、映画、舞台、小説、音楽、スポーツ、テレビ、ゲームとあらゆる知識がある。


「へえ~なんだか楽しそうね、入部したいかも…」

「あなたはここの学生じゃないんだよね?」

「細かいこと気にすんなよ、俺は歓迎だぜ」

 英雄は一矢の意見に賛同できなかった。

「…女性部員は就職活動とかで辞めちゃったからね、募集しようと思ってたんだけど…」

 兼正はそう言って、ナギに自作の宣伝ポスターを見せた。

「うーん、じゃあ仮入部ということで…入部届は出せないからね…」

「悪いね…彼女、我がままだから…」

 一刻は英雄に陳謝した。ナギとポカ研の部員たちは距離が縮まり、楽しい時間を過ごすのであった。

 それから数時間後…


「皆、ありがとう…さようなら」

「また来なよ、むさ苦しいところだけど…」

 ナギはゆかいな仲間たちと別れるが、気まずい空気が渦巻いていた。


「はあ…」

 一刻は深く溜息をついた。

「どうしたの?元気ないね」

「まさか、大学で君と出会うとはな…もう来るなよ」

「あなたの友達が誘ってくれたわよ」

「いちいち真に受けるな、やれやれ…」

 一刻は疲れ果てた表情でナギと共に大学校舎を出た。


「もう帰るの?」

「ああ、バイトもないしな…ところでどうやって来たんだ?」

「まあ方法はいくらでもあるわ」

「例の秘密道具か…あまり使うなよ、目立つから…」

「分かっているわよ、帰りは電車で帰るわ」

「時間をずらすか、別の車両に乗ってくれ」

 一刻は口論する気力がなく、ナギと距離を取って帰宅しようとした。

 その一方で…


「また面白い場所を見つけちゃった~」

 ナギは全く反省していない様子で、嬉しそうな顔で一刻が通う大学をじっと見ていた。ナギが加わった学生生活は始まったばかりであった。

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