第2週 6話

年鑑 フューチャー・ウォーカー

WEEKLY 2nd 「ポカ研って何?」


≪12≪


「最初に使った道具は〝プレス・ラッカー〟と言ってね…」

 プレス・ラッカーは特殊な成分の塗料で、物体を圧縮する効果があり、解凍して、元の状態に戻すことも可能。


「なるほど…それで…その箱は?」

「〝クリーナーボックス〟って道具よ」

 クリーナーボックスは、圧縮した物体を原子レベルまで分解、さらに消滅させることが可能。


「そんなことが…確かに業者は要らないな」

 一刻かずときは未来の科学力に驚きながらも、納得する姿勢を見せた。


「私が住んでいた24世紀では〝ごみ〟は存在しないの、必要なくなったものを処理するのは自己責任よ、資源ごみリサイクルから新たなものを造る技術があってね…」

「確かに…環境破壊を取り上げている番組を観たことあるが、真剣に取り組んでいないような気がするよ」

 ナギがこの時代に来て、まず驚愕したことは空気の汚染よごれだった。


「ごみ問題の他に、森林伐採、資源エネルギーの浪費、有害なガスの放出…原因は多々あるでしょう」

「僕たちのことを哀れと思って構わないよ、ちゃんと生きているからね」

「未来では、ごみの不法投棄は重罪でね、罰金では済まない場合が…極刑、もしくは、流刑に処されるわ」

「例の…無人の星に送られる刑だな、恐ろしや~」

 一刻は未来のごみ事情を知った後、ナギと外に出ようとした。


 一刻の地元は東京郊外のニュータウン<清水塚町しみずづかちょう>、日本の高度経済成長期に再開発された中小都市である。

 裏山と東京湾に繋がる河川があり、人口は約20万人。空港が近く、交通機関は充実しており、モノレールは、町全体を一周出来るよう運用されている。


 駅ターミナルを出ると、大きな公園があり、中央部の噴水広場は待ち合わせ場所で、夜はカップルの溜まり場となる。

清水塚公園しみずづかこうえん>近辺には教会が建っており、その裏の丘は高山だったが、再開発の影響で山肌が削れていき、すっかり小さくなっていた。

 丘の付近には一軒の家屋があり、老夫婦と雑種犬1匹が住んでいる。


「…ここにしたわけか」

「ええ…余計な障害物ものがないし、人目につかないでしょう?」

「どうかな?…ここにも住民がいるからな」

「そういえば、犬に吠えられたわ」

「ミカン農家で生計と立てている夫婦がいてね…子供の頃、裏庭のミカンを盗んでよく怒られたよ」

 ミカン農家の老夫婦は、再開発に猛反対し続けて、土地を買い取り、立ち退かずにずっと棲みついていた。


「散歩はこの辺にして、そろそろ帰るか?」

「ええ、でも寄り道したいわ、喉が渇いてきたし…」

 ナギがそう言うと、一刻は仕方なく従った。


 一刻たちが住む雑居住居1階は、<mii>という喫茶店で、彼の親戚夫婦が営んでいる。


「いらっしゃい、まあまあお揃いで~」

 一刻はいちいちナギとの関係を説明するのが面倒くさいのか、黙って特等カウンター席に座った。

「アイスコーヒーお願いします~」

「はいはい、カズ(一刻)ちゃんはどうするの?」

「僕も彼女と同じものを…」

<mii>の接客は、一刻の叔母にあたる美衣みいが主に務めていた。


「ふん…」

 奥の厨房スペースにいる不愛想な男は、一刻の叔父にあたる隼人はやとだった。両親を亡くした一刻にとって、彼は親代わりといえる。ナギともすっかり仲良くなり、店内は和やかなムードに包まれた。


「夏休みはいつまで?」

「授業は来週からなんですが…明日、サークル活動があります…」

音代おとしろ(ナギ)さんは?」

「私は特に予定は…留守番で~す」

 一刻たちは美衣たちと雑談した後、2階の自室に帰って行った。


「じゃあ、明日は大学がっこうに行ってくるから…」

「学生は色々と大変ね~」

「君はゆっくりしてろよ、僕の許可なしで、勝手に外出するなよ」

「はいはい、大人しくしてますよ」

 一刻はナギのことが信用出来ずにいた。

 かくして、二人の新たな生活の幕が開かれようとしていた。

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