第2週 2話

年鑑 フューチャー・ウォーカー

WEEKLY 2nd 「未来人ですが、お世話になります」


≪8≪ 

 


「君がを選んだ理由は?」

 一刻かずときとナギの質疑応答は続いた。


「20世紀から21世紀は特に人気があってね、その中でも戦争がない時代や国…日本の評価は高いわ」

「うーん、まだ納得できないな、僕と会ったのはか?」

「ええ、この町は住みやすそうだし…あなた、面白いし…あなたしか友達いないしね…」

「友達になった憶えはないけど…滞在期間は決まってるのか?」

「仮居住期間は1年よ、更新・定住権の契約は、専門機関との交渉で決まるわ」

「あっそう…あの…念のために訊くけど、僕に気があったりするのかな?」

「それは恋愛感情があるってこと?」

「ああ、やたら僕に付きまとうから…」

「ないわよ…別に…」「………」

 一刻は少しでも期待した自分を恥じて、一瞬で撃沈した。


「はっきりいって、恋愛とかよく分からないのよね…男性の友人はいるけど、恋までに発展したことはないわ」

「え?今まで恋愛経験がないってことか?」

 一刻はナギの発言が衝撃的すぎて、声のトーンがおかしくなった。


「別に未来では珍しいことじゃないわ、結婚する必要ないし…私の友人や知り合いも交際経験がないから…独りでも落ち着くしね…」

 一刻はとてつもない価値観のずれを感じ取り、唖然とした顔でしばらくナギを見ていた。

「デートもしたことないとは…確か歳は63だよな?」

「そんなに驚かれると何か腹立つわね、あなた恋愛経験は?」

「え…そりゃありますよ、モテないけど、恋の1つや2つ…」

 一刻はナギの質問で一変して、異常なほど動揺していた。


「…そういえば、あなたの友達が言ってたわね、お前は一途だって…今、付き合っている女性ひととかいるの?」

 ナギは気になっていたことを吐き出して、一刻の返答を待った。

「君には関係ないことだ…そろそろ失礼するよ」

 一刻のペースは乱れ始めて、明らかに動揺していた。彼は自身の恋話を拒んだが…


「この部屋にあなたの恋人が住んでいたんでしょう…」

「え?」

 その時、一刻はナギの発言が上手く聞き取れなかった。


「名前は皆本雫みなもとしずく…幼なじみでしょう?」

「何故、そんなことを知っている?」

「私は未来人よ、余計なことを言われたくなかったら、自分から話すことね…さあ、どうする?」

 一刻は恫喝おどしとも取れるナギの言動に怖気づき、観念して話すしかなかった。

 

 かつて、ナギの入居室には一刻の恋人、雫が住んでいた。彼女は一刻の幼馴染、幼稚園から小・中・高までの学生生活を共にした。

 一刻たちは中・高校生時代、演劇部に所属しており、文化祭などで彼らが手掛けた舞台作品が上演されると、在学生の他、教師や父兄にも評判が良かった。お互い良き青春時代を送ったわけだが…


「高校卒業後は別の道を歩んだ、僕は大学に進学、彼女は専門学校に…管理人マスターが同棲を許してくれるわけがなく、別々に部屋を借りて生活してたんだ」

「彼女がこの部屋を出て行ったのは何故?」

「専門学校卒業後、就職せずに役者になると宣言いいだしてな…親の反対を押し切って、そのまま出て行ったんだ」

「彼女の居所は知ってるの?」

「役者を志して、大御所ベテラン俳優が創った都内の有名な養成所に通ってるよ」

「あなたたちは別れたわけじゃないのね?」

「まあな、彼女の夢を優先して、少し距離を置いているだけだ」

「話してくれてありがとう…まだ、この時代に不慣れだから、分からないことがあったら助けを求めに行くかも…」

「無理難題を吹っ掛けるのは止めてくれよ…さいなら」

 一刻は疲れた表情で、自身の住居室に帰って行った。そして…


「ふー………」

 ナギは一刻が去った後、深く溜息をついて、普段見せない表情を浮かべた。彼女は何かを模索しているようだが、今のところ、解き明かされる予定はなかった。

 こうして、時空を超えた男女の奇妙な生活が始まった。

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