第14話 前世の敵が現れる
「リーザは本が好き? 僕も物語を読むのが好きなんだ。おすすめの本を教えてよ」
リーザは俺を小脇に抱えながら、一冊の本を差しだしてきた。「公爵令嬢の秘密のバラ園」というタイトルで、表示には金髪の王子様と、赤髪の女の子の絵が載っている。
貴族の家で妹や両親に虐げられてきた不遇の姉が、王子様に見染められて幸せになりました、というおとぎ話と説明してくれた。女の子はこういうストーリーが好きだよねぇ。
「この王子様がね、スパダリなの」
「へ、へぇ~。スパダリってなに?」
「スーパーダーリンのことだよ。カッコよくて性格がよくて、結婚したくなっちゃう、王子様のような男の子だよ。アレク知らないの?」
ついにスパダリの意味を知った!
でも今度はスーパーダーリンの意味がわからないぞ。カッコよくて性格がいい男の子がスーパーダーリンなのか!?
そんな男の子いるかなぁ……。性格だけなら、友人のほとんどが当てはまるけど。カッコいい……あえていうならうちの兄貴とか? でもあの男と結婚したいかと聞かれれば微妙……。
「そんな男の子に会ったことないからなぁ。でもどこかにいるかもしれないね」
子供の夢を壊しちゃいけないので無難な答えを返しておく。
「アレクは違うの?」
「え? 僕は全然スパダリじゃないよ。カッコよくないし、性格だってそんなによくないし」
今日は好きな女の子の前で中二病発言しちゃうし、馬車に酔って吐いちゃうし、いきなりぶっ倒れちゃうし。全然カッコよくない……。
「そうなんだぁ。でもアレクならスパダリじゃなくてもいいよ」
おっと。惚れられてしまったのか。なぜか俺は友人の妹からは受けがよい。決してロリコンではないのだが。
リーザは淡い金髪が魅力的な女の子だ。少し痩せているが、ここでたっぷりと食べれば将来は可愛いレディになれるだろう。
時を超えてシンシアに会った気分だ。
「アレクはどんな女の子が好きなの?」
「えーと、笑顔が可愛くて、あと……髪が綺麗な子がいいな。後で僕が開発した綺麗な髪になれるトリートメントをここの施設にプレゼントするよ」
猫人間はやたらと毛並みにこだわりがあり、その関係で髪も大切にする。
俺の本職は魔道具師だが、薬師の免許も持っている。こっそりとトリートメントも開発していたのだ。
子供にトリートメントはいらないだろって思われるだろうが、女性は子供のころから女性なのだ。国元にアレク印のトリートメントを定期的にここに寄付するようにお願いしておこう。
「ありがとう。私、がんばるね」
リーザはにっこりと笑った。うん、笑顔は可愛いはクリアだ。
「リーザ、人生はつらいことの連続だ。嫌なことも多いけど、君のその笑顔があれば大丈夫だ。必ず助けてくれる人が現れる。ここの施設長さんもだし、僕もその一人だ。君は一人じゃない」
スリスリとリーザに頭をこすりつけた。幸運が宿るおまじないだ。
火事で家族を失った悲しい思いは俺にはわからない。似たような思い出は前世ではあるが、完全に同じじゃない。リーザの苦しみはリーザにしかわからない。
でも一緒にいて癒すことはできる。
「……やっぱりアレクはスパダリだよ」
そう言って俺を抱きしめながらリーザは泣きだした。もしかすると、ちゃんと泣くこともできていなかったのかもしれないな。
俺はたくさんスリスリをした。悲しみが少しでも癒えますように。そして幸せな人生を歩めますように。
◇◆◇
人間に戻り、リーザと手を繋いで庭まで行こうかと思った。そこには缶蹴りをして遊ぶ子供たちの姿がある。そこにケネトやサファリ、アリスンたちもいる。
廊下を歩いていると、角の向こう側からナタリーと男性の話し声が聞こえる。その声を聞いた瞬間、心臓が止まるかと思った。
「安心していい。また私がここを監督するから」
媚びたような、甘ったるい声。そこにナタリーが震える声で反発している。
「あ、貴方は警備団の方に異動されたと聞きました。真偽を確かめるまではここに来ないでいただけますか!?」
「真偽? 何を言ってるんだね君は。ここに任命書があるだろう」
足音がこちらに近づいてくる。男が角を曲がった時、俺とリーザと対峙した。男は舐めるような目でリーザを眺めた。
「やぁ、君が新しく来た子だね」
怯えるリーザをとっさに背中に庇った。
「そ、その子に近づかないでくださいッ!」
ナタリーが鋭い声をあげる。
頭が痛い。先ほどよりも強い痛みが脳内に走る。
「アレク? ど、どうしたの?」
リーザが頭を押さえて震える俺を、心配そうな眼差しで見上げてきた。しゃがんでリーザを強く抱きしめた。
こいつがここの監督? 施設長になるってことか!?
「君、ボランティアの子でしょ? その子を離しなさい」
男が近づき、俺の肩に手を置いた。瞬間ぞっとした。
そうだ。シンシアはこいつに無理やり森にまで連れて行かれたんだ。当時、こいつは施設の監視員の一人だった。
シンシアに、こいつが何をしていたのか。
目の前が真っ赤に染まったあの時、前世で初めて魔力が目覚めた。その瞬間傍にいたのがこいつだ。俺はこいつに攻撃魔術を撃ったんだ。
その後のことは覚えていない。目を覚ました時、独房にいた。懲罰を与えられたんだ。そしてシンシアは?
俺は、何をしにここに来た? 来る前になんて大口を叩いたんだ?
俺が子供たちを救うんじゃなかったのか?
この瞬間、リーザを逃がすのは俺だけでもできる。しかし、未来永劫こいつを追放するのは俺だけでは無理だ。
――ケネト、サファリ! 助けてくれ……!
思念で二人に呼び掛けた。そして頭痛を堪えて立ちあがる。
「ごめん、リーザ。頭痛くなっちゃった。医務室へ連れて行ってくれるかな」
にっこりとリーザに笑顔を向けて、男にも愛想笑いを返す。
「すみません、この子に医務室に連れてってもらいますので。今後、ここの施設長になるんでしょう? この子への挨拶は後でもいいじゃないですか」
「あ、あぁ……そうだな」
男は俺にも愛想笑いを浮かべた。俺の髪色から、刺激をしてはまずい外国王族だと感じたのかもしれない。大人しく引き下がった。
もうナタリーはこの男の本性と目的に気が付いている。すれ違う時に耳元に囁いた。
「こいつを二度とここに近寄らせない。俺たちが永久追放します」
------------------------------------------------------------------
※次話でアレクが小児性愛者のこやつをハニトラにかけます。
R15のソフトな表現にはしますが、若干気持ちの悪い性描写が入りますので苦手な方はスキップをお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます