第62話 這い寄る混沌



 千曲川を拷問することになった俺。

 といっても、無間地獄は使わない。あれはコストがデカいからな。


 単に痛みを与え、そして無傷で直す。

 このスキルがある限り、延々と地獄は続くんだと思わせることで、精神を摩耗させる。


「ゆるしてぇ~……ゆるしてくださいぃ……もう痛いのは嫌なんですぅ~……」


 腰抜け千曲川が涙を流しながら、俺に懇願してる。

 やはりな。地球に居るときからこいつは雑魚だった。


 木曽川って言う虎の威を借る狐でしかなかった。

 だから、ちょいとつつけばすぐに根を上げるとわかっていた。無間地獄を使うまでもなく、べらべらしゃべるだろうとは思ってたよ。


「んで、あの女神について、何を知ってる?」

「あーしらに力を与えた?」

「そうだ。何知ってる? 嘘ついたらわかってるな?」


 千曲川が怯えた表情で言う。


「あ、あーしみたいなBラン勇者とは、ほとんど関わりないよ。女神はAラン以上の勇者にしか興味ないから」

「ほーん……木曽川とか?」


「あいつはS。泥川がAかな」

「知ってる限りのSとA教えろ」

「は、はい……」


 Sランク勇者は木曽川を含め、3人。

 Aランク勇者は泥川を含め、10人。

 それ以外がBランク勇者だそうだ(22人※俺を除く)


「木曽川以外のSは?」

洗馬せば神坂みさかだよ」


 神坂みさかさん……やはりSランクだったか。

 洗馬? ああ、神坂みさかさんの友達のハーフの女か。確か、親戚が有名なアニソン歌手で金持ちとかなんとか。


 木曽川、洗馬、神坂みさかの三人がS。

 Aランクは4人。あとはBの雑魚。


 Bは、本当にたいしたことない。味噌川みそがわと千曲川と戦って確信を得た。

 こいつら、神器を奪われたらたいしたことない連中だ。


「AとSは強さってどんなもんなんだ?」

「Aは、強いよ。神器抜きでも結構強い。Sは……別格。特に神坂みさかはヤバい」

「ヤバい?」


「ああ。ヤバい。あれは……正直人間じゃない」


 神坂みさかさんそんな強いのか……。


「木曽川とどっちが強い?」

「わかんない……神坂みさかは軍に所属してはいるけど、ほとんどあーしらの前に現れないんだ。洗馬とツーマンセルでなんか別の任務付いてるっぽい」


 ……なるほど。

 まあ、神坂みさかさんをどうこうするつもりはないから、別にいい。

 

「木曽川はどこだ?」


 あいつが多分一番女神に近いだろう。

 女神は、強いやつがお気に入りっぽいからな。


「今は、神聖皇国にある、勇者軍本部にいるよ」


 クラスメイト達を召喚した国、神聖皇国。

 そこに軍の拠点がある、か。


「他に女神について何しってる?」

「女神の名前……かな」

「おお! なんでそんな重要そうな情報知ってるんだ?」

「木曽川から聞いたのよ」


 なるほど。 

 腐っても恋人か。


「教えろ」

「お、教えたらあーしを、解放してくれる……?」


 

 抜ける情報は抜けきったしな。


「ああ、いいぜ。解放してやるよ」


 ほっ、と千曲川が安堵の息をつく。


「女神の名前は……【這い寄る混沌】」

「……ふざけてるのか?」


「ふ、ふざけてないわよ! 女神は本名を言わなかったのよ。多分、警戒してるんじゃないの?」


 ……まあ、そうか。

 人前に出るより、人を操るタイプっぽいしな、あのクソ女神。

 名前くらい隠すか。


「這い寄る混沌は……異名みたいなもんか。本名は木曽川でも知らないのか?」

「た、多分……」


 知ってて言わないのか、そもそも知らないのかはわからんが。

 しかし、いいぞ。手がかりは得た。


 殺すべき標的の名前(異名)。

 そして……次なるターゲットの居場所。


「ありがとな。役に立ったよ」


 ホッ……と千曲川が安堵の息をつく。

 その頭を、俺は左腕でがしっとつかむ。


「ご注文通り、おれの恐怖から解放してやるよ。【無量大数】」


 無限の情報を直接千曲川の頭にたたき込む。

 千曲川の脳はクラッシュし、その場にくたりと倒れ込む。


 松代まつしろ 才賀さいがが生きてるって情報を、敵側に伝えてしまう可能性があるからな。

 だから、こいつには廃人になってもらったわけだ。嘘は言ってないぜ? ちゃんと解放してやったからな。


 

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